シーズンⅢ 第七話 虚像
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回は暗殺者を追い詰めたところ、レオンが二人いるという状況に発展するところまで書きました。
今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
煙幕の晴れた後の展開は、俺にとっては悪夢だった。
俺がどれだけ必死に「俺が本物だ!」と主張しても、
偽物の方も「嘘つけ!」と俺に言い返してくる。
エレナが鑑定魔法を試してみたが、俺も偽物も、何も表示されなくなっているそうだ。
厄介なことにこいつは俺の記憶までコピーしているようで、俺しか知らないはずのことも答えやがる。
——こいつ、前世のことまで把握しているのか?
だとしたら、余計なことを口走らないでくれよ。
「うむ。これでは埒が明かんな......。」
カイルが額に手を当てる。
いつまでも、迷ってはいられない。
どうやったのかはわからないが、こいつが俺に化けた目的は時間稼ぎだろう。
見た目上、身体は修復したようだが、こいつの魔力はまだ回復しきっていない。
おそらく、魔力が回復したら化けの皮を剥いで逃げるか、”仕事”を果たすかするつもりなのだろう。
俺も含めて拘束させるか?
いや、拘束する手段に出た途端、おそらくこいつは逃げるだろう。
「ジークフリート殿.......。これはおそらく。」
カイルがジークフリートに耳打ちする。
「ああ。鉱山で写っていたグランツ公爵の偽物と関係がありそうだ。」
ジークフリートが返す。
そうだ。おそらくこいつがグランツ公爵に化けていたのだろう。
おそらくは鉱山に万一のことがあった時に濡れ衣を着せるために。
鉱山の所有者がどこまで知っているのかはわからないが、口封じを図るぐらいだから、「黒い天秤」につながるなにかがあるはずだ。
<やはり、こいつは生け捕りにしたい。>
俺はそう思った。
「父上に裏切られて........。信じた仲間にまで裏切られて........。」
唐突にアリアが空を見上げてつぶやく。
「アリア様..........?」
「アリア............。」
おい。ちょっと待て。いったい何の話が始まった?
「レオン様。あなたが「黒い天秤」に情報を流し、自分の複製を用意させていたのですね。..........残念ですが、その事実を受け入れるしかなさそうですね。」
アリアは絶望しきったような目で、俺と”俺”を見ながら続けた。
なんだ?何の話をしているんだ?アリア?
「私ももう限界です。レオン様、来世ではどうか私のおそばに........。」
アリアはそういうと剣を抜き、自分の首に当てた。
首筋から血の筋がしたたった。
「やめろ——!」
俺は飛び出していた。
偽物の俺も飛び出そうとしていた。
が、偽物は罠を警戒したのか、俺より反応が一瞬遅れた。
「そちらです!そちらが偽物です!」
アリアが出遅れた偽物の”俺”を指して叫んだ。
◆
——アリアは気付いていた。
レオンが出会った当初、自分の外見に何かしら怯えと警戒の表情を見せていることに。
だが、これまでの旅路で徐々にそれは変化していき、今の信頼関係が出来上がった。
本物のレオンにはその旅路の”経験”がある。だが、偽物には旅路の”知識”しかない。
その差にアリアは賭けたのだった。
◆
「よっしゃあ!」
ジークフリートとカイルが一斉に動き出す。
クロエが水魔法を浴びせかける。エレナがそこに凍結魔法をかける。お得意の足止めだ。
偽物の俺は足元を凍結させられて、動けなくなった。
続けて、ジークフリートとカイルが偽物の俺に剣を突きつけた。
「——おい。いつまで俺の仲間の面、被ってんだ?あんまり続けるようだと、こいつで面の皮剥いじまうかもしれねぇぞ?」
ジークフリートが偽の俺の顔に剣を突きつけて言う。
その光景に、俺はなんだか嫌な記憶がよみがえりそうな気がしたけれど、最近はもう前世の記憶にとらわれることもなくなってきていた。
偽物の俺の体からなにか液体のようなものが滑り落ちた。
そのあとには元の姿に戻ったフードの男がいた。
偽物の俺の体から落ちたものは、——スライムだった。
「フン.........。どうやら俺はここまでみたいだ。せいぜい長生きしろよ、相棒。」
フードの男はスライムに呼びかけていた。
ジークフリートはフードの男の拘束に取り掛かった。
フードの男は、もう抵抗はしなかった。
「アリア様.......。本当に無茶はなさらないでください。」
カイルは叱るような口調で言っていた。
<これではグランツ公爵の懸念ももっともだな。>
アリアに助けられながらも、俺は心の中でグランツ公爵に同意していた。
「ねえ、アリア。さっきの演技すごかったけど........。『来世ではおそばに。』って何?」
クロエが聞いていた。
エレナもアリアに顔を向けた。
ジークフリートも<なんか始まったか?>と言わんばかりに寄っていった。
「あれは.......。とっさの演技で.............。」
アリアは赤面しながら答えていた。
「なあ、カイル。お前、早くしないとアリアまでとられちまうかもしれねぇぞ。」
ジークフリートがカイルの耳元で言う。
「貴殿は自分の仕事を早く済ませなさい!」
カイルは家の方を指さして言う。
はやく鉱山の所有者を確保してこい、という意味だ。
「へーい、へーい。」
ジークフリートは家の方に向かう。
その様子を見ていたフードの男は、俺の側で耳打ちした。
「お前、気苦労が絶えねぇかもしれねぇけど。本当に良い仲間を持ったな。うらやましいよ。」
<こいつ、本当に俺のことをどこまで知っているんだ?>
声を掛けようとしたが、拘束されながら寂しそうに笑うフードの男にそれ以上のことは聞けなかった。
第七話もお読みいただきありがとうございました。
どちらが本物のレオンかを見抜く方法については、作者もいろいろと考えました。
お気づきのかたもいらっしゃると思いますが、今シーズンのテーマは「アリア回」です。
アリアの高潔さと活躍をできるだけ、盛り込みたいと思い、今回の描写に至りましたがいかがでしたでしょうか..........?
さて、次回は2026年9月28日7時10分、公開予定です。
高評価・感想に加えて、ブックマーク等いただけたらと思いますので、よろしくお願いします。




