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シーズンⅡ 第九話 夕日の下で

 こんにちは。作者の「野生の書生」です。

 前回はレオンの作戦が発動し、人柱が捧げられていた祭壇が崩落したところまでを書きました。

 今回はその続きです。


 本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。

 主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。


 この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。

 走り始めた俺たちの位置は徐々に変化していった。

 前方を走っていたクロエとアリアにエレナが追い付き、その後方にカイルとジークフリートがいた。

 そしてそこからさらに後方で、俺は走りながら、仲間がいる前方の天井に向けて防御魔法を展開し続けていた。

 体力の消耗とともに、徐々に防御魔法の広さも耐久力も低下してきているのが自分でもわかった。


 カイルとジークフリートの俊足ぶりは流石だった。特に剣を捨てたジークフリートは男女二人を抱えながら、表情を変えずにカイルについて行っていた。

 やがて、カイルとジークフリートもエレナたちと合流するのが、俺のはるか前方に見て取れた。

 

 ——いいぞ、これで防御魔法を張る範囲を小さくすることができる。

 俺は防御魔法の範囲を制御しながら、可能な限り体力を温存して走り続けた。


   ◇


 「アリア様、ご無事ですか?」

 爆速で追いついてきたカイルに、アリアは驚きを隠せなかった。しかも片手に一人の人間を抱えて。

 ジークフリートも二人の人間を抱えながらついてきたことから、アリアは改めてレオンだけでなく、この二人も十二分に規格外なことを察していた。


 その時、アリアの頭上で崩落音がした。

 崩落した岩は防御魔法の光を突き抜けてアリアの頭めがけて落下してきた。

 

 カイルはとっさに空いている片腕を使い、アリアを庇っていた。

 崩落した天井の岩がカイルの腕の防具を砕く。

 

 「カイル!」

 防具が砕ける鈍い音と、アリアの声が坑道内に響きわたった。

 

 「止まるな!走れ!」

 カイルは仕える令嬢への敬語も忘れて叫んでいた。

 

 腕の方は大丈夫だが——レオン殿の防御魔法も限界かもしれん。

 カイルは救出した男を抱えなおすと、再び走り出していた。



 夕暮れが坑道の入り口を染め上げるころ、クロエ、アリア、エレナ、ジークフリート、そして負傷したカイルは、全力疾走のまま転がるように外に出ていた。

 全員息が上がり、ジークフリートもさすがに膝をつき、肩で息をしていた。

 カイルは坑道入り口を振り返り、”あとは貴殿だけだ、レオン殿。”

 と祈る思いで暗闇が広がる坑道の中を見つめていた。


   ◇


 全員が出入り口の光の向こうに消えたのを見届けた俺は、自分も後に続こうと光に向けて疾走していた。

 だが、その時だった。

 仲間がいる範囲に防御魔法をかけることに集中していた「俺の傘」は、全員が脱出した瞬間に一緒に坑道の外に抜けてしまっていた。

 つまり、今現在坑道を支えるものは何もない状態で——。


 走り続けていた俺がそのことに気づいた時には、「時すでに遅し」だった。

 俺の眼前に広がる坑道の天井は瞬く間に崩落をはじめ、俺の目の前に広がっていた夕焼けの光を覆い隠していった。

 俺はその光景にかつての体育倉庫の扉を重ねていた。


 ”ああ、またこれか。またこれで俺は暗闇の中に——。”


 そう思った瞬間だった。

 俺の眼前に立ちふさがった瓦礫が突如粉砕され、目の前に再び光が差し込んだのだ。

 開かれた視界の先には、夕焼けをバックに銀色の髪をなびかせながら凛として立つ、エレナの姿があった。

 エレナは俺に向かって手を伸ばしてきた。


 公爵邸で初めて会ったときに差し出された手。

 温泉宿で差し伸べられた手。

 俺はいつもその手をつかむことができなくて——。


 俺は全力で手を伸ばし、エレナの手をしっかりとつかんでいた。

 エレナもその手を握り返す。

 暖かい、そして力強いその手に引かれて、俺の体は崩落していく坑道の外に引き出されていった。


   ◇


 俺とエレナが脱出した直後、坑道は轟音とともにその口を完全に閉ざした。

 無事に出ることができた俺は、今は仰向けになって、呼吸を整えながら夕暮れの空を見上げている。

 その横で、同じく仰向けになって、必死に呼吸を整えているエレナの姿があった。


 煤だらけのその顔が、なぜか無性にいとおしく思えて、俺はごく自然に

 

 「ありがとう。エレナ。」

 とつぶやいていた。

 

 エレナは横になったまま、顔だけをこちらに向けて優しく微笑んできた。

 俺はなぜかその顔を直視できなかった。高坂優衣奈の顔を思い出したからではない。


 俺は自分の頬の体温が上がるのを自覚したが、限界を超えて走り続けたせいだと結論付けた。


 第九話も読んでいただきありがとうございました。

 これで、鉱山を舞台にした冒険譚もほぼ完結です。

 ただし、まだもうしばらくこの話も続きますので、お付き合いいただければと思います。


 第十話(シーズンⅡ最終話)は2026年9月24日17時10分、公開予定です。


 高評価・感想・ブックマーク等をいただければ、作者も頑張れますのでよろしくお願いします。

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