シーズンⅡ 第一話 過去
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
プロローグでは「吾妻翔也」の顔を持つジークフリートの登場を書かせていただきました。
今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
「吾妻翔也」。——生前俺をどこまでも痛めつけて、肉体的にも、精神的にも踏みにじってくれた男。
人生で一番憎い奴はだれかと聞かれれば、迷いなくその名を出すであろう男と同じ外見をした奴が、今目の前にいる。
恐怖と憎悪で、俺は今自分がどういう状況にいるのか一瞬見失ってしまっていた。
「レオン?どうしたの。」
クロエが心配そうに声をかける。
「レオン様?」
アリアも怪訝そうに俺の方を見る。
カイルも、エレナも、どうしたんだというように俺の方を見てきた。
ジークフリートは俺の様子を見て、まぁ仕方ないかという風にため息をついた。
「昔からだよ。俺はこのいかつい見た目のせいで、初めて会うやつらは大抵ビビッてこっちの顔を見ようともしねぇ。でもまさか、あの最強と言われたレオン君までそうだとはね。」
ジークフリートは自嘲気味に、ハハハと笑いながら言っていた。
「まあ、少しずつでもいいからさ。俺も君とは一度話してみたいと思っていたんだ。だから今後ともよろしくな。レオン君。」
ジークフリートは俺の背中をぽんと叩いた。その瞬間、俺の背筋がビクッと跳ねる。
流石に俺の様子が普通じゃないことを察したのだろう。ジークフリートは少し困った様子で苦笑しながらカイルの隣に座った。
カイルもどうしたものか困ったようだったが、
「............俺なら大丈夫です。続けてください。」
俺が言うと、本題に入っていった。
カイルの紹介によると、このジークフリートは「腐敗貴族グループ」——「黒い天秤」のメンバーだったそうだ。だけど組織が大義を見失い、私腹を肥やすためだけの存在となったことに嫌気がさして、俺たちに協力を申し出てきた、とのことだった。
「まあ、そういうわけだから。元は悪党かもしれねぇけど、俺もまっとうに生きていきたいと思ってここに来させてもらった。見た目はアレかもしれねぇけど、よろしくな。みんな。」
ジークフリートは言った。
——似ている。フランクな口調になった時のジークフリートは、まさしくあの「吾妻翔也」だ。
俺はこの世界のことを理解しているつもりだった。だけど、今、クロエやアリア、そしてエレナと談笑しているジークフリートの姿を見ていると、吾妻翔也が悪だくみをしているようにしか見えなかった。
クロエたちにまで、またしても前世の影を見始めている自分が心底嫌になった。
ジークフリートによると、魔石密売組織の手口は、魔石を取りつくして閉山した鉱山がある一帯を、再開発と称して取り囲むことから始まる。魔石を取りつくしたといっても、それは安全に採掘できる範囲の話で、落盤を恐れなければまだ魔石は採掘可能。——そこに奴隷を送り込んで、無茶な採掘作業をさせているのだそうだ。
「その閉山された鉱山というのはどこにあるんだ。」
カイルが問う。
「王都の外だ。ここから北に馬車で三日ほど行った先の山の中にある。」
ジークフリートが答える。
閉山された鉱山なら、確かにギルドの目は及ばない。落盤を恐れぬ採掘作業で得た魔石はギルドに卸すわけにもいかないから、密売組織を通じて換金するしかない。そう考えれば辻褄はあう。
——ジークフリートの話を信じるのなら、だが。
「なあ。一つ聞いてもいいか。」
俺はジークフリートに言った。
「ん。」
ジークフリートは初めて俺から声をかけられたことが少し嬉しいような、そんな表情をしていた。
だけど油断はできない——。
「お前、もともと『黒い天秤』のメンバーだったんだろ。組織に嫌気がさしたって言っていたけど、一体何があったんだ?」
ジークフリートは困ったような、それでいて少し悲しそうな顔をした。
——しまった。他人の過去に踏み込みすぎたか。それがどれだけ本人にとって苦痛になるのか俺自身がよく知っているはずなのに。俺がいまだにクロエやアリアたちに、俺の真実を伝えていないというのに。
吾妻翔也の顔をした人間なんかにどうしてこうも気を使っているのだろう、という最低の疑問が頭に浮かんだが、俺はジークフリートの返答を待った。
「俺の友人でな、鉱山の現場監督をしていた奴がいたんだ。そいつは本当に気のいい奴だったよ。最初はやっぱ俺の顔見てビビってたけどよ..........。」
ジークフリートは語り始めた。
「あいつは俺が悪党の一員だと分かった後も、お前はお前だ、って言ってくれてたよ。ところが、二年前に落盤事故が起きて、大勢の人間が死んだ。」
「あとで知ったんだが、その鉱山もとっくに安全に採掘できる量は掘りつくしていたんだ。だけど、俺の組織が...........閉山を先延ばしにしていたんだ。ギルドにはもう閉山したってことにしておいてな。住み込みの労働者たちは何も知らされないまま、採掘作業を続けさせられていたんだ。当然、閉山された鉱山で落盤事故なんて起きたことにはできないから...........あいつはほかの鉱山の事故とすり替えられて裁かれたよ。あいつは、『待ってくれ。俺が監督していたのはその鉱山じゃない。』って何度も訴えていたそうだ。だけど組織は口封じもかねて..........あいつを即決で処刑した。」
ジークフリートの声色には、怒気と悔恨がにじんでいた。
「その時は本当に何も知らなかったんだ。だけど一年程前に突然魔石の大型需要の話が舞い込んできて、『あの時の手口が使える』って幹部連中が言い出して.......。俺はおどろいたよ。二年前の落盤事故に自分がいる組織がかかわっていたってわかったんだからな。これがきっかけだ。あいつの血で染まった金で飯を食っていた。それが俺の正体だ。」
ジークフリートは震える声で言葉を結んだ。場に重い空気が立ち込める。
「ま、そういうわけだから。俺ももうあんな組織やーめたって感じだから。俺の過去はどうでもいいからさ。あいつらさっさと片づけてくれると、俺もすっきりして眠れるからさ。一つ頼むよ、レオン君。」
そう言うとジークフリートは俺の首に腕を回してきた。
——もう、背筋は跳ね上がらなかった。
「荷物の用意に二日はかかるわ。三日後、出発よ。」
アリアが言った。
俺も、クロエも、カイルも、エレナも、ジークフリートも一切の異議はなかった。
さて、プロローグに続き第一話もお読みいただきありがとうございました。
『「吾妻翔也」の顔を持つ人物は、魔石密売組織の上部組織「黒い天秤」の元メンバー』という設定は、わりとこの物語を考えた初期に決まっていました。
前作でパーティ結成とともに「自分の居場所」を得たレオンにとっては、恐怖以外の何物でもない登場の仕方になってしまいましたが、ジークフリートも元悪党ではあるものの「誠実に生きたい」と願う一人の人間であるということがレオンにも伝わったかと思います。
さて、一行はジークフリートがもたらした情報をもとに鉱山に向かうことになるのですが、引き続き冒険譚にお付き合いいただければと思います。
第二話は2026年9月22日12時10分公開予定です。
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