シーズンⅤ 第十話 救済
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回は千石先生の回想を書かせていただきました。
今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
~地下実験室~
俺と、クロエ、アリア、エレナ、そしてジークフリートとカイルが取り囲む中、千石は自分がこの世界にたどり着いた経緯を語り続けていた。
俺が異世界から転生した人間だという事実に、皆驚いた反応を見せた。
だが、自らの悔恨を語る千石の姿は、疑念を抱く余地すら与えずに俺たちを引き込んでいた。
「ルミナは私たちに言った。覚悟があるのなら、彼を救うチャンスをもう一度与えます、と。ただ、この世界に転移させることができるのは残念ながら一人だけだと告げられた。」
千石は続けて言った。
「私はご両親こそ君に会うべきだと説得した。だが、君のご両親はこの世界に来る権利を辞退したんだよ。『君の苦しみに気づいてやれなかった私たちには、君に会う資格がない。』って言ってね。」
俺は息を呑んだ。
生前、その手をとることができなかった先生だけでなく、俺の両親も俺の死をそこまで悼んでくれていたのか。
その気づきに改めて胸が締め付けられた。
「私はご両親からバトンを授かりこの世界にやってきた。時間軸でいうと君がこの世界に転生する一年ほど前の時点だった。だが、すぐにおかしなことに気が付いた。実験で使用する薬を仕入れるために訪れたアソシラス村で会った門番の男が、学校の警備員と同じ顔だったからね。」
俺は自分たちがアソシラス村に着いた時のことを思い出した。
門番の男は確かに警備員と同じ顔をしていた。
でも、なんで——。
「私はルミナに願った。『君を救える存在になりたい』と。ルミナのサポート期間である三か月の間にこの世界の仕組みを、私は徹底的に研究した。そしてある仮説にたどり着いた。この世界の一部の人間の外見は、私や羽沢君のような外界から来た人間にとっては”未確定”の状態なのだろう。そして、初めて異世界人に観測された時点で、その人の記憶に基づいて外見が補完されて確定されるという仮説だ。」
俺の頭に衝撃が走った。
そう考えればすべて説明がつく。
門番の男に会ったとき、生前それほど深いかかわりのなかった警備員の顔がなぜここで使われていたのか。
それは自分が門番の男と会う前に、先に千石先生が門番の男と会ったことで、その外見が『千石先生の記憶』に基づいて確定されたためだとしたら——。
「この仮説が正しいとしたら、羽沢君。君の周りの人間は君を苦しめた人間の外見になりかねない。君はこの世界に来ても、過去の記憶に縛られて生きていかざるを得ない。そんなことは絶対にあってはならない。だから私はルミナのサポートが有効なうちに、ルミナとともにこの術式を完成させたのだよ。」
千石は続けた。
「ちょっと待って。レオンを苦しめた人間の顔って。」
ここで、反応したのはクロエだった。
千石は話を中断して、クロエの方を見た。
千石はつづけてアリアとエレナ、そしてジークフリートの顔を見ると、意を決したように話し始めた。
「君たちも知っておいたほうがいいだろう。これが、君たちの顔が持つ真実だ。」
千石は懐から一枚の写真を取り出した。
——よせ、やめろ!
俺は千石先生を止めようとしたが、千石先生がクロエたちに写真を渡すほうが一瞬、早かった。
「あ.............。あ...........。」
クロエは絶句していた。
その写真を覗き込んだアリアもエレナも、ジークフリートも顔色を変えて、皆一様に言葉を失っていた。
写真にはレオン、もとい「羽沢蓮」が泣いて必死に許しを乞う姿と、その背中を踏みつけたジークフリートもとい「吾妻翔也」の姿が映っていた。
その後方にはその姿を笑いながら見下ろす、クロエもとい「稲木凛花」と、アリアもとい「倉見麗子」と、エレナもとい「高坂優衣奈」の姿も映っていた。
――自分と同じ顔をした人間が、自分の大切な仲間をいたぶっている。
あまりの光景にクロエは涙をぽろぽろとこぼし、アリアは青ざめた表情で目をそらし、エレナは口に手を当てて吐き気を催していた。
「なんだよ..............、これ。いったい何なんだよ.............!」
ジークフリートは両手を震えさせて呻いていた。
カイルも悲痛な表情で写真から目を背けていた。
すまない、みんな。
それが、俺がずっと隠していた”真実”なんだ。
俺は写真を通じて自分のトラウマが呼び起こされるのと同時に、自分の心の弱さが大切な仲間を深く傷つけてしまったことに、この上ない罪悪感を抱いていた。
「これでわかっただろう、羽沢君。ここにいる彼女たちには何の罪もない。君ももうこれ以上過去に縛られて苦しむ必要もない。私の編み出した術式は必ず君をこの苦しみから救い出せるはずだ。」
千石は魔石の山を振り返った。
「この術式は、発動すればこの世界にいるすべての人間の記憶を書き換えることができる。もちろん羽沢君、君の記憶もだ。君はあの穢れた世界の記憶をすべて消して、初めからこの世界で生を授かり、この世界で生きてきた人間として生まれ変わるんだ。君は本当の異世界人になるのだよ。」
千石はそう続けていた。
あまりの展開に俺は頭の理解が追い付かなかった。
他国を圧倒する新兵器の研究。
それは千石先生が活動資金と術式の発動に必要な魔石を得るために、国軍に持ち掛けた方便だったということか。
俺なんかのために、世界を敵に回して、たった一人で国を欺いてこんなことまで———。
「ありがとうございます。先生。」
俺は頭を下げて言った。
「でも、ごめんなさい。あなたのその話には乗れません。」
間髪入れずに、俺ははっきりとそう申し出た。
第十話もお読みいただき、ありがとうございました。
三連休に合わせた四話連続投稿も、今日で最終日です。
シルバーウィークから連載を始めた、この物語もとうとう完結を迎えます。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうござました。
レオン達の冒険譚の終着点を、ぜひ最後まで見届けていただきたいと思いますので、本日もよろしくお願いいたします。
本日(2026年10月12日)の公開スケジュールは、以下の通りです。
① 7時10分:第十話公開
② 12時10分:第十一話(最終話)公開
③ 17時10分:エピローグ1公開
④ 21時10分:エピローグ2公開
この物語が面白いと思っていただけた方は、是非、高評価・感想・ブックマーク等をいただければと思います!




