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第三話 対峙

 こんにちは。作者の「野生の書生」です。

 前回はとうとうヒロイン(?)が登場しましたが、レオンはものの見事に卒倒してしまいました。さて、意識を取り戻したレオンはどうなってしまうのでしょうか。

 それでは、第三話も引き続き、よろしくお願いします。


 本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。

 主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。


 この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。

~ レオンの回想 ~

 ——稲木凛花。俺を追い詰めた女子の一人。

 ある日の放課後、俺は校舎裏で吾妻翔也らのグループ複数人に囲まれていた。

 吾妻は苛立った様子で俺の胸倉をつかみ上げると力任せに地面へと突き飛ばした。

 転倒した拍子に、俺は持っていた通学鞄を離してしまった。

 鞄は、俺を取り囲むグループの一人、稲木凛花の足元に転がっていた。

 

 稲木は鞄を拾うと、中から財布を取り出した。慌てる俺をニヤニヤと笑いながら見下ろし、財布の中から全部の紙幣を抜き取ると、財布だけ俺の顔面に投げつけてきた。

 鼻に走った鈍い痛みに耐えかねて、俺は財布を拾うこともできず、その場で這いつくばっていた。


 吾妻たちが笑う中、稲木は俺から奪った紙幣を掲げて、


 「あはは!これでどっか遊び行こーぜ!」

 と高笑いしていた。


 吾妻はしゃがんで、転倒した俺の髪をつかんで顔を近づけると威圧するように言い放った。


 「今日のところはこれで勘弁してやる。凛花に感謝しろよ。」

 

 俺は、笑いながら立ち去っていく吾妻たちを、体を起こすこともできないまま、見送ることしかできなかった。


   ◇


~ 集落の家の中 ~

 数時間後、俺は意識を取り戻した。こちらを見つめる少女の顔が視界に入ると、再び心臓が跳ね上がり、気を失いそうになったが、今度はなんとか意識を保つことができた。

 部屋の入り口からノックの音がして、住人の一人が入ってきた。


 「おや、気が付いたのかい。」

 住人は俺を見ると安心したように言った。

 住人曰く、俺が気絶している間、少女は片時も俺のそばを離れようとせず、俺の様子をずっと見守っていたのだそうだ。

 住人の言葉に少女は顔を赤くすると、顔を伏せて縮こまっていた。


 少女は“クロエ”と名乗った。

 クロエは冒険者志望で、故郷の村を出て、この国ーーソルティア王国の王都に向かっていたところ、道中で盗賊団に遭い、連れ去られたのだという。


 俺は呼吸を整えてクロエの顔に視線を向けた。髪型も、顔つきも、目つきも、声も、全く稲木凛花の生き写しだった。


 俺がクロエの顔をまじまじと見つめていると、クロエは照れたように視線をそらした。

 ——稲木凛花なら絶対にしない仕草だ。


 「落ち着いたら出てきなさい。少し遅くなったけど夕食の準備ができているよ。」

 住人はそういうと再び部屋を出ていった。



 部屋には俺とクロエだけが残されていた。

 俺は自分の体に異常がないことを確認すると、ベッドから起き上がろうとした。クロエはすかさず俺の体を支えようと近づいて、肩を貸そうとした。

 無意識のうちに俺は肩を跳ね上げていた。女子の体に触れたからではない。俺は間近で見るクロエの姿に、稲木凛花のそれを完全に重ねていたのだった。


 クロエは俺の様子に少し表情を曇らせて、——悲しそうな目をした。

 「あ、いや………。」俺は言葉を濁し、

 「もう大丈夫だ。一人で歩けるから。」と続けた。


 「心配してくれてありがとう。……クロエ。」

 俺が続けると、クロエはぱっと明るい顔を取り戻して、歩き出した俺の後ろから、歩幅をあわせてついてきていた。


   ◇


 食卓では集落を救った“英雄レオン”ということで、おもてなしの用意がされていた。

 だれからも必要とされず、だれからも見向きもされなかった俺が、こうして俺の席を用意して待っていてくれる人たちに囲まれている——。

 その事実が一度は死んだはずの俺の胸を熱くしていた。


 人々から贈られる感謝の言葉に照れくささを覚えながら、俺は料理を口に運んだ。

 三か月ぶりのまともな料理にして、初めての異世界料理だ。鼻腔をくすぐる香辛料の香りに、俺は長らく忘れていた"空腹"の感覚を思い出していた。

 お皿に盛られた料理は、どれも前の世界とは異なる味わいだったが、心にしみる滋養に満ちた味わいだった。


 「お口にあいましたか?」

 住人は微笑みながら俺に語り掛けてきた。

 

 「はい。どれもとてもおいしいです。」

 俺は率直な感想を述べた。


 クロエも隣で料理を口にしていた。

 彼女もまた、しばらくの間まともな食事をしていなかったのかもしれない。

 感極まったような顔で、小さなお皿を次々と空にしていた。


 「ねぇ。レオンっ!これ、すっごく美味しいよ!」

 クロエは自分が食べた大皿に乗った肉料理を指し示しながら、嬉しそうに声をかけてきた。


 「あ、ああ……。」

 俺はまだクロエとどう向き合えばいいかわからなかったが、クロエの指した料理を口に運んだ。


 「美味しい・・・。」

 俺がつぶやくと、「でしょ!でしょ!」とクロエは嬉々とした表情で言い、俺の顔を見つめていた。

 キラキラとしたその眼には一切の悪意はなく、純粋の一言につきる表情であり、ますます俺は困惑していた。


 「で、レオンさまはこれからどうなさるおつもりですかな。」

 集落の住人——おそらく長老的な立場と思われる老人が、俺に声をかけてきた。


 俺としては、当初の予定では働き口を探す必要があることから、どこか大きな町に向かうつもりだった。

 ここで一つ、この老人に相談をしてみるのもアリかもしれない。

 そう思った俺は、異世界から来たことはもちろん言わなかったが、働き口を探して旅をしているということを伝えた。


 「であれば、まずはギルドに登録されるべきですな。この集落にはないですが、大きな町にいけば窓口がありますので、まずはそこで相談をされるべきでしょう。」

 老人は言った。


 俺もルミナの付与知識でギルドの存在は知っていた。

 俺の世界でのハローワーク的なイメージということでいいのだろうか?


 「わかりました。では、長居しても申し訳ないので明日の朝、立つことにします。」

 俺は老人に言った。 

 

 「ねえ、レオン!それなら私と一緒に王都に行こう!」

 すかさず横で話を聞いていたクロエが俺に声をかけてきた。

 

 「クロエさまも冒険者志望ということであれば、冒険者ギルドに登録される必要があるでしょう。王都なら、いろいろな種類のギルドがありますゆえ、レオンさまのお望みの職を探すこともできましょう。」

 老人は続けると、微笑ましい光景を見ているかのような表情になった。


 ちょっと待て。

 傍から見れば男女の微笑ましい光景に見えるのかもしれない。

 だけど俺は——。


 俺はクロエの方に目を向ける。

 稲木凛花と同じ顔。——だけどその眼には一点の曇りもなく、その表情はただひたすら「傍にいたい」と願う気持ちと期待であふれていた。



 「わかりました。一緒に行こう、クロエ。」

 しばしの沈黙を挟んで、俺はそう告げた。


 「うん!よろしく、レオンっ!」

 クロエはこれまでで一番明るい笑顔になって答えた。

 その声は、家中に大きく響いていた。


 犬っぽい——。稲木凛花に対しては決して感じなかった印象を、俺はクロエの中に見ていた。


 第三話もお読みいただきありがとうございました。

 前世で主人公を苦しめた人物と同じ顔を持つ少女、クロエ。彼女のヒロインとしてのステータスは大きくデバフをかけられている状態なわけですが、ここからの旅路で二人の距離感がどうなっていくのか、引き続きお付き合いいただければと思います。


 女子キャラを書くのは初めてで、最初は照れ臭かったですが書いていると楽しくなり、自然と「この子ならこうするだろうな。」という感覚(妄想?)が身についてきました。作者の力量でどこまで魅力的なキャラクターを書き上げることができるか分かりませんが、読者の皆さまの期待に応えられればと思います。


 次回は2026年9月19日12時10分更新予定です。


 高評価や感想をいただければ、作者のモチベーションにバフがかかりますので、よろしくお願いします。

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