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第40話 星海を巡る航路 〜大西洋横断と欧州親善歴訪〜

飛鳥創です。いつもお読みいただきありがとうございます!

 万国産業博覧会での最高栄誉グランプリ受賞の熱狂を背に、外洋蒸気船『開花丸』は新大陸を離れ、広大なる大西洋へと漕ぎ出した。


 シズクの精密気象ナビゲーションと、からくり宗兵衛が丹精込めて整備した高圧蒸気機関の推進力により、開花丸は順風満帆に波頭を切り裂き、古き歴史を誇る欧州大陸へと到達した。


 海洋帝国【アルビオン王国】の首都港、そして大陸の美しき大国【フランク帝国】――。

 黒漆塗りの威容を誇るスクリュー蒸気船と、葵の御紋と稲穂の瑞光国旗を掲げた東洋の使節団が入港するたび、各国の港は幾万もの市民と軍楽隊の歓迎のファンファーレに包まれた。


「これが、大洋を越えて博覧会の頂点に立った、極東の奇跡の巨船か……!」


 各国の国王や皇帝たちは、宗介と沙羅を王宮の玉座へと迎え、互いの主権と独立を平等に認め合う【対等通商修好条約】に、喜びをもって次々と調印を交わした。

 さらに、各国の王立科学アカデミーの壇上に立った宗介は、百万人都市を救った近代公衆衛生の理論、高純度製鉄の熱力学、そして有線電信の数理モデルを鮮やかに講義し、居並ぶ大碩学たちから「東洋の生ける叡智」「文明の夜明けを告げる賢者」と惜しみない大絶賛を浴びたのだ。


 アルビオンやフランクの留学生たちが「瑞穂工学アカデミーで学びたい!」と使節団への同行を熱望し、小夜は世界各国の特産物や最新の工作機械を船倉いっぱいに積み込んだ。


 世界中に瑞穂国の名と誇りを轟かせた使節団は、地中海を抜け、喜望峰を巡り、インド洋の青い海を渡って――ついに、この星を一周して故郷・瑞穂国へと向かう最後の帰還航路に入った。


 ――出航から数ヶ月の月日が流れた、満月の夜。


 鏡のように穏やかな夜の海原を、開花丸は静かに滑るように進んでいた。

 見上げれば、こぼれ落ちそうな満天の星屑と、銀色の光を投げかける満月。


 誰もいない前甲板(バウデッキ)の手すりに、宗介と沙羅が二人きりで並び立っていた。

 夜風に揺れる沙羅の黒髪から、ふわりと品のある白檀と甘い撫子の香りが漂う。


「……宗介」


「沙羅さん」


 沙羅はそっと宗介の腕に身を寄せ、銀色に輝く波間を見つめた。

 その瞳には、世界の広大さと、成し遂げてきた奇跡への深い万感が宿っていた。


「妾はな、宗介。……世界を巡り、様々な国の大地を踏んで……この世界の広さを知った。じゃが、どこへ往こうとも……妾の心を満たしておったのは、世界一の景色でも、各国の王宮の贅沢でもなかったのじゃ」


「沙羅さん……」


「妾の心を照らし、生きる力をくれておったのは……いついかなる時も、妾の隣にいて、優しく手を握りしめてくれた……そなたの存在そのものじゃった」


 沙羅は静かに宗介の方へと向き直った。

 月光を浴びた沙羅の美貌は、息を呑むほどに清らかで、大粒の涙をいっぱいに溜めていた。

 彼女は宗介の手を両手で包み込み、自らの胸元へとぎゅっと引き寄せた。


「相模野の寒村で出会ったあの日から……妾の心は、ずっとそなたのものじゃ。……宗介。瑞穂国へ帰ったら……妾を、生涯そなたの妻にしてくれぬか」


 震える声で紡がれた、心からの愛の告白。

 瑞穂国の誇り高き姫君であり、無敵の剣士である沙羅が、一人の恋する乙女として、全てを宗介に捧げる瞬間だった。


 宗介の胸に、熱い熱い感情が込み上げてきた。

 宗介は沙羅の手を力強く握り返し、彼女の華奢な身体を、抱きしめられるだけの力で腕の中に引き寄せた。


「沙羅さん……! 俺を選んでくれて、本当にありがとう。……俺の知識も、命も、この先のすべての未来も……あなただけのものです。生涯、あなたを愛し、守り抜きます」


「宗介……っ!」


 沙羅は宗介の胸に顔を埋め、歓喜の涙を流しながら強く抱きしめ返した。

 満天の星と満月の光が、互いの愛を誓い合う二人を、どこまでも優しく祝福していた。


『マスター、生体データおよび感情共鳴値測定。……魂の絆レベル、測定不能の絶対無限に到達。マスター、沙羅姫……心より、おめでとうございます』


 イヤホン越しに、シズクの祝福の声がそっと寄り添う。


 やがて――東の水平線が、紫から茜色へとゆっくりと染まり始めた。


「――宗介! 見よッ!」


 沙羅が涙を拭い、朝焼けの海を指差した。


 朝日に照らされた水平線の彼方。

 幾千の白雲を従え、神々しいまでの黄金色の光を放ちながらそびえ立つ、懐かしき故郷の象徴――【霊峰・瑞穂山(みずほやま)】の雄大な山容が、朝靄を破って姿を現していた。


「帰ってきたのじゃ……! 妾たちの……大好きな瑞穂国へ!」


「ええ、帰ってきました。……世界を一周して、俺たちの故郷へ!」


 開花丸の汽笛が高らかに鳴り響き、朝の海を震わせた。

 世界一周の偉業を果たし、不滅の愛を結んだ宗介と沙羅。

 物語はいよいよ、江都十万の民が待ち受ける『世紀の大凱旋と、二人の祝言』――最高潮のグランドフィナーレへと向かうのだった!


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


「ちょっと面白いな」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

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次回更新もお楽しみに!


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