シーズンⅣ 第十六話(最終話) 親子
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回はクロエの負傷をめぐるエピソードを書かせていただきました。
今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
翌日、エリオットの父親の船が島に到着した。
あれから俺たちは麻痺毒で動けなくなったエリオットたちの身柄を拘束すると、入れ替わりで村人百五十人を解放していた。
かくして、俺たちはセレストロス商会との約束を果たし、エリオットを含め、誰一人の命を奪わずに目的を果たすことに成功していた。
クロエの顔も、痕も残ることなく無事に回復した。
——アソシラス村の水と薬の威力はやはり底知れない。
セレストロス商会もアソシラス村の工房で作られたポーションを取り扱っていると社長は言っていたが.......。ここにきて宣伝のつもりか?
そんなこんなで、捕縛されたエリオットは感動の親子対面というわけだが、社長——父親はエリオットの胸倉をつかみ上げると鬼の形相で詰め寄っていた。
エリオットは青ざめた顔で説教を受けていたが、その目には「何が悪い。」と言いたげな反抗の色が宿っていた。
父親もそれを感じたのだろう。
「もうよい!」
と怒鳴って、その胸倉を離した。
「こいつからはすべての事業と肩書をはく奪する!帰りはこいつが用意した奴隷用の荷台に乗せて王都まで連行しろ!」
部下にそう命じると踵を返して船の方に戻ってしまった。
そのズボンから、くしゃくしゃになった一枚の写真——念写が落ちた。
俺はそれを拾い上げて、社長に返した。
社長はそれを受け取ると、すこし決まりが悪そうな顔になり、俺に一礼して去って行った。
念写は——家族写真だった。
社長と奥さんと、その間にまだ幼いエリオットを含む三兄弟が笑顔で写っていた。
ここに来るまでに何度も、その拳の中で握りつぶされたのであろう写真に、この親子の間に横たわる容易には解決できない溝の深さを、俺は感じていた。
◇
桟橋では解放された村人が集まっていた。そこではクロエと親子が再開を果たしていた。
村人たちはこれから、アソシラス村までセレストロス商会が責任をもって送り届ける、とのことだった。
セレストロス商会幹部も村に同行して、今回の損害に対する賠償の相談を村長と行うのだそうだ。
一方で俺たちは社長が別途手配した小型船で王都まで送られることとなった。
つまり、クロエはここで、両親と別れることになる。
クロエは母親と父親、それぞれに抱きしめられて、お別れの挨拶をしていた。
先ほどのエリオット親子とは対照的な光景に、俺はこの光景を守ることができてよかったと感じていた。
「クロエのこと.......。頼んだぞ。泣かしたりしたら王都だろうと、英雄だろうと、飛んで行ってぶっ飛ばすからな。」
マックスが俺の側にきて、声を掛ける。
殺気がこもったその声に、海蛇以上の恐怖を感じた俺だったが、振り返って見たマックスの顔は晴れやかに笑っていた。
俺はマックスに笑顔で親指を立てて見せた。
ジークフリートの影響がいつのまにか俺にも映っていたようだ。
マックスも親指を立てて見せると、自分の乗る船の方に向かって歩いて行った。
◇
昼下がりの太陽が海面を照らし出すころ、俺たちの乗った小型船も桟橋を離れて、王都に向けて出港していた。
魔石の力を風魔法に変換して動力にするこの船では、王都に着くまで二日以上はかかるそうだ。
それでも、セレストロス商会が手配した船だけあって、設備は万全だし、馬車で帰るよりも数倍快適だった。
俺は手すりに寄りかかって、離れて行く島を眺めていた。
「ここにいたんだ。」
クロエが俺の姿を見つけると、駆け寄ってきた。
クロエも俺の隣に立つと、島の方に目を向けた。
「さっきね。お父さんとお母さんからレオンに伝言頼まれてたの。『助けてくれて本当にありがとう。』って。」
俺は素直に嬉しかった。
でも、俺は助けただけでなく、たくさん助けられた。クロエにも、村の人たちが作った秘薬にも。
「だけどね、お父さんがレオンに伝えとけって.......。『娘に手を出すなら、俺を倒してからにしろ!』って。」
クロエはそこで吹き出していた。
俺も笑いそうになったが、その言葉の意味するところに気づくと、ふたたび顔に血液が集中し始めていた。
「今度はね、ちゃんとお母さんにも、お父さんにも『行ってきます。』って言うことができた。で、二人からの『行ってらっしゃい。』も聞くことができた。」
俺の様子に気づいているのかいないのか、クロエは海に視線を向けながら続けた。
潮風に髪が揺れたその横顔が、太陽の照り返しを受けて、俺にはすごくまぶしく見えた。
「だから...........ありがとう。」
クロエが小さな声で言った。
その声に汽笛が偶然重なった。
「——なんて?」
俺は聞き返していた。
「なんでもない!」
クロエはぷいっと横を向くと、そのまま船室に向けて歩き出していた。
——まあ、今回もばっちり聞こえていたんだけど。
俺は去って行くクロエの背中から海の方に視線を戻した。
その時だった。
「『ありがとう』って言ったの!」
甲板中に響き渡る声でクロエが叫んでいた。
俺はクロエの方を振り返る。
小さな背中は船室に通じる通路に駆け込んでいて、そこにはもう誰の姿も見えなかった。
シーズンⅣも最終話までお付き合いいただきありがとうございました。
これにてヒロイン三人を主軸にした物語は全編書いた形になりました。
各ヒロインの特徴や魅力を引き出せるエピソードを考えて、書いてきたつもりでしたがいかがでしたでしょうか。(感想等でメッセージをいただければと思います。)
さて次シーズンでいよいよ物語はクライマックスを迎えます。
その前に、シーズンⅣのエピローグを2026年10月8日21時10分に公開しますのでそちらもよろしくお願いします。
【次シーズン】
シーズンⅤ プロローグは2026年10月9日7時10分公開予定です。
★★★★★★
高評価・感想・ブックマーク等いただけましたら作者としても非常に嬉しいので、ご協力いただけたらと思います。




