シーズンⅡ 第十話(最終話) 絆
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回は主人公とエレナが命からがら坑道から脱出するところまでを書きました。
今回はその続きです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
鉱山が崩落したあの後。俺たちは一仕事終えた疲れを癒すため、再びあの温泉街に来ていた。
俺は今、湯船につかって、全力疾走した自分の体を労わっていた。
ジークフリートとカイルは、何やらまた騒いでいた。
「何するんですか!」
カイルの声がする。
「名誉の負傷じゃねぇか!かっこいいねぇ!」
ジークフリートの声が続く。
——大方アリアを庇ってできた傷を、ジークフリートが茶化しているのだろう。
ふと、自分の右手を見る。俺はエレナに坑道から助け出された後のことを思い出していた。
◇
俺とエレナが坑道を脱出したあの後、クロエも、アリアも、カイルも、ジークフリートも俺に駆け寄ってきた。
俺らの側に来るなり、四人いっぺんにいろいろと声を掛けてきたから、一人一人がどんな声掛けをしてくれたかは分からなかったけど、みんな俺の生還を喜んでくれていたようだ。
俺が「もう大丈夫だ。」と伝えると皆一様に胸をなでおろした。
ただし、クロエは喜びの笑顔のまま、
「ねえ、エレナ。レオンを助けてくれたことは感謝してるんだけど......。いつまで手握ってんの?」
と若干の怒気が混ざった声で言っていた。
俺もクロエに言われるまで気付かなかったが、仰向けになって呼吸を整えている間、俺とエレナはずっと手をつないだままだったのだ。
俺は慌てて手を離そうとして、やめた。
今度はゆっくりと、エレナの顔を見て、エレナと同じタイミングでお互いの手を離した。
その様子を見ていたクロエはますます頬を膨らませていたが、
「........エレナは大切な友達だからねっ!」とだけいうとプイと横を向いてしまった。
一方、アリアは俺の無事を確認すると、外で待機していた騎士団たちを労うとともに、保護した鉱夫や、拘束した監視役の男たちを王都に移送する手配を進めていた。
アリアの手際の良さは本当に頼もしい限りである。
ちなみに、カイルも負傷兵として王都に移送されるのかと思ったが、本人の希望で俺たちと帰りも同行するということになったそうだ。
「”俺たち”じゃなくて、”アリア様”に同行したいってことだよな。カイル君?」
ジークフリートはカイルの側に行くと、そう耳打ちしていた。
「そのようなお考えは不敬である!」
カイルが即座に返した。
「おーおー。それだけ動けりゃ問題ないわな。じゃ、俺は自分の仕事してくるから。」
そう言って、ジークフリートはどこかに行ってしまった。
「ジークフリート殿は一体なんなんだ.......。」
カイルはため息交じりにつぶやいた。横で聞いていた俺も、同感だな、と思った。
——だが、それと同時にジークフリートの仕事ってなんだ?と思った。
俺たちはすでに一仕事を終えて、アリアの騎士団への指示が終われば、晴れて自由の身のはずだ。
◇
俺はジークフリートを探してみた。
と、いってもさっき俺たちが脱出した坑道の入口でその姿を見つけたから探すというほどでもなかったが。
俺はジークフリートに声を掛けようとして、——掛けれなかった。
ジークフリートは目を閉じて、その両手を胸の前で合わせて、崩落した坑道に向けて黙とうを捧げていたからだ。
元は「黒い天秤」に所属していた彼だ。しかも、彼は友人を鉱山がらみの話で亡くしている。この鉱山をめぐる一連の騒動にも思うところがあるのかもしれない。
そう考えると、その背中は安易に立ち入るべき領域ではないと俺には思えたのだった。
俺は黙って踵を返し、自分の荷物を馬車に積み込むことにした。
◇
かくして、俺たちは今は温泉宿でのんびりしているという具合だ。
しかし、さすがにのぼせてきた。そろそろ上がるか.......。
「で、そっちはどうなんだよ。レオン。」
ジークフリートがいつの間にか俺の背後に迫っていた。
本当にいつも絶妙な間合いで声を掛けてくる。ワザとやっているのか?
「どうってなにがだよ。」
「決まってるだろ。クロエとエレナ。.........どっちにするんだって話だよ?」
「........あいつらは俺の大切な仲間だ。それが俺の正直な気持ちだよ。」
「ほー。じゃあさっきからなんで右手ずっと眺めてんだよ?」
——言われて気づいた。赤面しているのが自分でも分かったから、
「なんでもない。もう上がるわ!」
俺はそう言って、脱衣所に向かうことにした。
「ありゃこれから苦労するわ。」
ジークフリートはカカカと笑うようにして言った。
「だから、ジークフリート殿は度が過ぎると.......。」
カイルが呆れたように言う。
昨日とよく似た光景。でも、今日の俺の足取りは軽かった。
◇
脱衣所を出たところで、俺はエレナと遭遇した。エレナも今日は風呂上がりのようだ。
昨日のことを思い出し、一瞬気まずくもなったけど、エレナは俺に笑顔を向けて
「まだ時間あるし、どこか遊びに行かない?」と、俺の手を握ってきた。
——もう、その手を振り払う理由はどこにもなかった。俺はエレナと温泉宿の外に出た。
◇
エレナは温泉宿の外、昨日俺たちが座っていたベンチに腰かけていた。
夜風が風呂上がりの火照った体に心地よかった。
今度は俺が飲み物の瓶を二本買ってきた。あと、お礼も兼ねて温泉饅頭っぽいお茶菓子も。
俺はエレナに飲み物を差し出した。
エレナはそれを受け取ると、「ありがとう。」と言って笑った。
ただそれだけなのに、俺は今日一日の疲れがすべて消えてなくなるような気分だった。
俺はエレナの隣に座る。ただ、何から話せばいいのか分からなくなって、
「..............乾杯しようか。」
と突拍子もないことを俺は口にしていた。
「カンパイ?」
エレナが聞き返してきた。
「俺の故郷の風習だよ。何かが成功して、一緒にお祝いしたいときに、お互いの飲み物が入った入れ物を”乾杯”ていう掛け声に合わせて軽く当てるんだ。」
エレナは初めて聞くであろう、その風習に不思議そうな顔をしていたが、先ほど渡した瓶を俺の目の前に差し出してきた。
「カンパイ。」
エレナがそっと声を出す。
「乾杯。」
エレナが差し出した瓶に俺の瓶を当てる。
昨日と同じ満天の星空の下、ガラスとガラスが触れ合う軽やかな音が、夜の温泉街にそっと響いていた。
シーズンⅡ最終話までお付き合いいただき、ありがとうございました。
「『腐敗貴族グループ』出てきてないじゃん。」ってコメントもあるかもしれませんが、今回は組織の資金源をつぶして奴隷となった鉱夫たちを救出するという軸のストーリーだったので、それはまた次回作で。
途中でお気づきの方もいたかもしれませんが、このシーズンのテーマは「エレナ回」です。
今後、「アリア回」「クロエ回」も予定していますのでご期待いただければと思います。
シーズンⅡも楽しんでいただけたのなら幸いです。
あと、2026年9月24日21時10分にエピローグも公開予定なので、そちらもお読みいただければと思います。
【次シーズン】
シーズンⅢ プロローグは2026年9月25日7時10分、公開予定です。
☆シーズンⅡも無事終了ということで、高評価・感想・ブックマーク等ご協力いただけたら幸いです。




