シーズンⅢ 第十一話 証明
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回は”グランツ公爵を告発する会”で、レオンの作戦開始合図までを書きました。
今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
作戦開始だ。
俺の合図を受けて、最初に動き出したのはクロエだった。
その手にはあるものが握られていた。
クロエは、その華奢な体躯を活かし、人々の隙間を縫って舞台袖に近づいていった。
観衆はリリアに注目している。まずはそれを利用させてもらう。
接近したクロエは、リリアの顔面目掛けて泥団子を投げつけた。
「きゃっ.........!ちょっと何よこれ!」
リリアの白い顔面が泥だらけになる。周りの観客が一斉にざわつき始めた。
――続けて俺だ。
観衆がなんだなんだと周囲を見回している隙をついて、俺は舞台に駆け上がった。
「久しぶりだな!ずいぶんと汚れ仕事してきたようだが........。顔もお似合いになってるじゃないか!」
俺はわざと観客たちに聞こえるように大声で言った。
「おい!なんだ、あの若造は!」
「今すぐ取り押さえろ!」
「黒い天秤」の面々が俺を取り押さえにかかる。——だが、もう遅い。
「ぐわっ!」
「なんだこれ!」
近づいてきた男たちは瞬く間にはじき返された。
舞台に駆け上がると同時に、俺とリリアの周囲に防御魔法で結界を張った。
これで、もうだれもこの舞台を止められない。
「なによ.......。どこのだれか知らないけど、一体何のつもり!?」
泥だらけのリリアが俺を睨んでくる。
俺はリリアの足元に拳大の石を転がした。
「ほらよ。」
「なに、これ?この汚い石がなんだっていうの?」
リリアは石を拾い上げて言った。
「それは、俺たちが命がけで掘り起こした石.......。魔石の原石だよ!」
俺の背後から続けて舞台に上がってきた男が言った。
俺は防御魔法の一角を解除し、その男を舞台上へ招き入れた。
◇
夕暮れの宿場町で、俺はサーシャに事情を話して、協力を求めた。
最初は俺の勢いに戸惑っている様子だったが、ジークフリートが合流すると即座に協力を承諾してくれた。
「あの時は本当にありがとうございました!おかげさまで父にも会うことができました!」
サーシャはそういうと、今泊まっている宿に父親がいることを話した。
「待て。お前の親父さんはやっぱり鉱山で働かされていたのか?」
ジークフリートが尋ねる。
「はい。ただ、右腕を大怪我してしまって......。鉱山では働けないからって、次の働き場所が決まるまで森の地下牢に入れられていたみたいです。」
サーシャはそう答えた。
実際にあの鉱山で働いていた鉱夫がいる。その事実に俺たちは勝利を確信した。
「黒い天秤」は鉱山関係者をすべて監視下に置いたと思いこんでいるようだが、ここに監視網を逃れた労働者がいたのだ。
「親父さんに会わせてくれないか?お願いしたいことがある。」
ジークフリートが頭を下げた。
サーシャは快諾して、俺たちを宿へと案内してくれた。
◇
かくして、舞台に上がってきた男——サーシャの父親は、今はリリアに詰め寄っていた。
「お前さん。鉱山にいたって言ったよな?なんでその石が魔石の原石だって分からないんだ?」
「それは.........。鉱山についたらすぐに眠らされて...........。」
リリアが答える。
「ほう。だが、俺は鉱山で働いていたがお前さんの顔など一度も見たことはなかったぞ?」
サーシャの父親は、リリアを睨みながら言った。
観客も、ざわざわと動揺し始めていた。
「ついでにいうと、お前の顔に着いた泥。それもあの鉱山の土でできたものだ。あの鉱山から救出された癖に、何でそんなことも分からないんだ?」
俺はサーシャの父親に続けて、リリアの顔を指さして言った。
「わ、分かっているわよ!この青みを帯びた土!確かにあの地獄の鉱山で私が見てきたものだわ!」
——決まった。
「あのねー。その泥団子。さっき私がそこの花壇からとったものなんだけど。」
人込みの中からクロエが無邪気な声で言っていた。
「.............!」
リリアは言葉に詰まった。
『おい。どういうことなんだ?』
『あの女、いままであんなに堂々とウソをついていたってことか?』
客席の空気が、もはや取り返しのつかないレベルで決定的なものとなっていた。
――リリアは舞台上でおろおろとしている。
俺はリリアの側に近づいていき、小声で耳打ちした。
「なあ、リリア。今なら、お前は”脅されていた”ってことにできる。この場を借りて、お前に”こんな仕事”をやらせた奴らのことを、ぶちまけてやったらどうだ?」
これは、俺の思いつきだ。
こいつは風向きが変われば簡単に楽な方へと流される。
ちょっとつついて不利な立場に立たされれば、逆にこちらの手駒として利用できるかもしれない。
「ごめんなさい.......。私は、あそこにいる男たちに脅されて..........。鉱山で人柱にさせられていた女役をやれって言われて........。グランツ公爵を陥れる罠に加担しないと、私の家族がその代わりをさせられるって言われて!だから仕方なかったの!」
案の定、リリアは”名演技”を披露してくれた。
観客たちがより一層ざわつく中、新たな人物が舞台に上がった。
「そう。そこにいる女は偽物!私が本物の人柱!それで、私のお父さんをさらって、奴隷として働かせてきた奴らこそ、この回の主催者たちなんだよ!」
舞台に上がったサーシャが高らかに宣言した。
――泣き崩れる”偽物の人柱”と、高らかに加害者を告発する”本物の人柱”。
そのコントラストに、もはや誰も疑念を抱くものはいなかった。
その傍らで、椅子に縛られていたグランツ公爵をエレナが解放していた。
その行為をとがめる観客はだれもいなかった。
自由を得たグランツ公爵は、立ち上がると観客たちに向けて声をあげた。
「諸君!私はこれまで無実の罪でここにその身を置かされていた!だが、私が許せぬのは私を陥れたことよりも、民衆を惑わせ、自らの腐敗を隠そうとした愚かな行為だ!」
グランツ公爵の声に、民衆の注目が集まる。
「公爵家の名において命ずる。ここにいる主催者どもを拘束せよ!」
◇
「おい!どうするんだ、この茶番は!」
「とにかく、一旦会を中止しましょう......。体制を整えなおして、グランツ公爵に代わる誰かを......。」
会の”主催者たち”が舞台袖で幕引きの相談に入っていた。
「その必要はない。」
舞台袖に入っていたカイルとジークフリートが剣を構えながら告げた。
「ジークフリート!貴様、俺たちを売りやがったな!?」
"主催者"の一人が言った。
「あいにくだったね。あんたらには売るほどの価値もねぇよ。俺はやりたい生き方で生きていくだけさ。」
ジークフリートは"主催者"をまっすぐな目で見据えて言っていた。
「貴様といい、あの女といい...........どうして俺の周りは裏切り者ばかりなんだ!」
”主催者”は吐き捨てるように言っていた。
「あなたたちの身柄を直ちに拘束します。それと.......私の仲間をあなたたちの薄汚い女狐と同列にするのは不愉快なのでやめていただけますか?」
カイルの背後から、舞台袖に入ってきたアリアが言っていた。
――その語気には筆舌しがたい怒りの色がにじんでいた。
かくして、”グランツ公爵を告発する会”は、「黒い天秤」の一斉摘発の現場へと変わって、その幕を閉じていった。
第十一話もお読みいただきありがとうございました。
腐敗貴族グループ「黒い天秤」にもとうとう摘発の手が伸び始めました。
物語はここからさらに新たな局面へと移行していきますので、引き続きよろしくお願いします。
(まだⅢも終わっていませんので)
次回(シーズンⅢ最終話)は2026年9月30日7時10分公開予定です。
★★★★★高評価・感想・ブックマーク等をいただけたら、作者もより一層力が入りますので、応援よろしくお願いします。




