シーズンⅣ 第十話 合図
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回はクロエが奴隷狩りに拉致されてしまうところまでを書きました。
今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
カイルが広げた地図を前に、俺たちはエリオットが向かいそうな場所を絞り込んでいた。
「あの自動車——いや、機械の馬みたいなの知ってるか?」
俺はみんなに聞いてみた。
走行可能距離や性能の限界を割り出せれば、場所を絞れるかもしれない。
「いや。あんなのは見たことねぇ。」
ジークフリートが答える。
「私も初めて見ました.......。でも、あの本体から強力な魔力を感じました。魔力を動力とするものだとは思います。」
エレナが答えた。
「実は........。国軍の一部であのようなものを研究しているという話は耳にしたことがあります。ですが、完成していたという話は聞いたことがありません。」
アリアが答えた。
ソルティア王国には騎士団のほかに軍隊が存在している。
騎士団が警察的役割を果たすのに対し、国軍は対外的な事態に対処するための存在だ。
軍隊ならあのようなものを研究しているというのはありえそうな話だ。
「どれくらいの距離を走れるとか、聞いたことはないか?」
俺は聞いてみた。
「いえ。申し訳ありませんが、具体的なことは何も。」
アリアは答えた。
「そうか...........。」
「でもよ、あれって要は国軍が開発してた新兵器なんだろ?なんだってエリオットがそんなもん持ってんだ?」
ジークフリートが言った。
その通りだった。
まさか軍事施設から盗み出したのか?
まあ、なんにしても今はクロエの救出だ。
「で、その新兵器をなぜか持ってるお坊ちゃまが、陽気に乗り回してくれているわけだが、人目に着いたらやばいんじゃねぇの?」
ジークフリートの言葉に、俺も、みんなもハッとした。
確かにそうだ。
俺は前世の感覚で図っていたから見落としていたが、あんなのものが町中をうろついていたら、目立つし騒ぎになる。
となると、どこかでそれを乗り換えるはずだ。
しかも奴らは大人数の奴隷を抱えている。
馬車に乗り換えるにしても、白昼堂々できる作業ではない。
「港だ.............!」
カイルが言った。
「ここから西に行ったところに、海軍の古い施設跡がある。ここで、荷台ごと船に積み替える気かもしれない。」
カイルが続けた。
海軍施設の跡で今は使用していないのなら、人目につかず出航できる。
しかも、こちらとしては海に出られたら、手の出しようがない。
カイルが指をさした施設の場所を確認する。
ここから施設跡までに向かう道中に大きな町や集落はなさそうだった。
奴らにしてみれば人目につかずに施設に乗りつけることができるというわけだ。
「仮にそうだとして、どこに運ぶつもりだ。百人以上の人間を隠しておくのは骨だぞ。」
ジークフリートは言った。
俺は、ふと地図に目を落とすと、海軍施設沖に小さな島があるのを見つけた。
「この島は........?」
「その島は海軍の要塞跡だ。昔は弾薬庫としても使っていたそうだが——。」
カイルはそこまで言って口を閉じた。
俺たちは同じ結論に到達した。
おそらくエリオットは、売り手が見つかるまで、島に村人たちを監禁する気だ。
「追うぞ!港に向かう最短距離を全力で行く!」
俺たちは一斉に立ち上がった。
◇
馬車を走らせ続けて、すでに半日。
奴らの自動車は過積載のおかげで、速度は馬車と大して変わらないようだった。
引き離されていたとしても、追いつけない距離じゃない。
だが、もしも俺たちの予想が外れていたら?
念のため、麻痺毒から回復した自警団の人たちに、ほかに考えられそうな山間部等の捜索を依頼しておいたが。
山間の道を駆け抜けて、視界が開ける。
眼下に赤レンガの建物が並んだ海軍施設跡が見えた。
俺たちは目を凝らした。
自動車か、うごめく人の姿でも見えないかと思ったが、ここからでは施設の隅々まで確認することは難しい。
その時だった。
赤レンガの建物が立ち並ぶ、向こう側の埠頭から赤い煙が立ち上っているのが見えた。
俺たちに村から支給された”狼煙”だった。
——間違いない。あそこにいる。
「クロエはあそこだ!今すぐ行くぞ!」
俺たちは再び馬車を走らせて海軍施設跡に向かった。
◇
機械仕掛けの馬車の荷台で揺られ続けて半日。
休憩も必要なく、ただひたすら走り続ける姿にクロエは不安を覚えていた。
——馬車で追いつける距離を過ぎてしまったかもしれない。
でも、レオンなら、きっと見つけてくれる。
後ろ手に縛られている両手をまさぐり、背中に隠した”支給品”の感触を確かめていた。
荷台が突然止まる。
『スタラナスカ海軍工廠』と消えかかった看板を目にしたクロエは、自分たちが船に乗せられると直感した。
チャンスは今しかない。
クロエは背中から支給品——発煙筒を取り出すと、後ろ手に縛られたままそれを発動させた。
両手に炎の熱さが伝わる。
激痛に顔をゆがめながら、クロエはそれを荷台の外に放り投げた。
「おい!なんだこれは!」
「誰だ!こんなもの仕掛けた奴は!」
エリオットの手勢が口々にわめきだす。
——だが、もう遅い。
クロエはやけどの痛みに耐えながら、口元をニヤリとゆがめた。
手から離れた発煙筒は、赤い煙を高々と夕焼けに染まりだした空に向けて屹立させていた。
第十話もお読みいただき、ありがとうございました。
次回は2026年10月5日21時10分公開予定です。
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