シーズンⅣ 第十一話 思い出
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回はクロエが発煙筒で自分の居場所を示すところまでを書きました。
今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
山肌をくりぬいて作られた牢屋に、クロエは他の村人とともに収容されていた。
あの後、結局船は出航してしまったが、三十分も立たないうちに沖合の島に停泊した。
自分も含めて、村人たちは初めて訪れる島を歩かされた。
山道はところどころに切通しのような場所があり、両側の崖には赤レンガで作られた弾薬庫の跡があった。
そして今に至るわけだが、こうなっては麻痺毒から覚めた村人たちとともに大人しく過ごすしかない。
——でも、あの発煙筒はきっとレオン達に届いている。
根拠があるわけではなかったが、クロエはそう信じていた。
「クロエ..............?」
その時、背後から声がした。
クロエが振り向くとそこには自分と同じく後ろ手に縛られたマックスの姿があった。
◇
マックスは村の中心部を警護していたが、自分の当直が終わると、村長から西の門——クロエの実家がある付近の警護に加わることを許されていた。
本来なら体力を回復するために、休憩時間は休むべきだし、勤務場所を離れすぎるのも推奨はできない。
だが、村長は”止めてもどうせ行くだろう”ということで、勤務時間外に限り西に行くことを許可してくれたのだ。
「残業代は出ないぞ?」
村長は苦笑しながら、そう言っていた。
「ええ。私は”自分の意志”でたまたま西に行くだけですから。」
マックスはそう返していた。
その結果、西門に着いた途端に麻痺毒の症状が現れて、拘束されてしまったわけだが。
マックスは自嘲交じりにここに拘束された経緯をクロエに話していた。
クロエも自分がたどった経緯をマックスに説明した。
マックスは、レオンが側にいたのにクロエが捕まったことを知ると、一瞬その目に敵意を宿したようだったが、クロエがそれに気づき「レオンは精いっぱい戦ってくれた。」と説明したら、とりあえずは落ち着きを取り戻していた。
「.......なあ。覚えているか?俺がお前に”自警団に入りたい。”って話を初めてした時のこと。」
マックスは昔話を始めた。
「うん。覚えている。マックスはあの時、体格も小さかったし、みんなからは反対されていたよね。」
クロエが懐かしいという感じで返答する。
「ああ。だけど、俺は守りたかったんだ。俺の村を。........それにお前のことも。」
マックスは最後は小声になって付け足していた。
「でも、悔しいよなぁ。ようやくそれらしいことができると思ったのに。このザマだもんな。」
マックスは最後の小声で言った台詞を上書きするように、つづけた。
「マックスも、精いっぱい戦ったんでしょ?それで十分だよ。」
クロエは笑顔で返していた。
「——実は、俺、お前は消防団に入るもんだって.......。そう思っていたんだ。だから、俺が自警団に入って、お前と一緒にあの村を守って行けたらって.......そう、思っていた。」
マックスは再び、小声になって言った。
「でも、お前は王都に行って、それこそ小柄なガキだった俺が団長になった以上に出世しやがった。あのレオンとかいうやつ、王都じゃちょっとした英雄なんだろう?」
マックスはすこし意地悪を言うような口調になった。
「確かに、レオンは王都では貴族たちにも認められた英雄だよ。でもね、名誉とか地位とかじゃなくて、レオンは私にとっての”英雄”なんだ。」
クロエは少し照れくさそうに言った。
「........そうかい。」
マックスは苦笑交じりに返事をした。
「あー。やっぱ悔しいよなぁ!チクショウ!」
マックスは大声で言い放った。
今度は、捕まったことに対する悔しさではなかった。
「おい!船が出せないってどういうことだ!」
エリオットたちの怒声が聞こえてきたのはその時だった。
◇
俺たちが港に着いたとき、すでにそこはもぬけの殻だった。
だが、そこには確かに発煙筒の跡があった。
——間に合わなかった。
俺たちは落胆の渦に飲み込まれかけた。
「君たち。もしかして——レオン様かね?」
無人であるはずの港で、突如背後からかけられた声に、俺たちは腰の剣に手を添えて振り返った。
そこには、初老の穏やかそうな——だがその目には容易には他人を踏み込ませない光が宿った男が立っていた。
「あなたは——。」
アリアが真っ先に反応する。
その老人は、セレストロス商会の現頭首——社長だった。
◇
うちのバカ息子が、また世間に迷惑をかけて——。
社長は心底、身内の恥だと言わんばかりの様子だった。
——だが、やはりこの人も人の親なのだろう。息子を罵倒し、自分の不甲斐なさを嘆きながらも、息子に手を差し伸べようとしている本心が、言葉の端々から感じられた。
「すこし離れたところに、船を用意してある。あのバカ息子を止めるのは私の務めだ。すまないが後は任せてくれんかね?」
社長はそういった。
「いえ。申し上げにくいですが、既にこの件では何人もの人が亡くなっています。俺も、敵をこの手に掛けました。ここで引くことは絶対にできません。」
俺も譲る気はなかった。
社長はしばらく考えてから、俺に提案してきた。
その提案に俺たちは全員同意していった。
第十一話もお読みいただきありがとうございました。
次回は2026年10月6日7時10分公開予定です。
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