シーズンⅢ 第九話 証言者
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回はフードの男から協力を得ることができたところまでを書きました。
今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
フードの男の証言で、「黒い天秤」に名を連ねる腐敗貴族連中はかなりの人数を特定できていた。
ジークフリートが「黒い天秤」にいた時の情報と併せれば、ほぼほぼ組織の全容に迫れそうだ。
しかもその大部分は今夜行われる「グランツ公爵を告発する会」に主催者側として出席するらしい。
「これなら勝てる........!」
ジークフリートもカイルも色めき立っていた。
「だが、俺は所詮雇われた殺し屋だ。信用調査ってことで、俺も雇い主のことは調べさせてもらったがな。だが、犯罪者の俺が証言したところで、世間の連中は信用しないだろう。」
フードの男は言っていた。
そこは俺も懸念していたところだ。「黒い天秤」の面が割れても、証拠がない。
「グランツ公爵を告発する会って言ってたよな?具体的には何をするつもりなんだ?」
俺は聞いてみた。
「先日つぶれた鉱山。あそこで救出された奴らが証言するそうだ。”グランツ公爵とその一味に連行された”ってな。だが、彼らは本物じゃない。鉱夫と人柱という"役名"で、あいつらは冒険者崩れのゴロツキどもを雇って、即席の劇団を作る気だ。」
フードの男は言った。
「人柱も偽物かよ。」
ジークフリートは吐き捨てるようにいった。
「だが、それなら話は早い。解放された本物の鉱夫たちは今、騎士団の事務所で保護されている。彼らに協力を仰げば、”偽物”もろとも「黒い天秤」を拘束できる。」
カイルが言っていた。
かくして、俺たちは騎士団の事務所に向かった。
◇
騎士団の事務所前でアリアとカイルが事情を話し、鉱夫たちへの面会を求めたが門番の騎士たちの対応は冷淡だった。
「ここを通すわけにはいかない。すぐにお帰り願います。」
門番の男は明確に拒絶した。
「公爵家の命令です。ここを通しなさい。」
アリアは言った。
「グランツ公爵家.........。聞けば、長くこの国に蔓延していた腐敗貴族の首魁、それがあの男の正体だという話ではないか。で、あれば当然、あなたがたを通すわけにはいかん。」
「その嫌疑を晴らすために協力してほしいと申しているのです。」
カイルが言い添える。
「ならん。よもや保護した彼らが余計な口を割らないよう、ここで口封じを図る気か?」
そういうと、門番の男はアリアを汚いものを見るかのような目で睨んだ。
「貴様...........!」
カイルが腰の剣に手を掛けようとしたが、アリアがそれを遮った。
「カイル。いったん引きましょう。」
アリアがたしなめ、カイルも手をもとの位置に戻した。
◇
騎士団の事務所前を離れて、俺たちは路地裏で八方ふさがりの現実をかみしめていた。
会の開催まであと五時間。
フードの男の話では、会を通じて世論全体に”グランツ公爵が黒幕”と印象付けさせたうえで、一両日中にグランツ公爵は処刑か、”良心の呵責による自殺”というシナリオをたどるそうだ。
「おい。どうするんだ。これじゃあ”告発する会”をつぶすどころか、いずれ俺らまで濡れ衣着せられてブタ箱行きだぞ。」
ジークフリートが呻いた。
「監視役の男たちの方も同様だろう。彼らも騎士団に拘束されているが、我々との面会を認めてもらえるとは思えないな。」
カイルが額に手を当てて言う。
俺は改めて自分の無力を思い知った。
”公爵家”の後ろ盾が失われては、王都の中ですら自由に動けない。
「王室は........どうしているんだ。彼らはグランツ公爵とともに魔石密売組織の摘発に関わっていたはずだ。なんとか協力を頼めないか。」
俺は藁にもすがる思いで言った。
「無理でしょうね。確かに王室の直属部隊が魔石密売組織の摘発に手を貸していたけれど、腐敗貴族グループに関しては『すべてを疑ってかかれ』と言われていたわ。今、グランツ公爵に嫌疑がかかっている以上、彼らが私たちの言葉に耳を貸してくれるとは思えないし、彼らに接触することも困難でしょうね。」
王室に雇われていたエレナが言った。
予想はしていたことだが、やはり現実は甘くはない。
「誰か..........。誰でもいい。あの鉱山の真実を語れる証言者がいれば......。」
俺は両手の拳を握りしめた。
「待てよ.........。確か。」
ジークフリートが何かに思い至ったように、口を開いた。
◇
太陽が傾きかけた王都の一角で、俺たちは宿場町を片っ端から当たっていた。
サーシャ、――宮本の顔を持つ、鉱山で人柱にされていた女。
俺たちはそいつの姿を全力で捜していた。
無論、サーシャに会えたからといって、事態が好転するとは限らない。
むしろ、鉱山の入口でグランツ公爵(偽物)の姿を目撃した彼女にとって、グランツ公爵が黒幕という筋書きは納得いくもののはずだ。
だが、人柱が偽物であることは証言できる。
俺たちはその一縷の望みにかけるしかなかった。
ジークフリートは騎士団の事務所の住所が書かれたメモを渡したらしいから、この近くに滞在している可能性があるということだったが.......。果たして間に合うか?
「あの........。もしかして。」
背後から声を掛けられたのは、空の片隅が夜の色に染まりかけたころだった。
俺は振り返る。
俺にとっては前世の憎むべき顔。
だが、今はだれよりも必死になって探していたその顔を目前にして、俺は一も二もなく、その肩をつかんでいた。
第九話もお読みいただきありがとうございました。
伏線回収が始まったということで、ここからは長めの話が増えていきます。
作者としても、書きやすいフェーズに入りました。(たぶん)
次回は2026年9月29日7時10分公開予定です。
高評価、感想、ブックマーク等をいただけたら、より一層頑張れると思いますのでよろしくお願いします。




