シーズンⅠ プロローグ 転生
はじめまして。作者の「野生の書生」です。
本日から新連載を始めさせていただきます。初投稿なので、暖かい目で見ていただければと思います。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
九月の雨が降りしきる中、高校二年生の俺、羽沢蓮は学校の帰り道を歩いていた。
今日もまた、散々な目にあわされた。上履きは隠され、ノートは破かれ、教科書は内容が読めないほどに落書きされていた。周囲からの嘲笑と哀れみの目にさらされて、今日も俺は重い足取りで帰路につく。
この世界に俺の居場所はない。新学期が始まってからというもの、俺の胸の内にはその確信がますます色濃くなっていた。
通学路の途中にある公園、俺は帰り道によくここに立ち寄る。ここで遊ぶ子供はめったに見ない。そのうえ今日はこの雨だ。この場所は人っ子一人いない。ここは俺の唯一の「居場所」だった。
高台に面したこの公園は、一番奥の崖まで行くと学校のある街を一望できる。
『世界は広い。ここではないどこかに自分の居場所はきっとある。』
何も知らない人間は無責任にそういうだろう。
だが、現実問題として学生の俺が生きていくことができるのは、この眼前に広がるちっぽけな街だけなのだ。
ふと視線を下に向ける。この公園は高い崖に面している。手すりにもたれかかって身を乗り出し、真下の風景を目に入れる。
「いっそ、ここから落ちてしまえば——。」
何度となく思ったその想像が今日もまた胸をよぎる。
だが、そんなことでは何も解決しない。俺が死んだところで、あいつらはきっとのうのうと生き続けて大人になっていく。
このうえなぜ自分が痛い目を見なければならないのか。
そう思うと、俺の視線は再び眼前の街並みに移される。
これがもう何度も繰り返してきた俺のルーティンだ。
だが、その日は違った。雨で崖がぬかるんでいたからか、あるいは何度も体重を預けた結果、手すりの強度が弱まっていたのか、俺の目にいつもの街並みが映ることはなかった。
「えっ——。」
眼前の視界がひっくり返る。さっきまで立っていた公園が空に吸い込まれるように遠ざかっていく。崩れた土くれが地面に降り注ぐ轟音がした後、俺の視界は突然閉ざされた。
◇
目を覚ますと俺は椅子に座っていた。あたりは暗く、自分が座っている椅子以外、何も見えない。
いったい何が起きたのか。覚えているのは、いつもの公園にいたところ突然崖から落っこちて——。
俺は慌てて自分の体を確かめる。両腕・両足とも何も問題はない。意識もはっきりしている。特に痛む部位もない。
俺は助かったのか?なら、どうして椅子に座らされている?
様々な疑問が頭を満たす中、突然目の前が明るくなった。なにかと思うと、空から、美しく、しかしその表情からは一切人の体温を感じさせない女性が、文字通り「降臨」した。
女性は告げた。
「羽沢蓮さま、あなたはたった今死にました。」
俺には何がなんだかさっぱりわからなかった。死んだ?俺が?ここはどこだ?あなたはいったい、誰なんだ?
「私はルミナ。女神ルミナです。」
その疑問に応えるかのように女性は続けていた。
俺は死んだ。ここは死後の世界。目の前にいるのは女神様。
それだけのことを理解した俺は、「そうですか.........。」と力なく言葉を返した。
死にたくはなかった。だけど大した苦痛を伴わず、死後の世界に行くことができたのなら、今の俺にとっては、ある意味僥倖だ。そう思う反面、そんな考え方しかできない自分が、ひどく情けなくなった。
しばしの沈黙が訪れる。ルミナはただ俺の顔を見つめている。
「なにもおっしゃらないんですね。」
そんな俺の心を読んでか、ルミナは言った。
「生前のあなたのことはある程度把握しています。あなたの人生は客観的に見ても救いのないものでしたね。」
女神様といえども、自分の人生を総括されるのはいい気分じゃない。しかし、その結論に言い返す余地がないのもまた事実だった。
ルミナは俺の顔をしばらく見た後、おもむろに告げた。
「あなたにもう一度チャンスを与えます。これからあなたの魂を生前の世界とは違う、異世界へと転生させます。そこでもう一度人生をやり直すのです。」
文字面だけでとらえれば、人生をやり直すための女神の慈悲。だがルミナの口調は慈悲というよりも命令のそれに近かった。
なにより、俺はもう人生をやり直したくなどなかった。
「お気持ちは感謝します。ですが、俺はもうだれかを傷つけるのも、誰かに傷つけられるのもたくさんなんです。だからこのまま——。」
俺はよどみなく、迷いのない口調で言った。
その場に再び沈黙が訪れる。
「あなた、悔しくないの?」
唐突にルミナは言い放った。
「たくさんの人に踏みつけられて、見放されて、このまま自分の人生になんの意味も見いだせないまま、終わりにして本当に良いわけ?」
先ほどまでの口調とは異なる、少しは感情の起伏を感じさせる声だった。それでも、俺の答えは変わらない。
「まあ、いいわ。これを見なさい。」
ルミナはそういうと指をぱちんと鳴らした。するとルミナの右後方に突然光が現れ、俺の眼前に映像が映し出された。——俺の葬儀会場の様子だった。
棺に納められた俺の遺体を前に、学校のやつらが、沈痛な顔で線香をあげていた。彼らはそろって涙をこらえたような顔をしている。しかし、泣き顔の皮をかぶったその薄っぺらさが、映像越しでも今の俺からは透けて見えていた。
こんな映像を見せてどういうつもりだ?俺はルミナのほうをちらと見るが、ルミナは相変わらず冷酷な表情でただ俺を見続けていた。
俺の気持ちは変わらない。
そう思っていたが次の瞬間、俺の頭は熱した鉄球を入れた水のように一気に沸騰した。
喪服姿で涙を流す俺の両親。その前に立って頭を下げているのは、吾妻翔也。——俺をどこまでもいたぶり非道の限りを尽くした男が、今は俺の父に、さも大切な親友を亡くしたかのような顔をして、礼をしている。
続いて高坂優衣奈。——クラスで起きたいじめ問題を「問題児である羽沢をみんなで助けている。」という風に装い、笑顔で隠蔽した学級委員長が、クラスの沈痛な思いを代弁しているかのように母に話しかける。
やめろ。ふざけるな。お前らの汚い顔と声で、俺の両親に近づくな——。
「もういい。やめてくれ!」
俺はたまらず、椅子から立ち上がりルミナに叫んだ。ルミナは映像を消すと、先刻と変わらぬ表情で俺を見続けている。俺は椅子に座りなおすことができず、その場に崩れ落ちた。今になって涙がこぼれてきた。
棺の中の俺は、何で何も言わないんだ。どうして今すぐ起き上がって、参列しているクズどもを片っ端からぶんなぐって「こいつらは親友なんかじゃない!」と叫ばないんだ——。
「女神様..........。どうして俺はあの世界で居場所を与えられなかったのですか........。」涙でくしゃくしゃになった顔を上げて、俺は絞り出すように、ルミナに問うた。
「環境のせいにしないで。あなたに居場所がなかったんじゃないわ。あなたが自分の居場所を作れなかった。それだけよ。」
冷徹な、一切の反論を許さない女神の神託だった。
俺はもうなにも言い返せず、自分の拳を何度も床に打ち付けていた。体は死んでいるはずなのに両手の拳は痛い。心臓は止まっているはずなのに悔しさに胸が締め付けられている——。
どれぐらいそうしていただろうか。俺の拳が血で染まるころ、ルミナは最後通告といったように声をかけてきた。
「どうするの。このまま成仏して“俺の人生には何の意味もありませんでした”って結末にするの。それとも今からでも自分の人生に意味を探して、あいつらを打ち負かすような結末を作ろうって気はないの。」
血がにじむ両手の拳を開き、地面につけると、俺はゆっくりと立ち上がってルミナの目をまっすぐに見て、言った。
「人生をやり直します。俺を異世界へと案内してください——。」
俺の物語が幕を開けた。
初めての小説執筆、緊張しました。
個人的には、いじめや暴力のシーンを書くときに、ものすごく体力を消耗しています。
物語の性質上、「こいつら最悪だな。」と思っていただけるだけの凄惨さを追求した結果、人間の悪意にフォーカスせざるを得ないのがつらいところです.........。でも、そんな悪意によるトラウマをはねのけて成長していく主人公に負けないよう、私も文章力を含めて成長していきたい所存です。
さて、次はいよいよ異世界に降り立った主人公が女神ルミナから祝福を授かる第一話です。もしよろしければ、引き続きお付き合いいただければと思います。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
(しまった。最終話の時、挨拶なんて書こう.......(笑))
第一話は9月18日17時40分公開予定です。
本日中にヒロイン(?)登場の第2話まで公開する予定です。
☆ シルバーウィーク期間中に第一シーズン完結、第二シーズン開幕まで一気に公開する予定です!




