第39話 万国博覧会の奇跡 〜世界を魅了する瑞穂の技〜
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ルーディス合衆国の首都キャピタルシティの広大な中央公園に、陽光を浴びて七色に煌めく巨大なガラスと鋳鉄の大建築――【万国光彩殿】がそびえ立っていた。
世界中の最新工業技術、科学機械、伝統美術が一堂に会する史上最大の祭典――【キャピタル万国産業博覧会】。
その巨大なドーム状ホールの中心、最も注目を集める特別パビリオン『瑞穂館』の前には、早朝から世界各国の元首、科学者、技師、豪商、そして貴族貴婦人たちが長蛇の列を作り、黒山の人だかりとなっていた。
「開いたぞ! 極東の奇跡のパビリオンだ!」
黒漆塗りに金泥で葵の御紋と撫子の花が描かれた大扉が開かれると、訪れた人々から一斉に息を呑む感嘆の声が漏れた。
迎えたのは、藍染めの大紋羽織を凛とまとった全権副使・西園寺沙羅と、黒の洋装羽織姿の全権正使・司馬宗介。
そして、朱色と金糸の友禅染に身を包んだ万代屋の小夜だった。
「――皆様、ようこそ瑞穂館へ。我が瑞穂国が誇る、自然の美と近代工学の精華をとくとご覧ください」
宗介が流暢な英語で案内すると、世界中の専門家たちが展示ブースへと雪崩れ込んだ。
「オ、オー・マイ・ゴッド……! なんだ、この真珠のような生糸は……!?」
欧州の大繊維商人が、ルーペを目に当てて絹糸の束を凝視し、震える声で叫んだ。
「太さのばらつきがゼロだ! 機械繰りでありながら、手挽き以上の極上の柔らかさと光沢を保っている! こんな神業のシルク、世界中どこを探しても存在しないぞ!」
隣のブースでは、ガラス工芸の職人たちが、宗介の指導で精製された【高純度透明ソーダ石灰ガラス】の切子細工を取り囲んでいた。
「気泡も濁りも一切ない、まるで湧き水をそのまま固めたような透明度だ……! そしてこの幾何学模様の精密なカット! 光を当てると、まるで虹の宝石のように輝いている!」
さらに会場の奥で、世界最高峰の時計技師や機械工学者たちを最も驚愕させたのは――からくり宗兵衛とアカデミー生たちが製作した【万年天文からくり時計】だった。
カチリ、カチリ、チリン……。
多賀根山の高強度鋼と真鍮で鍛え上げられた数百個の超精密歯車が、一分の狂いもなく噛み合って回転している。
文字盤の上では、時と分だけでなく、太陽の昇降、月の満ち欠け、二十四節気、さらには惑星の運行までもが自動で正確に刻まれていた。
「信じられん……! これほど複雑怪奇な天体力学の運行を、すべて純機械式の歯車だけで完全連動させているのか……!?」
連邦工科大学の最高権威・ベル教授が、眼鏡を落としそうになりながら叫んだ。
「東洋の美意識と、西洋の最高峰をも凌駕する超精密加工技術が、完全に一つに融合している……! 極東の知恵者ソウスケと、瑞穂国の職人たちの腕前は、すでに世界の頂点に達しているぞ!」
それだけではなかった。
実際にピストンが滑らかに駆動する【小型高圧蒸気機関模型】、電信の打鍵に合わせて文字が印字される【自動受信電信機】、椿油と白檀の香りが貴婦人たちを虜にした【薬用美肌石鹸】、そして一口含んだ者を至福へと誘う【深蒸し高級緑茶】――。
瑞穂館のすべての展示品が、訪れた何万人もの人々を完全に魅了し、博覧会の話題を独占したのだ。
小夜の手元には、欧州や新世界の巨大商社から殺到した独占輸入の買い付け注文が山のように積み上がり、わずか数日の間に、数百万両に匹敵する国際貿易契約が結ばれた。
――そして、博覧会最終日の夜。
万国光彩殿の中央グランドホールで行われた、運命の表彰式典。
オーケストラのファンファーレが高らかに鳴り響く中、国際審査委員長が壇上に立ち、世界中の記者たちに向けて厳かに発表した。
「――全出展国・三千点を超える出展物の中で、科学の進歩と人類の調和に最も貢献した、最高栄誉の頂点をここに発表します! ……【キャピタル万国産業博覧会・名誉グランプリ(最高金賞)】――極東の友邦、【瑞穂国】!!」
ドォォォォォォォッッッッ!!!!!!!
ホールを埋め尽くした数千人の観衆から、地鳴りのようなスタンディングオベーションと割れんばかりの拍手が沸き起こった!
宗介と沙羅が並んで壇上に上がり、黄金に輝く巨大な名誉大賞トロフィーを両手で高く掲げた。
大三脚に据え付けられた最新の写真機(銀板写真)のレンズが一斉に向けられ、世界中の新聞記者たちのペンが激しく走る中、天井から色とりどりの紙吹雪が舞い散る。
万雷の拍手と喝采の中で、沙羅がそっと宗介を見上げ、その大きな瞳から溢れ出そうになる嬉し涙をこらえながら、最高の笑顔を咲かせた。
濡れ羽色の黒髪から漂う、清涼な白檀の香り。
「……宗介。勝ったのじゃな。……妾たちの瑞穂国の技と心が、世界一の栄誉に輝いたのじゃな……!」
「はい、沙羅さん。俺たちの技術は、世界に誇れる本物です。……作造さんや宗兵衛さん、小夜さん、そして瑞穂国の民みんなの魂が、世界を動かしたんです」
「うむ……! 妾は、そなたの隣に立てる己を……心から誇りに思うぞ!」
二人は見つめ合い、世界中の喝采の中で、固く微笑み合った。
新世界を完全に魅了し、最高栄誉を勝ち取った瑞穂国使節団。
大洋を越えた開花丸の航海は、いよいよ大西洋を渡り、古き歴史を持つ『欧州列強歴訪と世界一周の大団円』へと向かっていくのだった。
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