第四話 強さ(前編)
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回の第三話と「幕間」で、いよいよレオンとクロエは王都に向かって旅立つことになりました。
引き続き、第四話をお読みいただけたら幸いです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
集落を出発してから二日が経ち、俺とクロエの王都に向けた旅路は続いていた。
集落を出るとき、例の老人から『住人みんなからのお礼』としてまとまった金貨を差し出された。
俺は受け取るべきか迷ったが、今後の旅路を思うと無一文のままでいるわけにもいかないことから結局、その好意をいただくことにした。
——代わりに俺が持っていた魔物の素材のうち、確実に換金できそうなものをいくつか老人に渡すことにした。
おかげで毎晩野宿することは避けられたが、正直、俺はいまだにクロエの顔を見ると動揺してしまう時があった。
クロエは俺のそんな様子に気づいているのか、持ち前の子犬のような人懐っこさを見せる一方で、俺との距離の取り方を図りかねているようでもあった。
俺とクロエがとある村の中を通り抜ける道を歩いていたところ、どこかから
「おーい。魔力なしのノロマ!」
「やれるもんならやり返してみろよ!」
と複数の子供のはやし立てるような声が耳に入ってきた。
悪意のこもった声に俺の体は一瞬硬直したが、俺はその声がした方に視線を向けてみた。
視線の先には、ひとりの少年が背中を丸めてうずくまっていた。そして、それを取り囲むように三人の少年が笑い声をあげながら、うずくまっている少年に向けて何かをけしかけていた。
——スライムだ。スライムはこの世界ではいろいろな種類がいるが、基本的に弱小の魔物に分類される。人間に危害を加えることはまずないが、農作物を荒らすことや、水質を悪化させることもあり、駆除対象となっている。
うずくまっている少年は、三人の少年からそのスライムをけしかけられて、服も体も粘液で汚されていた。
俺は少年の方に向かおうとしたが、クロエが俺よりも先に、怒りを込めた歩調で歩き出していた。
「あなたたち。何やっているの!」
クロエが三人の少年を一喝する。
少年たちは年上の登場に「やべっ。逃げろ!」と一目散に去っていった。
クロエはうずくまった少年に絡みついたスライムを、自分の衣服が汚れることも厭わずに引きはがしていった。
俺はその光景を呆気にとらわれて見ていた。
稲木凛花なら絶対にこんなことはしない。
同じ顔を持つ少女、クロエは一切の迷いなく弱者に対して救いの手を差し伸べていた。
そうか。やはりクロエはあいつとは別人なんだ——。
「レオン。そのスライム、駆除してくれる?」
クロエは俺の方を振り返っていった。
クロエの声で我に返った俺は、力を抑えた火魔法でスライムを焼却した。
「もう大丈夫。けがはない?」
クロエはうずくまった少年の背中に手を当てると、優しい声で呼びかけていた。
「うん...........。」
少年は消え入りそうな声で答えた。
「レオン。私、この子をおうちまで送り届けてくる。」
クロエの声は理不尽な悪意に対する怒りと、弱者に対する優しさに満ちていた。
「俺も行く。クロエ、一緒に行こう。」
俺は何の迷いもなく、クロエと一緒に行動することを選んでいた。
◇
少年の名前は”ヒロ”というらしく、俺とクロエは十分ほど歩くと、ヒロの自宅にたどり着いていた。
「ごめんください。」
クロエがドアをノックすると、中からヒロの母親と思しき女性が出てきた。
ヒロは母親に泣きながら抱き着いていった。母親もヒロを抱きしめ返した。
クロエがおおよその経緯を伝えると、母親はクロエと俺にお礼を言って、家の中に通してくれた。
ヒロの自宅の応接間にて、俺とクロエはヒロの境遇を、母親から聞いていた。
どうやらヒロは同年代の少年の中で唯一魔法が使えないらしい。
ほかの少年達は使えるようになった魔法で、魔物の駆除や魔法を使った遊戯をしているが、ヒロには一切それができないという。
俺は前世のことを思い出していた。自転車や水泳——ある程度の年齢になればごく自然にできるようになることでも、一部の人間にはそれができず、周囲から哀れみの目を向けられる。その構図は俺の世界でも存在していた。
さきほど、ヒロの体を鑑定してみたが、ヒロは決して魔力を持っていないわけではない。
むしろ同年代の少年の中では魔力量は高い方だった。
「もしよかったらヒロ君と少し、お話をさせてくれませんか。」
俺は母親に言っていた。
◇
ヒロは優しい少年だった。動物や植物が好きで、何よりも自分の母親のことを大切に思っていた。
ヒロの部屋の隅には一つの箱があった。三日後の母親の誕生日に渡すプレゼントだそうだ。
クロエが、中を見てもいいか尋ねると、ヒロは少し照れくさそうに箱を開けた。
中には押し花で飾り付けをした小さな額縁のようなものが入っていた。
この世界には写真はないから、おそらく絵を入れるためのものだろう。
「お母さんもきっと喜ぶよ。」
クロエはヒロの頭をなでていた。
「ヒロ君。今回は俺たちがいたけど、きっとあいつらはまたお前のところにやってくる。次、同じことがあったら、お前はどうするつもりなんだ。」
俺はヒロに聞いた。
クロエは少し、心配そうにヒロの方を見た。
ヒロはうつむいたまま何も言わなかった。
俺はしばらく考えたが、意を決して言った。
「クロエ。もう少しこの街にいてもいいか。」
クロエは一も二もなく同意してくれた。
——かくして俺とクロエによるヒロの特訓生活が始まった。




