シーズンⅡ 第三話 亀裂
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回は鉱山に向けて出発するまでを書かせていただきました。
今回はレオン一行の道中の物語を書かせていただきます。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
王都を離れて二日後。明日はいよいよ鉱山にたどり着く。
今日は、鉱山の労働者向けに作られたのだろう、温泉街に泊まることとなった。
鉱山の閉山で寂れかけてはいたが、観光地としてはまだまだ活気が残されており、湯煙とともにどこかしこに商店が並んでいた。
「到着!」
馬車を降りるとクロエが元気いっぱいという風に伸びをした。
俺たちもそのあとに続く。
ジークフリートがふいに俺に体を寄せてきた。
「なあ、レオン。いくら旅先だからって、あんまり羽目を外い過ぎちゃあいけないよ?」
クロエとアリアとエレナに視線を向けてジークフリートは言った。
「ばっ............。何、言ってるんだ。いきなり!」
俺はジークフリートの体をぐいと押しやって言った。
「レオン殿、ジークフリート殿。ここは最後の休養です。明日に備えて我々も体調を整えておきましょう。」
カイルはいつもの調子で言っていた。
「へーい。カイル様はいつも真面目なことで。」
ジークフリートはそう言うと、カイルに続いて宿の方に向かった。俺もそのあとに続いていく。
~温泉宿 男湯~
夕食を終えた後、俺とカイルとジークフリートの三人は、露天風呂に浸かっていた。
湯けむりが漂う中、馬車にすし詰めで凝り固まった筋肉に新しい血液が注がれていく感覚が、実に心地よかった。
「お。カイル様は鎧の下にも素晴らしい鎧をされているようですな。」
ジークフリートがカイルの筋肉を小突きながら言った。
「や、やめたまえ。ジークフリート殿。だいたい私の筋肉など、レオン殿に比べれば微々たるものでは............。」
カイルは困ったように言った。
俺に振るな。俺に。
「そりゃーもちろん。レオンはわがパーティの中で最も頼れるエースですからな。」
ハハハとジークフリートは笑う。
なんなんだ。これは。
でも、この修学旅行のようなテンションの中に俺がいることが信じられず、無性に嬉しかった。
「で、レオンよ。お前、クロエとアリア、それにエレナと、美女に囲まれているわけだが...........。いったい誰が本命なんだ?」
ジークフリートは言った。
「は.............?」
俺は何を言われたのか、分からなかった。
クロエたちは大切な仲間であることは間違いない。でも、ジークフリートの質問に対する答えについては、これまで考えたことなどなかった。
「アリア様に対して、不敬な言動は見過ごせぬぞ!ジークフリート殿!」
カイルが湯船から立ち上がって言う。
「ほ~。本音がでたな。カイル。お前、アリアのことどう思っているんだ。知りたいよなあ。なあ、レオン。」
ジークフリートの矛先が唐突に変わる。
俺は安堵すると同時に驚きを隠せなかった。
カイルが?アリアを?俺は無意識のうちに、そうなのか?という視線をカイルに向けていた。
「レオン殿までっ.........。そのような考えは不敬である。断じて許されない!」
カイルの顔が赤いのはどうやらのぼせたからではないようだ。
「さて、カイルは自白がとれたとして.........。本題はレオン。お前だ。さあ、ここではっきりしてもらおうか。」
ジークフリートの矛先が再び、俺に向く。
「いや.........。だから俺は..........。みんな大切な仲間だから........。」
俺は何の足しにもならない言葉を並べていた。
「いいからはっきりしろって。でないとこのまま沈めるぞ?」
ジークフリートの手が俺の頭をつかんで湯船につけた。
——その時、壁の向こう側からクロエとアリアの笑い声が聞こえてきた。
俺は必死でジークフリートの手を払った。息が続かなかったからではない。
俺はまた、前世の記憶を——。俺の両肩は、震えていた。
「わ、悪い。調子に乗りすぎたわ........。」
俺の様子にただならぬものを感じたのか、ジークフリートが謝ってくる。
「ジークフリート殿、貴殿は度が過ぎるのです!」
カイルがたしなめる。
「悪い.......。ちょっと具合悪くなったから先に出るよ.......。」
俺は湯船を後にした。
◇
脱衣所で、俺は湯船で思い出した光景を振り返っていた。
あれは水泳の授業の時。授業が終わって先生がその場を離れると、吾妻が「追加練習」と称して俺のバスタオルをプールの中に投げこんだのだ。
俺がそれを拾いに行こうとすると、高坂がプールサイドは走らないようにと注意をしてきた。もちろんただの煽りだ。
俺はバスタオルを回収して、戻ろうとしたがそこに吾妻も入ってきて俺を水中に引きずり込んだのだ。
苦しい。息が続かない。水面の向こうからは稲木凛花や倉見麗子の笑い声も聞こえてくる。
吾妻のいう「追加練習」は、俺の息がどこまで持つかという暴力であった。
◇
脱衣所を出た俺は、まだ動悸がおさまらず過呼吸のような状態になっていた。
早くどこかで一人になりたい——。
そう思っていた矢先、クロエたちに続いて入浴に来たのだろう、エレナと遭遇した。
彼女の手には籠が握られていた。
エレナ——高坂優衣奈の顔を見て、俺は一層胸が苦しくなった。
あの後、プールから出て息も絶え絶えで濡れたバスタオルにくるまって震えていた俺を、『おぼれた羽沢君をみんなで協力して助けた。』という体にしたのは、高坂だった。
エレナは真っ青になった俺の顔を見て、「ちょっと!大丈夫?」と声をかけてきた。
この人は高坂優衣奈じゃない——。俺の大切な仲間だ——。
過呼吸で朦朧としている頭の中で俺は必死にそう言い聞かせていた。
「大丈夫......。大丈夫だから......。」
俺はエレナの顔を見ることができず、顔を背けて歩き出そうとした。
「大丈夫って..........。レオン、あなた顔色が普通じゃないわ。ちょっと見せて——」
「触るなっ——!」
俺は怒鳴り声をあげて、こちらに伸びてきていたエレナの手を振り払っていた。
エレナの手から籠が落ちて、乾いた音が響いた。
「悪い...........。今のは...........。」
我に返った俺は、エレナの方を見る。
エレナは驚きと悲しみが混ざった顔で俺を見つめていた。
その目は地下道で見せた冷徹な目と同じ人物のものとは思えないほど、揺れていた。
俺はもう何も言うことができず、その場から走り去っていた。
さて、第三話もお読みいただきありがとうござました。
今回は「温泉回」ということで、普通であればサービスシーンを挟んだ明るめのエピソードが展開されるのでしょうが、作者の場合はそういった描写が苦手なこともあり、このような形になりました。(期待していた読者の方がいたらすみません。)
さて、決戦前夜にして主人公の心にもパーティメンバーの絆にも亀裂が生じてしまいましたが、これからどうなるのでしょうか。
第四話は2026年9月22日21時10分、公開予定です。




