第十話 突入
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回は、レオンとクロエが破天荒な連絡方法で無事に(?)聖騎士団と合流することができたところまで書かせていただきました。今回は、レオンの調査結果報告からです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
太陽が完全に王都の空を覆うようになったころ、俺とクロエは公爵邸にて、アリアに調査結果を報告していた。
魔力量のすさまじいエルフの出現。
その存在はアリアも初耳らしく、前のめりになってレオンの報告を聞いていた。
——俺の記憶のことはもちろん話さなかったが。
結局、非常口を通じた敵の追撃は行われなかった。
しかし、アリアの命により資料の再確認が行われて、今では設置されていた非常口や換気口にも騎士団が配置されて、警戒に当たっていた。
放火については使用目的のない小屋だったことと、事情を考慮して不問となったが、カイルからは苦笑を向けられていた。
さて、ここからが本題だ。
地下通路が魔石密売組織と思われる反社会的勢力の活動拠点として使われていたことの裏はとれた。
彼らがもしもまだそこにいるのであれば、聖騎士団のうち、信用できる人間のみに声をかけて、包囲殲滅するというのが順当な流れではある。
アリアに今後の方針を訪ねてみると、同じ考えらしく、地下道包囲戦に向けて声をかけるべき人間をリストアップしていた。
だが、この中に腐敗貴族グループの息のかかった人間がいないとも限らないのだそうだ。
最悪の場合は、包囲したつもりが、魔石密売組織はすでに脱出しており、突入した聖騎士団が逆に逃げ場のない地下道で包囲されるという展開もあり得るということだ。
その時だった。
「報告します!王室経由で新たな魔石密売組織に関する情報がもたらされました。」
部屋に入ってきた騎士が告げる。
「王室経由.........?」
アリアも、俺たちも確度の高いと思われる新情報の出現に色めき立った。
王室経由でもたらされた新情報は次の通りだった。
まずは魔石密売組織のアジトとして使用されていた地下道は、俺たちの出現を受けてすでに放棄し、幹部は脱出済みということ。
そして、地下道出入口を警備していながら、幹部たちの脱出を手助けした聖騎士団の人間のリスト。
そして、脱出した幹部たちは、王都郊外の森の中にある廃墟に活動拠点を移しているということ。
まさに俺たちが今必要としている情報だった。
しかし、こんな情報がなぜ王室経由でもたらされたのか。
「この情報に間違いはないのですか?」
俺はアリアに聞いてみた。
「王室からの情報です。信用して良いと思います。ですが..........。」
アリアは震えていた。
俺は気が付いた。
幹部の脱出を手助けした聖騎士団のリスト。その中にはアリアが「信用できる人間」としてリストアップしていた名前が複数含まれていたのだ。
——裏切られた。
その悔しさを目に浮かべていたアリアだったが、カイルの方を振り返ると、いつもの毅然とした態度で指示を出した。
「腐敗貴族グループの息のかかった聖騎士団の人間を一斉に拘束します。それから、集められる聖騎士団の戦力を結集。魔石密売組織を、今度こそ一網打尽にします!」
◇
報告を終えた俺たちは、地下道を一晩中走り回って一睡もしていなかったことから、アリアの配慮で来客用寝室で休ませてもらうこととなった。今はベッドで仰向けになり、天井を見つめていた。
だが、俺の体はなかなか睡眠に入れなかった。あの地下通路であったエルフ——、もとい高坂優衣奈のことを思い出していたからだ。
◇
~レオンの回想~
吾妻たちによる嫌がらせにより追い詰められていた俺は、学級委員長の高坂優衣奈にそのことを相談していた。
彼女は、俺の話を親身になって聞いてくれた。
相談してから二日後、彼女は俺に声をかけてきた。
——明日のホームルームの時間を使ってみんなで話し合いの場を用意する、と約束してくれたのだ。
俺は高坂に相談して本当に良かったと思った。
ところが、当日のホームルームが始まると、俺が吾妻らから受けた嫌がらせに関する話は、すべて「友人同士の親睦」ということにされて、逆にクラスのみんなから俺の「改善すべき点」を列挙させる場にすり替わっていた。
恐ろしいのが、高坂はその優等生の笑顔で、その場にいた先生にまで違和感なくその場を進行して見せたことだ。
かくして、俺の被害相談から始まったホームルームは「問題児の羽沢をみんなでフォローしている。」という体で幕を下ろした。
「よかったね。羽沢君。」
高坂が最後に笑顔でいった。
——あの顔が、俺には忘れられなかった。
◇
~公爵邸 中庭~
その日の夜。俺とクロエは夕方に目を覚ますと、アリアが集めた聖騎士団と合流した。
どうやら俺たちが休んでいる間に、聖騎士団の一斉拘束は終わったらしく、アリアの目には涙の跡が残っていた。
アリアがどんな想いで、信頼していた仲間の拘束を見届けたのか。
アリアの痛みには及ばないかもしれないが、信じていたものに裏切られる痛みは俺にもわかるつもりだった。
アリアは「ここからは私たちの仕事です。」と言ってはいたが、潜入を察知されて、地下道から幹部連中を逃がしてしまったのは俺のミスだ。そのけじめはつけさせてほしい。と願い出ると同行を許可してくれた。
かくして、俺とクロエは二日連続の昼夜逆転生活を送ることとなり、今は聖騎士団とともに森の中の廃墟に到達していた。
地上からは足音を殺して、複数の班に分かれた聖騎士団が接近し、建物を取り囲む。
俺が驚いたのは、鎧を脱いだ聖騎士団の一部が、木々を伝いながら音を立てずに廃墟の上層階の窓に取り付いて見せたことだった。
あの中に、いる。
俺の首につけられたペンダントは、地下道の時と同じように発光していた。
「俺も行かせてください。」
突入班を指揮するカイルに頼んだが、カイルはそれを拒否した。
理由の一つに、俺の火魔法は威力を調整できるものの建物内での制圧戦には向かないということ。
そして、俺が行けばクロエも間違いなくついてくるということ。防御魔法で守り抜く自信はあったが、クロエを危険に巻き込むことは確かに俺の本意ではなかった。
最後に、問題のエルフの所在が確定していないこと。
もしも戦闘の途中でそいつが姿を現したら、その時こそお前の出番だ——。
カイルはそういうと、突入班の指揮に戻っていった。
かくして、俺とクロエは少し離れた場所からことの成り行きを見守っていた。
地上のカイルと、樹上の指揮官がハンドサインを交わす。
——”配置完了”の合図だ。
「突入!」
カイルの掛け声と同時に、聖騎士団が廃墟のドアを蹴破り、なだれ込んでいった。
上層階の窓に取り付いていた騎士も、窓を枠ごと破壊すると、建物内部に突入していった。
暗がりの中に物音ひとつなく佇んでいた廃墟は、今やどこかしこに明かりがつき、剣と剣が衝突する音が響きあう”戦場”と化していた。
◇
突入開始から一時間後、カイルが部下を連れて、俺たちのところに戻ってきた。
「魔石密売組織の幹部は全員拘束した。これで、その先にいる腐敗貴族グループの情報も聞き出せるだろう。それに、地下牢から十数人の人質らしき人々も保護した。」
カイルは汗と埃と、若干の血で汚れた顔で、俺にそう告げていた。
おかしい。
俺の胸元のペンダントはまだ、あの時と同じように光っている——。
「お見事でした。聖騎士団の皆さん。」
背後からあの時と同じ声がする。
地下道で俺とクロエを追い詰めた恐ろしい魔力量をもつエルフ。
そして、高坂優衣奈の顔をもつ、あの——。
俺はとっさに剣を抜く。
クロエも魔法を放つ態勢に入る。
カイルもどこから現れた、といった表情で剣を抜いた。
だが、驚いたことにエルフは両手を挙げていた。
——間近で見ると、端正に整った顔は高坂優衣奈そのものだった。
しかし、その眼は地下道で会ったときの冷徹さはなく、今はどこか悪戯っぽさを感じる微笑を浮かべていた。
「戦闘の意志はありません。私を連行してください。」
エルフは改めて俺たちにそう言った。
第十話もお読みいただきありがとうございました。
聖騎士団の突入シーンは、あえて現代的な特殊部隊の突入をイメージして執筆してみました。
しかし、考えてみると主人公が持ち前の「火魔法」を加減せずに使ったのって、公団の小屋を放火した時だけなんですよね.........。主人公の性質上、火魔法で焼き払うよりも、防御魔法で仲間を守る方がイメージにしっくりくると考えている作者の影響もあるのですが、"主人公の無双が見たい!"という声がもしもあれば、あまりお応えできていないのかもしれませんね。(今回突入の見守り要員だし。)
さて、投降してきたエルフについて、その真意がどこにあるのか、引き続き物語にお付き合いいただければと思います。
次回、第十一話は2026年9月21日20時10分に公開予定です。




