シーズンⅡ 第二話 旅立ち
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回、ジークフリートの過去が明らかとなり、魔石の違法採掘現場に向かうことになった場面までを書きました。今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
三日後、俺たちは公爵邸の中庭に集合していた。
中庭には馬車が一,二,三................。いったい何台用意したんだ?
「..............アリア、これなに?」
俺はアリアに聞いてみた。
アリア曰く、二日前に騎士団の一部を事前偵察のために向かわせたのだという。彼らは情報収集と併せて、俺らが現地入りした時に速やかに動けるように受入態勢を整えておいてくれるそうだ。
この馬車は、満足な荷造りの時間を与えられなかった騎士団に補給物資を届けることと、万一負傷兵が出た場合に彼らを王都に搬送するために用意したのだそうだ。
公爵家の実力もさることながら、俺はアリアの手回しの良さにほとほと感心していた。
俺らだけで向かっていれば、スタートダッシュの時点から混乱が生じていたかもしれない。
「ありがとう。アリア」
俺は言った。
「私がお役に立てるのはこれぐらいですから。」
アリアはそう返していた。
「レオン様。お加減は大丈夫ですか?」
エレナが声をかけてきた。
俺は何のことかわからず、「ん?」と返していた。
「いえ、先日ジークフリート様とお会いした時。その........ご様子がおかしかったので。」
俺はやっぱりみんなにも伝わってしまっていたかと痛感した。
「俺なら、もう大丈夫だ。それよりアリアもエレナもちょっといいかな。」
俺は話題をそらすのと併せて、前から気になっていたことを口にした。
「二人とも、俺のこと”様”づけで呼んでるけどさ.......。もう同じ仲間なんだし、"様"づけも敬語も必要ないんじゃないかな。」
これは俺の本心だ。
「いえ、そういうわけには参りません。わが公爵家はすでにレオン様から大きなお力をお借りしております。仲間と言っていただけたのは光栄ですが、公爵家の人間として敬意を示さぬわけには参りません。」
アリアはいつも通りの毅然とした態度で言った。
まあ、そうなるか。カイルに同じことを言っても、たぶん同じような態度で同じ返事をしていただろう。
「いいのですか。それでは遠慮なく名前で呼ばせていただきます。——”レオン”。」
一方で、エレナは揶揄うように名前で呼んできた。なんか意味合いが変わっている気がするんだが。
「おーい。レオン!この馬車すごい綺麗だよ!」
クロエはまるで遠足に行くかのようにはしゃいでいる。
——本当に三者三様だな。
「お待たせしました。すみません、準備に少々手間取ってしまいまして。今日からよろしく頼む。——レオン殿。」
カイルが声をかけてきた。
「ああ、よろしく頼む——。」
俺は少し可笑しくなって、カイルに返事をするとき少し吹き出してしまった。
「——?」
カイルは怪訝そうにしていたが、俺の様子を見ると安心したような表情になった。
どうやら彼もまたエレナと同様に、俺の体調を心配してくれていたようだ。
「おーい。俺の荷物、ここでいいのか。レオン君。悪いんだけどちょっと手伝ってくれないか?」
ジークフリートが手を振って馬車の方から声をかけてくる。
ジークフリートにも”君”づけは必要ないことを伝えておこう。俺はそう思うと、
「わかった今行く。」と馬車の方に歩き出した。
◇
さて、積み込み作業も終わったことだし、いよいよ出発だ。
馬車に一番乗りしたのはクロエだ。クロエは自分の隣の席を手でポンポンと叩いて、俺に来るように促してきた。
俺はクロエに続いて馬車に乗り込み、クロエの隣に座った。
クロエは、えへへと笑っていた。
続いてエレナが馬車に乗り込み、俺の隣に来る。
「では、お隣失礼します。——レオン。」
エレナの一言に、隣から猛烈な殺気が発せられるのを感じた。
クロエがエレナを睨んでいた。
エレナはクロエの様子に気づいているのか、いないのか。どこ吹く風という様子で席に座ると公爵邸の中庭を眺めていた。
——俺ひょっとしてこのポジションで三日も過ごすのか?背中に冷や汗が伝ってきた。
「なんか楽しそうなこと始まってんじゃねぇか。レオン。」
ジークフリートが俺の向かいの席、正確にはクロエの真向かいだ、に座りながらニヤニヤと声をかけてくる。
ジークフリートの言葉に自分の感情がむき出しになっていたことに気づいたのか、クロエは顔を赤くすると一気にうつむいた。
続いて、アリアが乗り込んできた。アリアはジークフリートの隣——俺の真正面だ、に座った。
最後に荷物を点検していたカイルがアリアの隣に座る。
カイルはアリアを守る意味もあるのだろう。不埒な輩が馬車に近づかないか席に着くなり警戒態勢に入った。
「おいおい。そんなんじゃ身が持たねぇぞ。カイルさん。」
ジークフリートはアリアを挟んで、カイルに声をかける。カイルはジークフリートに視線だけで返答した。カイルにとってジークフリートは馬車の反対側——つまりは自分の警戒が及ばない側からの攻撃に備える『背中を預けた』ポジションだ。
「へいへい。騎士様はお嬢様を守るのに手いっぱいってことで。」
カイルの真剣な視線を受けたジークフリートは、そうつぶやくと、こちらも真剣な目で警戒態勢に入る。
そうだ。これから俺たちは「敵地」に乗り込むのだ。
俺も気持ちを引き締めて、クロエとエレナ、そして正面のアリアに視線を向けた。三人とも俺と目が合うとしっかりとうなずいた。
「出発!」
アリアの掛け声とともに、馬車たちが公爵邸を出る。
こうして、俺たちの新たな旅立ちが幕を開けた。
第二話もお読みいただきありがとうございました。
パーティメンバーのレオンに対する呼び方はどこかで固めておかないと、と思っていたのでこの機会にそのエピソードを挟ませていただきました。
アリアとカイルが「レオン様 / レオン殿」と呼ぶのが自然な気もしますが、エレナが「レオン様」だとどこか他人行儀にも思えるので「レオン」と呼ばせることとしました。クロエは納得しないでしょうが。
さて公爵邸を出発した一行ですが、道中はどうなるのでしょうか。
第三話は2026年9月22日17時10分、公開予定です。
高評価・感想をいただければ、作者も頑張れるので、よろしくお願いします。




