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第一話 女神の祝福(スパルタ)

 こんにちは。本作の作者「野生の書生」です。序章に続き、第一章を開いていただきありがとうございます。


 本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。

 主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。


 この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。

 転生を決めた後のルミナによる説明は単純明快だった。

 ひとつ、異世界における言語や生活習慣等の最低限の知識は転生時にルミナが付与する。

 ひとつ、体は今の高校二年生のまま転生する。初期ステータスは標準的な値にとどめる。

 ひとつ、最初の三か月は脳を通じてルミナと言葉を交わすことができ、必要なサポートをする。


 ルミナからそれだけ伝えられると、俺は見知らぬ森の中へと立たされていた。


 ここが異世界——。


 あたりを見回したが一見すると何の変哲もない、ただの森だった。自分の体を見ると、前世と何ら変わらない自分の肉体がそこにあった。

 ただ、服装は高校の制服から、冒険者の初期装備といった風情のものに変えられていた。腰にはポーチと短剣、中身はないが水筒と麻袋などがつけられていた。


 俺はあいつらのいないこの世界で、あいつらに負けない”意味のある人生”を歩んでやる。

 新たな誓いを胸に異世界へと降り立ったものの、正直ここからなにをすればいいのかは皆目見当もつかなかった。

 

 「無事に転生できたようね。」

 ルミナの声が脳内に響く。

 ぎょっとしてあたりを見回すがルミナの姿はどこにも見えない。

 

 「説明したでしょう。これから三か月間、あなたの転生生活をサポートします。まずは、あなたがこれからどうなりたいかを決めなさい。」

 ルミナは呆れたように言った。

 

 俺はどうなりたいのか。改めて考えてみると、その答えは漠然としていた。そもそも前世では「今日を生き延びること」が自分の進路として考えうる精いっぱいだった。俺はいったいどんな人間になりたいのだろうか。



 「...............強くなりたい。」

 ほとんど自然にでた言葉だった。前世の俺はルミナに言わせれば”居場所を作れなかった”男だった。だから今度は自分の居場所を、自分の力で作ることができる、そんな強い男になりたかった。


 「わかりました。あなたの新たな人生に祝福を授けます。」

 ルミナはそういったが、相変わらず祝福する気など微塵も感じさせない声色だった。


 そこからはルミナによるチュートリアル、もといスパルタコースの始まりだった。

 ルミナは最初の三か月間は街に出ることを許さず、この森の中で生活しろと言ってきた。


 最初に俺は森の中を延々と歩かされて、ねぐらとなる洞窟を探すこととなった。ルミナはどこに洞窟があるかなどの情報は一切くれなかった。道中魔物に遭遇しなかったのは、運が良かったのか、それともルミナの加護によるものだったのか。


 ねぐらを確保すると、次は水と食料だ。ポーチに干し肉が少し入っていたが、これでは早晩確実に飢えて死ぬ。

 ルミナの指示のもと森の中を歩いていくと、湧き水を見つけることができた。水筒に水を流し込もうとする——。

 しかし、そこでルミナからストップがかかった。


 「湧き水は飲めるとは限らないわ。鑑定魔法を使いなさい。」


 ルミナの指示で鑑定魔法を呼び出そうとする。ルミナの知識付与で知ったが、この世界は個人の属性として、魔法を扱うことができる。ほとんどの人間は魔法を扱うことができるが、その威力や使い勝手は個人の力量に大きく左右されるそうだ。

 鑑定魔法を用いて、湧き水を鑑定する。鑑定の結果、一見無色透明だが鉱毒を多く含んでいることがわかり、飲用にはできないと判明した。


 「この水は駄目ね。次を探しましょう。」

 ルミナは淡々と告げた。

 ——やっぱりルミナは飲める湧き水の場所を、一発で教えてくれるほど甘くはない。


 日が陰り、森全体が夕方の空気に包まれるころ、俺はようやく飲用可能な湧き水にたどり着いた。森の中を散々歩きまわった挙句、湧き水があった場所は、ねぐらの洞窟の奥というのだから、徒労感が半端ではない。


 「次は食料ね。」

 俺が疲労で押しつぶされそうなことなど構わずに、ルミナの指示が飛ぶ。

 ルミナの案内で夜の空気が漂い始めた森を歩くと一匹の二足歩行の魔物、”ゴブリン”を発見した。

 

 「まさか、ゴブリン食えってのか?」

 俺がたまらずという風に脳内でルミナに話しかけると、

 

 「ゴブリンは食べられないわ。いいから言うとおりにしなさい。」

 と返してくる。

 

 「足元の石を拾いなさい。それをあのゴブリンに投げるのよ。」

 ルミナがさらりと言った。

 

 「は.......?」

 意味不明だったが、俺はやむなく、恐る恐るの体で、ゴブリンに向けて石を投げた。

 案の定、こちらに気づいたゴブリンが棍棒を片手に襲ってくる。


 俺はたまらずに絶叫した。

 しかしルミナは、「腰の短剣で戦いなさい。」と脳内に呼びかけてきた。

 

 教室で散々いたぶられてきたが、俺は結局拳一つ相手に上げることはできなかった。

 そんな俺が異世界で魔物相手に短剣で戦う............?

 異世界行きを選んだのは俺だが、いざ魔物を目の前にすると、もはや悪い冗談としか思えなかった。

 

 それでもゴブリンは俺めがけて棍棒を振り下ろしてきた。俺はのけぞって、なんとかそれを躱すが、ゴブリンは続けざまに攻撃を打ち込んでくる。

 

 「戦いなさい。あなた覚悟を決めたんでしょう!?」

 ルミナの声が脳に響く。

 

 ——そうだ。俺はこの世界で強く生きるって決めたんだ。

 だったら、ここで戦うしかない——。

 俺は腰に手をやり、短剣を抜く。剣の使い方など全く知らない俺は、無我夢中でゴブリンに向けてそれをふるった。ゴブリンは一瞬動揺したが、こちらの攻撃の間合いを見極めて突進してくる。その手に握られた棍棒が、俺の頭めがけて振り下ろされてきた。


 <あ、これもう駄目なやつだ。>

 俺は内心で悟った。ところがその時、ゴブリンが振り下ろした棍棒は何かにさえぎられたかのように、俺の眼前ではじき返された。

 ルミナが初めて明確に”女神の加護”を発動した瞬間だった。

 

 「今よ。やりなさい!」ルミナの声が響く。

 俺は再び夢中で短剣をふるい、ゴブリンの首筋に短剣を突き立てた。

 文字通りの断末魔の叫びが森の中に響き渡る。

 

 俺はつづけて短剣を振ろうとしたが、ゴブリンに刺さった短剣は非力な俺では抜くことができず、やむなくゴブリンが落とした棍棒を拾い、その頭めがけて叩きつけた。

 

 人生においてこれほどまでに相手に明確な敵意を持って殴り掛かったことがこれまでにあっただろうか。生まれて初めての「暴力」をふるいながら、俺の頭は半ば空白に支配され、ゴブリンの体を棍棒で何度も、何度も叩き続けていた。


   ◇


 肩で息をしながら、俺は足元に視線を落とす。そこには首を刺された上に、頭を割られて絶命した、見るも無残なゴブリンの亡骸が横たわっていた。

 お世辞にもスマートとは言えない初めての狩りの”獲物”だった。

 

 「それで、女神様。これをどうすればいいのですか。」

 俺は震える声でルミナに聞いた。


 「まずは短剣を回収しなさい。それで、ゴブリンのはらわたを持ち帰るのよ。」

 ルミナは女神とは思えない内容のセリフを淡々と言ってのけていた。

 

 だが、もはや俺の思考回路は麻痺していた。ルミナのいう通り、首筋に刺さった短剣を力任せに引き抜くと、ゴブリンの遺体を転がして、その腹に短剣を当てた——。


 そこから先の記憶はなく、俺はゴブリンのはらわたを麻袋に入れて持ち帰った。さすがにゴブリンのはらわたと枕を並べる気にはなれず、洞窟の外に麻袋を置くと、転生初日にして死んだように眠っていた。

 夕食を抜いた空腹感についても、もはや頭になかった。


   ◇


 翌朝、俺は魔物の甲高い声で目を覚ました。

 太陽は既に高く上り、洞窟の中にまで朝の光をもたらしていた。

 何事かと思い飛び起きると、洞窟の外では、昨晩俺が仕留めたゴブリンのはらわたが入った麻袋を狙って、熊のようなモンスターが一頭、おびき寄せられていた。


 「やっと起きたわね。さあ、あの熊を仕留めなさい。あの熊が朝食よ。」

 開口一番、挨拶よりも先にルミナの口から脳内に指示が飛ぶ。


 「仕留めろって.......。短剣でどうにかなる相手じゃないでしょ。」

 俺はルミナに言った。


 「あなたには今日から攻撃魔法を教えます。今から言う詠唱を正確に復唱しなさい——。」

 ルミナの攻撃魔法の詠唱が始まる。


 こうして俺の転生最初の三か月間は、ルミナのスパルタコースによって異世界サバイバル術が仕込まれていった。


   ◇


 転生してからいよいよ三か月。俺はこの森の中で、大体のモンスターは単独で仕留めることができるほどに魔法も剣術も上達していた。

 最初はあれほどてこずっていたゴブリンも、今では自作の罠を使って無傷で捕獲することも可能となっていた。

 ある時はルミナの指示で、魔法も短剣も使わずにオオカミのような魔物と戦わされたこともあったが、地形を利用した戦法を駆使して、己の腕一つで仕留めることができるようになっていた。


 攻撃系も、防御系も、支援系も、「強くなりたい」と願って以来、ルミナは俺にあらゆる「強さ」を授けてくれた。

 そんなルミナによるスパルタ教育も今日で最終日だった。


 「では、あなたへの転生のサポートは本日をもって終了とします。これからは、あなたはその足で立ち、その手で自分の居場所を作りなさい。」

 ルミナは静かに告げた。

 

 「はい。女神ルミナ様。ここまでのご指導、本当にありがとうございました。」

 俺は心の底から感謝を伝えた。

 

 ゴブリンを無様な戦いの果てに仕留めたあの日から、最初は自分の精神がおかしくなってしまうのではないかと思ったが、俺はルミナの指導の下で確かに力をつけてきた。

 だから、ルミナに対しては今では尊敬と感謝の念を抱いていた。


 「では、最後にあなたはその力で何をしたいのか、聞かせてください。」

 ルミナは続けた。

 

 「俺はこの力で今度こそ自分の居場所を作って見せます。そしてこの力は決して誰かの居場所を奪うためには使わないと誓います。」

 俺は一瞬のよどみもなく、己の力の使い道を宣言した。

 

 「わかりました。では、あなたとはここでお別れです。あなたに祝福として新たな名前を授けます。これからはレオンと名乗りなさい。」

 

 「レオン——。」

 

 俺は口の中でその名を繰り返した。これからこの世界で、新たに自分の居場所を作り出す男の名だ。

 

 「立派な名前をありがとうございます。女神様。」

 どこか誇らしい気持ちになり、俺はそう返していた。


 ルミナはもう何も語りかけてくることはなかった。


 羽沢蓮、もとい“レオン”はここに異世界の住人として正式に、新たな一歩を踏み出した。


 プロローグに続き、第一話も読んでいただき、ありがとうございました。


 「ゴブリンのはらわたで別の魔物を仕留める」というのは、実は「釣ったサバの頭を使って、ウツボを釣った」作者の経験に着想を得たものです。

 現代人はスーパーに行けば、肉も魚も手に入り、「命をいただいて生きている」ことを実感する機会が少ないものです。主人公にとってもこの経験は「なぜ命は尊いのか」を考えるきっかけになったかもしれません。


 さて、ルミナの祝福(修行の間違いでは?)により、新たな力を得た主人公が、いよいよ街に出るわけですが、その実力のほどはいかに。

 引き続き、レオンの新たな旅立ちの物語にお付き合いいただければ幸いです。


 第二話は2026年9月18日21時10分公開を予定しています。

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