第九話 潜入
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
二日後の夜、俺とクロエは王都の地下道入り口に立っていた。
あの後、俺とアリアは、クロエの怒りを抑えつつ、クロエにも依頼内容を説明した。
そして昨日は、地下通路の地図を頭に入れて探索計画を練り、公爵家から支給された最高級の武器と防具を受け取った。
そして今、木材で作られたバリケードの一部がカイルたちにより一時的に撤去され、俺とクロエは今まさに中に潜入しようとしてた。
カイルは入り口に不穏な輩が近寄らないか見張る役目をアリアから命じられていた。
「ご武運をお祈りします。レオン殿。」
地下通路に入ろうとする俺の背中に、地下には響かないよう小さく抑えた声で、カイルが激励の言葉を贈ってくれた。
◇
バリケードの向こう側、地下通路の中は湿っぽさと冷気が混ざり、ドブのようなにおいが立ち込めていた。
建設はあくまで“凍結”であったことから、通風孔の類はふさがれていなかったが、充満する臭気は、洞窟で鍛えた俺でも耐えがたいものがあった。
「クロエ。大丈夫か。」
俺はクロエに声をかけた。
「.............大丈夫。行きましょう。」
クロエはそういうと歩き出した。
足元には漏れてきた地下水がたまり、ぴちゃぴちゃと歩くたびに音がしていた。
こちらの接近を気取られる心配もあったが、敵の感知にもこの音は役に立つ。
俺は自分やクロエ以外の足音がないか、耳をたてていた。
首元のペンダントが光りだしたのは、その時だった。
アリアが初日に俺に授けてくれたものだ。アリア曰く、魔力感知の機能があるらしく、俺やクロエ以外の波長をもつ魔力が感知されると、その強度に応じて光るようになっているとのことだ。
——誰かいる。
俺はクロエに目配せして、警戒態勢に入った。
分かれ道に来るたびにペンダントの光具合を確かめて、敵のいる方に歩を進めていく。
そうして、慎重に歩み続けたところ、俺とクロエの行く先に、広間のような場所が見えてきた。
俺とクロエは魔石で作ったランタンに幌を被せて気配を消す。
広間のような場所はおそらく、もともとは馬車の休息場所として設けられたスペース。
——俺の世界で言うところのパーキングエリアだ。
もちろん今は、馬は一頭もいなかったが、広間には小さいながらも明かりが燈されていた。
俺とクロエは目を凝らす。
そこには間違いなく複数の人間の気配が感じられた。
そのうちの一人に明らかに佇まいの異なる人間がいる。
鑑定魔法を試してみようかとも思ったがこの距離では難しいし、魔力を向ければこちらの存在を察知されるかもしれない。
進むか、退くか。考えあぐねていたところ、例の一人がこちらに向けてゆっくりと歩き始めていた。
——気づかれた........か?
俺は背中に冷や汗をかく。クロエも息を殺して、緊張した顔でこちらを見る。
さて、どうする。
「どうやらネズミが紛れ込んだようね。」
冷徹な女性の声が地下通路に響く。
——バレた。
そう確信した俺は、クロエの手を引いて退却の姿勢をとる。
だが、その声に聞き覚えがあったのは気のせいか?
俺とクロエが走り出すと、その女性は無言のまま魔法を放ってきた。
俺たちが進もうとした先に、光る魔法陣が現れて行く手を阻まれた。
こうなっては明かりを幌で隠す必要はない。
——せめて、敵の情報だけでも持ち帰ってやる。
俺はランタンの幌を取り払うと、先ほど声がした方に光を差し向けた。
そこにはドブのにおいが立ち込める空間にはおおよそ不釣り合いな、銀髪が光り輝く、端正な顔立ちをした凛々しいエルフが立っていた。
俺はランタンを取り落とした。
嘘だろ................。どうなっているんだよ、この世界は。
髪色こそ異なるが、その顔は見間違いようがない。
葬儀会場で俺の両親に挨拶をしていた学級委員長——高坂優衣奈のものだった。
「クロエっ!逃げるぞ!」
俺はクロエの手をとり、魔法陣が張られていないほうを目指して走り出す。
だが高坂、もといエルフは冷たい笑顔のまま、今度は足元の水を氷結させ始めていた。
——マズい。このままでは、足が地下水もろとも氷結されて身動きが取れなくなる。
察した俺は、とっさに水たまりから足を抜き、クロエも水たまりから離れさせた。
俺は火魔法を放とうとしたが、思いとどまった。
——換気の悪い地下でまともに火魔法を放てば、俺らが酸欠になりかねない。
「クロエ。水魔法を頼む。あいつの動きを封じられればいい!」
クロエはレオンの言葉を受けて、エルフに向けて水魔法による攻撃を始めた。
俺は防御魔法を展開し、クロエをエルフの攻撃からガードする。
高坂優衣奈。——もしもあのエルフが奴の性格と共通しているなら、あの笑顔の裏で俺らを少しずつすり潰すような手を使ってくるだろう。
とにかくあいつはやばい。一刻も早くこの場を離れなければ。
俺は天井を見上げ、先ほど感じたこの空間に対するイメージを思い出した。
俺の世界でいうところのパーキングエリア。
車を運転したことは当然無いから、パーキングエリアの事情など詳しくはない。
だが、ここは本来であれば多くの馬がつなぎとめられる場所。
俺の世界では、高速道路には万一の場合に備えて——。
俺は周囲を見回した。壁の一部に色が異なる場所がある。
「クロエ!そこの壁だ!色が変わっている場所を水魔法で攻撃してくれ!」
クロエは理由を聞かず、それを実行していた。
壁の一部が崩れるとその向こう、——非常口が姿を現した。
ここからは賭けだ。
エルフも非常口の存在に気づき、そこに再び魔法陣を張り、入り口を塞ごうとする。
だが、俺の方が早い。
俺は防御魔法を応用したシールドを、エルフが魔法陣を張る前に非常口付近に展開していた。
俺とクロエは非常口に飛び込んだ。
中には梯子が備えられている。
考えている暇はなかった。
俺たちは真下を警戒しながら、梯子を上り、再び王都の地上へと顔を出していた。
下からの追撃は、幸いなかった。
◇
非常口を出た先はどこかの家の庭のような場所だった。
地上から見ると出入り口は庭に設置された井戸のように見えてあまり目立たない。
敷地には小さな小屋が設けられていた。
俺は応急処置として非常口の出入口に防御魔法で結界を張ると、小屋に向かった。
小屋の入り口には『王都環境整備開発公団』と書かれた札が掲げられていた。
小屋の中には、数人が休めるスペースが設けられていた。
ここはおそらく事故が起きた際に、非常口から脱出した人の手当てをするための場所だ。
「クロエ。けがはないか。」
「.............大丈夫。レオンも大丈夫?」
互いの無事を確認してから小屋の中を見回す。
アリアに連絡を取りたかったが、この世界に当然電話はない。
かといって俺がここを離れれば、先ほどの防御魔法の結界が維持できなくなり、カイルたちが予想していなかった場所から敵が出現する、という事態にもつながりかねない。
クロエを伝令に出すことも考えたが、クロエが徒歩でアリアたちのもとに出向き、事情を話して聖騎士団を連れて戻ってくるまでに要する時間を考慮すると、先ほどのエルフ相手に、防御魔法の応急処置がどこまで持つか正直不安であった。
——これしかない、か。
「クロエ。水魔法はまだ使えるか?」
俺はクロエに聞いていた。
◇
~地下道出入口前~
カイルはレオンの帰還を待っていた。今回は調査であって、敵のせん滅が目的ではない。危険を感じれば彼なら無事にもどってくるだろう。カイルはそう考えていた。
だが、潜入開始からすでに五時間。王都には明け方の気配が訪れようとしている。
カイルに一抹の不安がよぎったその時、
「報告します!王都東方に位置する、開発公団の所有地で火災発生の模様!」
駆け寄ってきた騎士がそう告げた。
「火災だと........?」
このタイミングで地下道を管轄する公団の所有地で火災。無関係とは思えなかった。
「消火班を回せ!念のために、聖騎士団の予備部隊を向かわせろ!」
カイルの決断は早かった。
◇
~王都環境整備開発公団 所有地~
通信手段を検討した俺が考え出した方法は、発煙筒にヒントを得た狼煙。
——いや、この規模ならもはや放火だった。
小屋の中にあるものをあらかた調べて、何も置かれていないことを確認すると、周囲に延焼しないようクロエに水魔法の待機をさせたうえで、俺は公団の小屋に特大の火魔法を放った。
その炎は、明け方を迎えつつあった王都の東の空に、太陽よりも一足早い日の出をもたらしていた。
ほどなく、複数の足音が聞こえてきて、敷地内に聖騎士団が現れると、「放火犯」の俺たちは聖騎士団に“連行”されていた。
ここにきて誤って作成中のものを削除するというミスをやらかしました..........。
バックアップでどうにか第九話を復元しましたが、前書き・後書きが消滅したので勘弁してください。
次回第十話は2026年9月21日12時10分に公開予定です。
高評価・感想をいただければ作者のやる気も復元できると思うのでよろしくお願いします。




