シーズンⅢ 第十二話(最終話) 選択
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回は"グランツ公爵を告発する会"がつぶされるところまでを書きました。
今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
”グランツ公爵を告発する会”が終了した後、王都では「黒い天秤」の一斉摘発が本格化していた。
ジークフリートが持っていた情報、フードの男がもたらした情報、告発する会で拘束した幹部連中が吐いた情報が合わさり、王都はこの大逆転劇をめぐる話題で持ちきりだった。
その最中、アリアと俺たちに声を掛けてきた騎士がいた。
——門番の男。俺たちが鉱夫たちに協力を求めようとしたときに、俺たちを門前払いにした男だ。
「アリア様。先だっては大変失礼いたしました.........。グランツ公爵閣下に対する無礼な言動も含め、お詫び申し上げたい。」
門番の男は頭を下げた。
「いいえ。あの状況ではあなたの対応になんら間違いはありませんでした。あなたのいかなる権力にも毅然とした対応をとる姿勢は、今後もこの国で必ずや必要とされることでしょう。」
アリアは答えた。彼女らしい返答だ。
門番の男は再度深く頭を下げて、俺たちがその場を去ると自分の仕事に戻っていった。
「ところで、レオン様。」
アリアが声を掛けてきた。
「父上がレオン様含めて、皆様に改めてお礼をしたいと申してまして...。近々、当家で食事会を催す予定ですので、ご出席をお願いできますか。」
「改まって他人行儀にならなくてもいいよ、アリア。みんなにも声を掛けておく。予定が決まったら教えてくれ。」
俺はそう伝えると、クロエたちの方に向かって走った。
「本当に、レオン様は...........。」
アリアは微笑みながら、そうつぶやいていた。
「アリア様..........。」
隣に立つカイルは、その微笑の中にやはり寂しさが混じっていることを感じ取っていた。
◇
数日後、俺たちはグランツ公爵に招かれて、公爵邸での食事会に出席していた。
俺もクロエも、こういった正式な場に慣れていないこともあり、最初は戸惑っていたが、エレナがエスコートしてくれたおかげで、途中からはカイルやジークフリートとともに、その場に溶け込んでいた。
もっともエレナがエスコートするたびに、クロエが複雑な表情を見せてはいたが。
食事会も終了が近づいてきたとき、俺は突然グランツ公爵から呼び出しを受けた。
「お礼を言いたい」とは聞いていたが、やはりお偉いさんと一対一で、というのは緊張する。
クロエもエレナも、すこし心配そうに俺のことを送り出していた。
◇
かくして俺は今、公爵邸のバルコニーでグランツ公爵と会っていた。
最初は執務室に通されたのだが、俺が緊張していることに気づいたグランツ公爵が
「場所を変えよう。」といい、夜風の当たるバルコニーに移動したのだった。
俺は何を話せばいいのか分からず、グランツ公爵の方を向いたまま、固まっていた。
そんな俺の様子を見て、グランツ公爵の方から話を切り出してくれた。
「この度は私の身に降りかかった汚名を晴らしてくれたこと、改めて深くお礼申し上げる。」
グランツ公爵は頭を下げていた。
「いえ。俺は、やるべきことをやっただけです。それに俺一人の力じゃありません。公爵閣下も、アリアも、最後まで諦めなかったから、勝つことができたんだと思います。」
俺は答えた。
「娘の言う通り、実直な男だ。」
グランツ公爵は独白のように言うと、バルコニーから見える夜の中庭に視線を移した。
「レオン殿......。お礼を申した舌の根も乾かぬうちに申し訳ないが、改めてお願いしたい。アリアを、私の元に返してはくれないだろうか。」
グランツ公爵は初めて、その威厳を崩した声で言っていた。
「あの通り、最前線に突っ込んではケガをして帰ってくる娘だ。貴殿の実力に不安があるわけではないが、公爵家の当主としてではなく、一人の父親として、私の頼みを聞いてくれないか?」
グランツ公爵は続けた。
「返すも何も.......。アリアは俺の仲間です。俺のパーティに縛るつもりはありません。ですが、同様にあなたのものでもありません。彼女も一人の人間です。外部の俺が差し出がましいかもしれませんが、彼女の意志を尊重するべきだと俺は思います。」
俺は自分の考えを正直に言った。
アリアがもし俺のパーティを外れるのだとしたら、寂しくないと言えばウソになる。
だが、アリアがもし父親の側で自らの役目を果たすというのであれば、俺にそれを止める権利はない。
「なるほどな........。」
グランツ公爵は視線を中庭に向けたまま、つぶやいていた。
「私はこのあと、娘とも話をするつもりだ。だが、それでは不公平だから君にも時間を与えよう。私が話し終えた後、娘を応接室に行かせる。君もそこでじっくり話をするといい。」
グランツ公爵はそういうと、バルコニーから離れて行った。
俺は執事の案内で、再び食事会の会場へ戻っていった。
◇
二時間後、俺は応接室で、今度はアリアと一対一で向き合っていた。
初めてアリアとここで会ったときに卒倒したことを、俺は思い出していた。
あれからずいぶん時間がたったような気もするが、今はアリアをアリアとして見ることができるようになって、こうして面と向かって話すことができるようになっていたことに、俺自身どこか感慨深いものがあった。
「——お父様とお話してきました。」
アリアが切り出してきた。
こういう時に、自分から話を切り出すことはやはり苦手だ。
本当に俺は仲間たちに助けられている。
「お父様は、本当に私の身を案じていました。『親の身勝手だと分かっているが........。』って言いながら、涙目で私のことを止めようとするんですもの。」
アリアは言いながら、その肩を震わせていた。
「レオン様。お父様は私にこう言いました。『レオン殿のパーティは公爵家が全力で支援させてもらう。お前にはこの王都から彼らを支える役目を果たしてほしい。それでも行くというのなら、カイルに頼んで力づくででも、お前を止めてしまうかもしれん。』って。.......私がもし、お父様の側にいることを選んだとしても、レオン様は........私を裏切り者だと思いませんか?」
「そんなことはない。どこにいても、アリアはアリア、俺たちの大事な仲間だ。そのことは変わらない。絶対に、変わらないんだ。」
俺は迷うことなく言った。
「.........よかった。」
アリアは答えた。その目には涙が浮かんでいた。
「アリアが王都から俺たちを支えてくれるというのなら、俺たちは全力で頼らせてもらう。だけど、もしもアリアが俺たちと一緒に旅をする道を選ぶというのなら、それももちろん大歓迎だ。その時は俺も公爵閣下を説得するよ。」
――決めるのは君自身だ。俺は心の中でそう続けていた。
「レオン様は.......。本当にずるいですわ。最後の最後まで私を迷わせるんですもの。」
アリアはそういうと俺に笑顔を向けて、応接室から出ていった。
だが、その笑顔にもう寂しさは感じなかった。
夜の誰もいない応接室に一人取り残された俺は、ここでアリアと交わした会話や出来事を思い出しながら、ゆっくりと立ち上がった。
◇
翌日、俺たちは公爵邸の中庭に集合していた。
拘束した「黒い天秤」の幹部からの情報により、彼らのバックにいた組織に新たな動きがあるという情報をつかみ、それに対応するためだ。
俺たちはこれから再び王都を離れる。目的地は、——クロエの故郷だ。
公爵家が用意した馬車に、クロエも、エレナも、ジークフリートも乗り込む。
俺は、公爵邸の中庭で見送るグランツ公爵と、——アリアとカイルに挨拶をしていた。
「グランツ公爵閣下。今後とも俺たちのパーティの支援をよろしくお願いします。」
俺はグランツ公爵に一礼した。
「アリア、カイル。ここまで一緒に旅をしてくれて本当にありがとう。二人の引き続きの協力を、頼りにしているよ。」
アリアもカイルも、俺に笑顔を返してきた。
「出発するぞ!」
ジークフリートが俺に声を掛ける。
俺は王都に残る三人への挨拶を終えると、クロエたちが待つ馬車に乗り込んでいった。
◇
~公爵邸 執務室~
グランツ公爵とアリアとカイルは、レオン達の旅立ちを見送ると執務室に集まっていた。
グランツ公爵はお茶を飲み、アリアとカイルの方を見る。
カイルはどこか落ち着かない様子だった。
「で.......。いつまでその三文芝居を続ける気かね?」
グランツ公爵は唐突に言った。
カイルの背筋がビクッと跳ねる。
「うちの資料館はまともに資料の管理もできんのか?スライムを保護したとは聞いていたが、いつのまにか脱走して、もうここまで来ていたとは。」
グランツ公爵はため息とともに、アリアの方を見て言った。
すると、アリアの姿をしていたスライムは、本来の姿に戻り、カイルの背後に隠れるように移動していった。
「申し訳ありません、公爵閣下!私はアリア様に頼まれて..............いえ、閣下の命に背いたのはこの私です!どうか、私を——」
カイルは一息にまくしたてた。
「もうよい。......それより、貴様に罰を与える。」
グランツ公爵はカイルを睨み据えた。
「は!どのような罰であっても——」
カイルが言い終わる前に、グランツ公爵は続けた。
「今すぐレオン殿の馬車を追いかけて、娘を連れ戻してこい。期限は——レオン殿が王都に戻るまでだ。」
「は......? いえ、了解しました!」
カイルはグランツ公爵の意図を察すると、さっそく出発の準備に取り掛かった。
「娘を頼んだぞ。ほっとくとまた何をしでかすか分からんからな。」
グランツ公爵はあわただしく動き始めたカイルの背中に言った。
「まったく。あの娘は............。」
朝の陽ざしが窓から差し込む中、グランツ公爵は、所在なさげにしていたスライムを膝の上に呼び寄せると、苦笑しながら、その背中を猫のようになでていた。
シーズンⅢも最終話までお付き合いいただきありがとうございました。
シーズンⅢのエピローグも公開させていただきますので、引き続きよろしくお願いします。
この物語と、シーズンⅣを応援していただける方は是非、評価(★★★★★)、感想、ブックマーク等にご協力いただければと思います。
まだまだ多くの方に、この物語を手にしていただけるきっかけを増やしていきたいと思いますので、よろしくお願いします!
シーズンⅢのエピローグは2026年9月30日21時10分に公開します。




