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シーズンⅤ 第九話 悔恨

 こんにちは。作者の「野生の書生」です。

 前回はローブの男とレオンの対面を書かせていただきました。

 今回はその続きからです。


 本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。

 主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。


 この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。

~千石の回想~

 放課後の校舎内、何気なく廊下を歩いていた千石は教室の席で一人残っている羽沢蓮の姿を見つけた。

 

 「羽沢君。下校時間は——」

 そこまで言いかけた時、そこから先の言葉を千石は飲み込んだ。

 茫然自失として、自分の机に視線を落とす羽沢の姿にただならぬ気配を感じたからだった。

 

 「羽沢君。大丈夫かい。」

 千石は教室の中に入っていき、声をかけた。

 羽沢は千石の声を耳にしてもおびえたウサギのように背中を丸めて震えていた。


 「羽沢君。何か悩みがあるのなら、先生でよければ——」

 千石はつづけた。

 だがそこで、羽沢は立ち上がった。


 「なんでもありません。すみませんでした。」

 羽沢はそう続けると、机のわきから鞄をひったくるように取り、そそくさと教室を出て行ってしまった。


 あとに残された千石は違和感を通り越して、頭の中に警報が鳴っているのを感じていた。

 羽沢が座っていた席に目を向ける。

 別段なんの変哲もない、ほかの生徒の机と変わらない羽沢君の席だ。


 だが、もしも———。

 いけないことだとは千石もわかっていたが、この胸騒ぎを前に千石は確かめずにはいられなかった。

 羽沢の机の引き出しに手を入れて中身を引っ張り出す。

 そこから出てきたのは無数のごみと、大量の落書きがされた教科書や破かれたノートだった。

 その光景に千石はこれまでにない戦慄を覚えた。

 

   ◇


 千石は職員室に駆け込むとすぐにクラス担任と校長に直談判をした。

 羽沢蓮はクラスでいじめに遭っている——。

 だが、彼らの反応は鈍いを通り越して、なしのつぶてといったところだった。


 千石はこのままでは彼の身が危ないと思い、何度も羽沢に声をかけたが、その反応は日に日にか細くなっていった。


 そんな中、職員室に衝撃の知らせが入った。

 羽沢蓮がコンビニで万引き未遂をして補導された、と。

 千石は事の顛末を瞬時に察していた。

 

 万引き未遂事件を受けて、羽沢の立場は、クラスはおろか学校内でも危うくなっていた。

 こうなったら、第三者機関に訴えてでも彼の身に起きていることをつまびらかにしなければならない。

 千石はいじめの証拠を集めるべく、学校の警備員から、近所のお年寄り、彼が万引き未遂をしたというコンビニの店長などを当たって、片っ端から証言を集めていった。


 そんな中、SNSでいじめの現場をとらえた写真がアップロードされていたのを偶然千石は発見した。

 吾妻、稲木、倉見、高坂。主犯格の人間に加えて、いじめに加担していると思われる人間を調べ上げてリストアップしていった。

 証言に加えて、証拠能力はないかもしれないが、独自に証拠写真も撮りためて、第三者機関を動かすのには十分な量が集まってきていた。

 いじめの現場を目撃した際、すぐに止めに入らずシャッターを切る自分に嫌気がさしていたが、それももうすぐ終わるのだ。



 そう思っていた矢先、懐の携帯電話に着信があり、応答した千石は信じられない知らせを受けて手にしていた鞄を取り落とした。


 ――羽沢蓮が亡くなった。


   ◇


 葬儀は近くの公民館で行われた。

 大雨の日の土砂崩れに巻き込まれての事故死。

 自殺でこそなかったが、自分が集めた証言も証拠写真も、もはや彼を救うことはできなくなった。

 

 もしかしたら自分が写真を撮っている間に、無理にでもいじめの現場に割り込んでいれば、結果は違っていたのではないか?

 そんな想いに押しつぶされそうになった時、千石はさらに胸が悪くなる光景を目にした。

 吾妻ら主犯格の人間が、まるで親友を亡くしたかのように目に涙を浮かべて、彼の両親に挨拶をしていたのだ。


 ——ふざけるな。

 お前らに羽沢君を弔う資格なんかない。今すぐこの場から出ていけ。


 そう叫びたかったが、千石はその意味では、自分もここに参列する資格はないのではないかと思えてきた。


 自分の無力感にさいなまれる中、夢遊病のように葬儀会場を後にした千石は、気づいたら羽沢の自宅に向けて歩いていた。


 それは目的を見失った千石の精神が、無意識に次の目的を求めて千石の体を突き動かした結果かもしれなかった。


   ◇


 千石は羽沢の家の前で立ち続けていた。


 どれくらい待っただろうか。ほどなくして羽沢の両親が喪服姿で失意の表情のまま帰宅してきた。

 千石は羽沢の両親に「息子さんの死の真相をお話しします。」と伝えた。

 羽沢の両親は呆気にとられたような顔になった。

 

 両親は顔を見合わせていたが、千石のただならぬ様子に何かを感じたのかリビングへと通してくれた。


   ◇


 「これが、息子さんが生前苦しめられていた証拠です。」

 千石は自分が撮り集めた写真やSNSから入手した記録、近所の人の証言などを両親に示した。


 証拠資料を見て、泣き崩れる両親の姿を前にして、自分は自己満足のためにとんだ残酷な行為をしているのではないかと思った。

 それでもこうせずにはいられなかったというのも、千石にとってはまぎれもない事実だった。



 「私が集められた証拠は、これですべてです。つらいかもしれませんが彼の携帯電話や日記など、もしも彼の身に起きたことを証明できるものが他にもあれば——」

 千石が言い切る前に、父親が千石の両肩をつかんで前のめりになって声を重ねてきた。


 「私たちは何をすればいいですか。」

 両肩に置かれた父親の手は怒りと悲しみに震えていた。


 父親の気迫に気おされて、何から答えていいかわからなくなりかけたが、千石は両肩に置かれた父親の手を取ると、自分の胸の前に持っていった。


 「一緒に戦いましょう。」

 千石は父親の両手を握りしめながら、その目をまっすぐに見据えて言った。


 ——その時だった。

 リビングに場違いな光が降り注ぎ、一人の女神——ルミナが三人の前に姿を現したのだった。


 第九話もお読みいただき、ありがとうございました。


 三連休に合わせた四話連続投稿も、明日でいよいよ最終日です。

 この物語の完結を、是非最後まで見届けていただければと思います。


 次回は2026年10月12日7時10分に公開予定です。


この物語が面白いと思っていただけた方は、評価や感想、ブックマーク等で応援していただけたらと思います。

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