第38話 新世界への上陸 〜合衆国を揺るがす極東の巨船〜
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ルーディス合衆国西海岸の巨大な貿易港――サン・ルーディス港の港頭は、かつてない前代未聞の騒然とした空気に包まれていた。
「お、おい見ろよ! 港に入ってくるあの船はなんだ!?」
「黒漆塗りの美しい船体……だが、外輪がないぞ!? なのに、どうしてあんな猛烈な速度で逆風の中を進んでくるんだ!?」
岸壁にいた何千人もの合衆国市民、港湾労働者、そして海軍士官たちが、金網に張り付いて目を剥いていた。
青く澄み切った湾内を、時速十二ノットの快足で滑るように進んでくる一隻の蒸気船。
天を衝く三本のマストには、東条幕府の【葵の御紋】と黄金の稲穂があしらわれた瑞穂国の【瑞光国旗】が高らかに翻り、船首には金文字で『開花丸』の銘板が燦然と輝いていた。
――ボォォォォォォォッッッッ!!!!!!!
澄み切った新世界の青空に、重厚な汽笛の咆哮が轟く。
開花丸が寸分の狂いもなく桟橋へと横付けされると、タラップがゆっくりと下ろされた。
最初に降り立ったのは、格式高い藍染めの大紋羽織に身を包み、腰に名刀・神陰を帯びた全権副使・西園寺沙羅だった。
凛とした気高い美貌と、風になびく黒髪から漂う白檀の香り。
その隣には、端正な黒の洋装羽織をまとった全権正使・司馬宗介が並び立つ。
波止場を埋め尽くした群衆から、息を呑むような静寂ののち、地鳴りのような大歓声が沸き起こった!
「オー・マイ・ゴッド……! なんて気高く美しい東洋の使節団なんだ!」
「極東の島国が、自作のスクリュー蒸気船で大洋を横断してきたってのは本当だったのか!!」
人波を割って進み出てきたのは、海軍の正装に身を包んだアレクサンダー・ペルリ提督だった。
ペルリは宗介と沙羅の前に立つと、深く、敬意を込めて右手を差し出した。
「ミスター・ソウスケ、レディ・サラ。……我がルーディス合衆国へ、心から歓迎する。……まさか、本当に自作の船で、しかもあの悪名高い大洋の嵐を乗り越えてやって来るとはな。……私の見込みに、狂いはなかった」
「出迎えていただき、感謝します、ペルリ提督」
宗介が力強くその手を握り返した。
――使節団一行は、合衆国海軍の特別警護のもと、最新の大陸横断蒸気鉄道の特等展望車に乗り込み、大陸を横断して連邦の首都――【キャピタルシティ】へと向かった。
車窓の外に広がる、見渡す限りの大平原と険しい岩山。
宗介の隣で窓の外を眺めていた沙羅が、瞳をキラキラと輝かせながら宗介の腕に身を寄せた。
「宗介……。この大地は、瑞穂国とはまた違う、果てしない広大さを持っておるな」
「ええ。ですが、この国の人々も、豊かさを求め、平和を望む心は俺たちと同じです。……堂々と、瑞穂国の誇りを示しましょう」
「うむッ! 妾はそなたの隣におる。何も恐れるものはないぞ!」
――そして、首都キャピタルシティ。
白亜の巨大な円頂閣がそびえる大統領官邸――【連邦官邸】の大ホール。
ルーディス合衆国の【星輪旗】と瑞穂国の瑞光国旗が交差して掲げられた広間には、合衆国の閣僚、上院・下院議員、そして各国の大使たちが正装で居並んでいた。
正面の演壇に立つのは、ルーディス合衆国第十三代大統領――エドワード・ハリントン大統領。
宗介と沙羅は、何百人もの視線が注がれる赤絨毯の上を、堂々たる足取りで進み出た。
「合衆国大統領閣下。……東条幕府第十四代将軍・東条家治公の命を受け、瑞穂国全権使節団として参上いたしました」
宗介は、AIシズクの発音最適化アシストにより、完璧に洗練された格調高い英語で親書を読み上げた。
「我が国は、貴国との間に結ばれた【対等通商修好条約】をここに報告し、互いの主権と独立を永久に尊重し合う、真の友邦としての批准書の交換を求めます」
沙羅が一歩進み出て、蒔絵が施された豪壮な桐箱から、東条幕府の朱印が押された和紙と羊皮紙の【条約批准正本】を、両手で恭しく大統領へと差し出した。
ハリントン大統領は、息を呑んで条約書を受け取ると、宗介と沙羅の顔を交互に見つめ、感極まったように声を張り上げた。
「……ワンダフル! ミスター・ソウスケ、レディ・サラ! かつてこれほどまでに気高く、武力に屈せず、法と科学の正義をもって対等な友誼を結んだ使節団がいただろうか!」
大統領は自らの批准書を宗介へと手渡し、両手を広げて宣言した。
「我が合衆国は、瑞穂国を真に対等なる主権国家、そして大洋を挟む最良の友邦として、ここに永久の平和と修好を批准する!!」
パチパチパチパチッッッッ!!!!!!
ホール全体が、割れんばかりの拍手とスタンディングオベーションに包まれた。
各国の外交官たちが感嘆の溜息を漏らし、新聞記者たちのフラッシュの閃光が焚かれた。
翌朝、キャピタルシティの日刊新聞各紙の一面には、巨大な見出しが躍った。
『極東の奇跡の近代国家・瑞穂国使節団、首都へ到着!』
『自作スクリュー蒸気船で大洋を横断! 若き知恵者ソウスケと美しき姫君サラが結んだ、歴史上初の完全対等条約!』
瑞穂国の名と、宗介と沙羅の成し遂げた偉業は、いまや一国の枠を遥かに超え、世界中の人々に希望の光として知れ渡ったのだ。
だが――使節団の旅は、ここからさらに最高潮を迎える。
「宗介様、沙羅様!」
小夜が新聞を手に、満面の笑みで部屋へ飛び込んできた。
「キャピタルシティで開幕いたします【万国博覧会(世界産業博覧会)】の特設中央館に、我が瑞穂国の出展ブースが正式に招待されましたわ!」
世界中の最新技術と産業が集まる、世界最大の祭典――万国博覧会。
瑞穂国の誇る至高の技術が、世界最高峰の舞台で真の頂点を示す時が訪れようとしていた。
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