第二話 出会い
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回の女神の祝福を経て、今回はいよいよ主人公が森から人里へと降りていきます。
ここから"レオン"の物語が本格的に動き出しますので、引き続き温かい目で見守っていただければと思います。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
三か月間の山籠もりで、俺の見てくれはひどい状態だった。
髪はぼさぼさ。服はズタボロ。皮膚は傷だらけに加えて泥だらけ。
——このまま街に出ようものなら間違いなく不審者だし、人々の好奇の目にさらされることだろう。
俺はどうしたものかと思案していたが、その悩みは思わぬ形で解決した。
ルミナとの通信が途絶えてしばらくすると、俺の体は瞬く間に清潔な状態へと変化していったのだ。
俺は狐につままれたような心持で全身を確かめてみた。
頭に手をやると、髪も散髪したてのようになっていた。
服の破れ目も消えていて、よく見ると素材もワンランクアップしたようなものに切り替わっていた。
鑑定魔法で衣服を確認してみると、所有者欄が「羽沢蓮」ではなく、「レオン」になっていた。
どうやら「羽沢蓮」が「レオン」になったことで装備やステータスが一新されたようだ。
俺は、"ルミナからの餞別"と思うことにした。
「とりあえず、これで人前には出られるか......。」
俺は荷物をまとめて、三か月ぶりに人里に出ることとした。
早朝に森を出発して、昼過ぎに山道へ出て、歩き続けること三時間。
俺の視界にようやく小さな集落らしきものが見えてきた。
なんにせよ、まずは働き口を探さないといけない。今の俺は無一文だ。
一応、森の狩りで集めた素材も持ってきているから、それを換金すれば当座はしのぐことはできる。
それでも収入がないと始まらないのは、どこの世界でも同じだ。
集落に入り、最寄りの家に近寄ろうとしたとき、俺は威圧的な大声を耳にして、とっさに身を隠した。
「持っている金は全部出せっていってんだろ。ゴラァ!」
わかりやすすぎる、盗賊御用達の台詞だった。
物陰から顔をのぞかせると、ガタイの大きな男が四人、この家の住人と思われる青年を取り囲んで、金を巻き上げようとしていた。
今の俺が恐れる相手ではない。
だが俺はその光景に、かつてカツアゲに遭っていたときの自分を重ねていた。何度も「やめてください」と言っても、絶対に奴らはやめなかった。
それどころか、おびえるこちらの反応を楽しむように、ますます増長するといった具合だった。
目の前の青年もおびえた目をしていた。見逃してくださいと必死で訴える目。力がないものの目。暴力に蹂躙されてすべてを奪われる運命にあるものの目——。
俺は気が付いたら物陰から飛び出していた。
手始めに青年を締め上げていた男の鳩尾めがけて蹴りを一発食らわせる。男の体が吹き飛び、青年は何が起きたのか分からないという様子で、その場に座り込んだ。
俺が初めて人間を倒した瞬間だった。だが感慨に浸っている場合ではない。
俺は呼吸音から、後方より接近してくる"敵"の存在を察知していた。間合いを図って、そいつの顔面に掌底を叩き込む。バキッという音とともに、鼻の骨を折った生暖かい感触が手に伝わってきた。
対人格闘術は知識としてはルミナに教わっていたが、実戦経験はない。それでも、眼前の理不尽な暴力をどうにかしたいという想いで、俺は自分の体を動かしていた。
三人目の男が俺にナイフを向けてきた。
「死にたくなければお前も持っている金を出せ!」
月並みな台詞とともに、俺の目の前に立ちふさがる。
ずる賢さに染まったその顔をにらむと、俺は肩の力を抜いてフッと息を吐きだした。
——男の警戒が緩んだのを見計らって、俺は足元の土を思い切り蹴り上げて、叫んだ。
「俺は無一文だ!」
砂煙が舞い、ナイフの男が顔を背ける。俺はその隙に間合いを詰めると、男の手からナイフを奪い取っていた。
魔法を使えば、もっと楽に制圧できただろう——。
だが、実戦経験のない俺は、まずはその経験を積むべきだし、”ルミナならそうさせていた。”という確信が、俺の行動を決定づけていた。
四人中二人は無力化。一人は武器を奪われて戦意喪失。残った一人は、今は荷車を引っ張ってその場から離脱しようとしていた。
俺は奪ったナイフを、荷車の男に向けて投擲した。
飛翔したナイフは、荷車の男が踏み出そうとしたつま先近くの地面に突き刺さった。
荷車の男は、俺が自分の腰から短剣を抜き、二投目の構えを向けていることに気づくと、荷車を捨てて退却していった。
ナイフを奪われて戦意喪失していた男も、荷車の男に続いてどこかに走り去っていった。
◇
盗賊たちが敗走したのを見ると、周囲の家々から歓声があがり、俺はたちまち集落の住人に取り囲まれた。
家から出てきた人々はお礼の言葉を伝えにきてくれたようだが、まだ状況は終わっていない。
俺は住人たちをかき分けて、さっき倒した二人の男の方へ向かった。
”倒した敵は、武装解除するまでは安心してはいけない。”
——およそ女神の教育内容とは思えない、ルミナによる対人格闘の知識を呼び起こして、俺は住人たちに警戒を続けるように呼び掛けた。
俺は気絶する二人からあらゆる武器を取り上げると、住人の一人から拝借した縄で二人を捕縛した。
これではどっちが盗賊かわからないな、と俺は苦笑したが、住人たちはその手際の良さに目を輝かせていた。
さて、次は盗賊が残していった荷車だが——。
大方、どこかの集落で奴らが奪った荷物だろうと思い、俺は荷車に近づくと、荷台にかけられた幌を取り払った。だが、荷台の中身を覗き込んだ俺は、予想外の光景に驚いて一歩飛びのいていた。
藁を敷き詰めたその上に、ショートカットの黒髪をした少女が、拘束された状態で横たわっていたのだ。
「こりゃどこかの奴隷商に売られようとしていたんだろう。」
「かわいそうに。どこの集落の子だろうか。」
住人たちは口々に言った。
とりあえず保護して、どこかの家で手当てを——。
そう思った矢先、俺は荷車の中で少女が身をよじり、拘束を逃れようとしていることに気づいた。
少女は手足を縛られたうえに、さるぐつわと目隠しまでされていた。
——まずはこれを解く方が先か。
俺は少女の拘束を順番に解いていく。
まず手足が自由になり、続いて口が開けられるようになった。
そして、最後に目隠しが外された。
完全に自由を取り戻した少女は、太陽の光に目を慣らしてから、周囲をきょろきょろと見回した。
自分の拘束を解いてくれた相手を探しているようだった。
俺と視線が合うと、少女はキラキラと目を輝かせながら、深々と頭を下げて言った。
「本当にありがとうございました!」
だが、その顔を見た途端、俺は恐怖と動揺により、それまでの"英雄"の表情を完全に失っていた。
左右非対称にそろえられた髪。勝気そうな目。
その顔は見間違えようがない。
生前俺を追い詰めた女子の一人——稲木凛花の顔だった。
嘘だろ............。どうしてお前がここに...............。
胸が苦しい。まともに呼吸することができない。
俺は泡を吹くようにして、その場に卒倒した。
俺が倒れたのを見て、集落の人たちが慌てて駆け寄ってきた。
住人たちはどうしたものかと顔を見合わせていたが、手近な家のベッドまで俺を運んでくれたようだ。
保護された少女もそれについてきて、俺がベッドに寝かされると、その横に置かれた椅子へ座った。
俺のトラウマを呼び起こしたその少女は、完全に意識を無くした俺を、ただただ心配そうに見つめていた。
さて、第二話もお読みいただき、ありがとうございました。
女神の祝福による成果をいかんなく発揮してくれた主人公ですが、ヒロイン(?)と出会って、最初の反応が「卒倒」というのは大丈夫なのでしょうか。(作者が)
今回、盗賊との戦闘を書くにあたって、せっかく鍛えた主人公には「物理の戦い」をさせてみたいと思い、あえて魔法を使った展開にはしませんでした。
ちなみに、この四か月ほど作者もジムに通い、72kg⇒65kgと成果を出しました。
「この小説書いている間、ジムはどうしているか」って? ..........それは聞かないでください。(汗)
次回は2026年9月19日、10時10分更新予定です。




