第八話 令嬢からの依頼
こんにちは。作者の「野生の書生」です。
前回は、公爵邸で姿を現した女性”アリア”の顔をみたことで、またしても主人公が卒倒してしまったところまで書かせていただきました。今回はその続きからです。
本作はいじめや暴力の描写を含みますので、苦手な方はご注意してください。
主人公が理不尽な暴力や、過去のトラウマと闘いながら成長していく物語なので、お付き合いいただければ幸いです。
この物語はフィクションです。登場人物・団体および地名等における名前や設定はAIと相談しながら決定しています。実在の人物・団体・地名等は一切関係ありませんので、ご容赦ください。
~レオンの回想~
ある日の午後、昼休みを終えて教室に入ろうとした俺は、俺の席の周りに吾妻たちが集まっているのを見て、とっさにドアの陰に隠れた。
吾妻は俺の机の中身を机の上に出すと、その上で黒板消しをたたいてチョークの粉まみれにしていった。その周りを男女数人が取り囲んで笑っていた。
前の席の机に座って脚を組んでいる女子。——倉見麗子はチョークまみれになった俺の教科書をつまみ上げると、それを窓の外に捨てていった。
それを見た取り巻きたちは、ますます甲高い笑い声をあげていた。
俺が教室に飛び込んでそれ止めようとすると、吾妻が俺の前に立ちはだかり、他の男子とともに俺を床に押さえつけた。
その様子を冷酷な微笑とともに見つめながら、倉見は一つ、また一つと俺の教科書を窓の外に捨てていった。
◇
~公爵邸 来客用寝室~
俺は目を覚ました。
どれくらい気絶していたのだろうか。クロエはどうなったのか。ここはどこなのか。
「お気づきになられたようね。レオン様。」
「ひっ..............!」
俺は横から突然現れた倉見麗子、もといアリアの顔と声に思わず上ずった声を出してしまっていた。
そんな俺の様子を不思議に思ったのか、アリアは少し首をかしげると、
「表にカイルを待機させております。落ち着いたらお声がけください。」
そう言って、部屋を出ていこうとした。
「あの、クロエはどうしましたか?」
俺はほとんど無意識に聞いていた。
アリアはこちらを振り返る。
きょとんとした顔をしていたが、ふっと表情を和らげると、
「クロエ様は別室で待機していただいております。衛兵を護衛につけておりますのでどうかご安心を。」
アリアは優し気な口調で、俺に告げた。
だまされるな——。油断するな——。
アリアの目はだれから見ても、高貴な公爵令嬢の目だ。
俺も、前世の記憶がなければ疑いなく信じただろう。だが俺は。あの顔は——。
「あの、俺はもう大丈夫なのでご用件の方をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
これ以上ここに長居していたら、頭がどうにかなってしまいそうだった。
——帰りたい。今日何度目になるか分からない独白が頭の中にこだましていた。
◇
アリアの口から語られた用件は、要約するとこうだった。
王都の裏社会で暗躍する謎の魔石密売組織。彼らの黒い金が王都の貴族たちの一部に流れて、腐敗貴族グループを形成している。
腐敗貴族グループの告発に向けて王家と公爵家は動いているが、まだ全容の解明に至っていない。
俺には調査の一環として魔石密売組織の摘発に手を貸してほしい——。という話だった。
「お話は分かりました。そのうえでいくつか質問させていただいてよろしいですか。」
「なんなりと。」
アリアは真剣な表情で応じた。
「まず、ひとつですがどうしてこの話を冒険者に依頼したのですか。公爵家なら聖騎士団でも、その気になれば国の軍隊でも動かすことはできたでしょう。」
「はい。恥ずかしながら腐敗貴族グループは根が深く、どこに伏兵が潜んでいるか分かりません。聖騎士団を動かそうとすれば、どこかで彼らの息がかかった人間にこちらの動きが察知されるか分かりません。公爵家の命により、彼らに不必要に危険な橋を渡らせるわけには参りません。このお話は信用に足ると判断した人物にのみ、お伝えさせていただいております。」
アリアは毅然とした態度で言った。冒険者ギルドにまで、さすがに腐敗の根が広がっているとは思えないが、そういう話ならギルドの掲示板に堂々と依頼を掲出するわけにもいかない。
——俺の『特別専属会員』の意義が早速発揮されたわけだ。
「次に魔石密売組織についてですが、もう少し詳しく教えていただけますか。」
「はい。魔石は限りある貴重な資源です。本来魔石は採掘後に、その採掘量の報告とともにギルドにすべて納入されて、ギルドの管理下で再販売して、利益の配分を行っております。ところが魔石密売組織は違法に魔石を採掘して、ギルドを通さずに何らかのルートを通じて再販売し、利益を独占しているものと思われます。——未確認情報ですが、奴隷を使った強制労働が行われている可能性もあります。」
「最後に魔石密売組織の摘発についてですが、糸口はあるのですか。」
何の手掛かりもなしに王都をうろついて、一から組織の影を探すのは流石に骨が折れる。
「実は、これまでの調査で得た情報をもとに導き出した仮説なのですが、彼らは王都の地下に建設された地下道跡を使用している可能性が高いと見込まれます。レオン様にはまずはその仮説に基づいて、地下道跡を調べてほしいのです。」
王都には先代の王が計画した地下道があるそうだ。王都の経済発展によって、交通量が日に日に増していく中、人々が安全に道を歩けるように大きな荷馬車は地下を走るようにする計画だったらしい。
公爵家も最大限の協力はしてきたが、財政悪化により計画は凍結されて、今では作りかけの地下道が王都のそこかしこに点在している、とアリアは説明した。
「すみません。もう一つだけいいですか。」
俺はアリアに聞いた。
「冒険者に依頼する理由はわかりました。ですが、俺はまだ何の実績もないただの若造です。数ある冒険者の中で俺に依頼をした理由を教えてください。」
アリアは、少し考えてから言った。
「カイルからの報告によると、レオン様がわが公爵家につかえる騎士団に匹敵する、あるいはそれ以上の実力をお持ちだということも理由の一つです。ですが私は、あなたが仮にカイルに惨敗していたとしても、この話はレオン様に依頼していたことでしょう。」
「え.............?」
俺はアリアの表情を見る。アリアは真剣だった。
「レオン様は決闘中、終始周囲の観客と、クロエ様をお守りしていたとお聞きしております。カイルには観客を巻き込みかねない戦闘をしたことを後で厳しく叱っておきます。『弱者を守る盾であれ』——わが公爵家の家訓を自らの意志で体現して見せたレオン様だからこそ、この話をさせていただいたのです。先代の王とわが公爵家が、人々の幸福を願って築いたものを、穢れた人間の道具にされるのは我慢なりません。レオン様、どうかお力をお貸し願えませんでしょうか。」
俺は考えを改めた。目の前の女性の顔は倉見麗子の生き写しだ。
だが、クロエと同じくアリアもまたこの世界で生きる高潔な一人の人間なのだろう。
「わかりました。そのお話お受けします。」
クロエに無断で決めてしまっていたが、彼女ならわかってくれるだろう。
俺は今、アリアの期待に応えたい。
「ありがとうございます。——では、こちらを。」
アリアはペンダントをこちらに差し出した。
「こちらは公爵家で用意させていただきました、魔道具でございます。レオン様のお役に立てればと思います。」
アリアが俺に近づき、ペンダントを首にかけようとする。
その顔が一瞬、倉見麗子のものと重なってしまい、俺は首を絞められるのではないかと思い、身を固くしてしまっていた。
アリアはそれを、冒険を前にした緊張ととらえたのか、
「大丈夫ですよ。私の信じたレオン様なら。」
そう言うと、首にかけたペンダントを両手で包み込み、祈るような姿勢をとる。
違う。そうじゃない。俺は今、あなたにとんでもなく失礼な想像を——。
部屋のドアが開いたのはその時だった。
「レオンっ!意識が戻ったって聞いたよ!」
クロエが部屋に飛び込んでくる。
「すみません。ノックはしたんですが...............。」
カイルが後に続く。
部屋の中の光景を見て、クロエは硬直した。その肩はわなわなと震えている。
「ちょっと!公爵令嬢がレオンにいったい何してるのよ!」
クロエの怒声が部屋中に響き渡った。
第八話もお付き合いいただき、ありがとうございました。
あらすじにも書かせていただきました「魔石密売組織」がとうとう登場しました。これから主人公たちはこの組織との戦いに巻き込まれていくわけですが、主人公の目の前には別の課題が出現してしまったようです。(笑)
作者もここまで執筆してきて、いよいよ物語の「本丸」に切り込んでいくようで、腕が鳴っています。
第九話は2026年9月21日10時10分公開予定です。




