第36話 世界へ羽ばたく翼 〜万国世界儀と新世界航海計画〜
いつも温かい応援をいただき心より感謝申し上げます! 飛鳥創です。
黒船を退け、鉄道を通し、工学アカデミーを開いた宗介たち。
本日より、最終章となる第5章『世界へ羽ばたく文明開化と永遠の誓い編』がスタートいたします!
開花丸は大洋を越え、新大陸での万国博覧会、そして欧州列強歴訪の世界一周航路へ。
瑞穂国の誇りと技を世界に示す旅、そして宗介と沙羅の恋の行方を、どうぞ共に見守ってください!
瑞穂工学アカデミーの開校から一ヶ月。
湊浦の港には、ルーディス合衆国のみならず、遠く海の向こうの欧州列強諸国から、白帆と蒸気煙をたなびかせた使節船が続々と入港していた。
『極東の島国・瑞穂国、不平等条約を完全論破し、自作スクリュー蒸気船と鉄道を走らせる』
『奇跡の知恵者・司馬宗介と、美しき剣士・沙羅姫の率いる新興国家』
ペルリ提督が本国へ持ち帰った対等条約と、万代屋が輸出した極上の生糸・ガラス・精密石鹸の噂は瞬く間に世界中を駆け巡り、列強各国の元首たちは「この目で瑞穂国の文明を確かめたい」と、正式な修好通商使節団を競い合うように派遣してきたのだ。
その日の朝、江都城の大広間『瑞光殿』。
上座には若き第十四代将軍・東条家治が鎮座し、左右には老中筆頭・西園寺正信をはじめとする開明派の幕閣が勢揃いしていた。
広間の中央には、真紅の絹布で覆われた巨大な球体の物体が据え付けられている。
「司馬宗介殿、沙羅。……世界各国から寄せられた親書と通商の申し出、これまでに三十カ国を超えたぞ」
正信が威風堂々たる笑みを浮かべ、机の上の書類の山を指差した。
「これまでは『異国から攻め込まれるのではないか』と怯えるばかりであった我が国が、いまや世界中から対等の友邦として手を結びたいと乞われる立場となった。……すべては、宗介殿の授けてくれた知恵と、我が国の民の汗の賜物じゃ」
「西園寺様、上様。……だからこそ、我が国は次の段階へと進むべきです」
宗介が静かに歩み出ると、広間の中央にある真紅の布を一気に引き抜いた。
ファサッ……!
「おお……!?」「な、なんじゃこれは……!?」
幕閣たちから一斉に驚嘆の声が上がった。
現れたのは――直径四尺(約一・二メートル)、真鍮の美しい経緯度リングに支えられ、滑らかに回転する木製漆塗りの巨大な回転球――現代日本でいう地球儀のような姿をした【万国世界儀】だった。
表面には、湊浦へ来航した世界各国の使節船が持っていた断片的な海図や航海日誌をシズクが瞬時にスキャンし、天体観測データと高度な幾何学モデルで統合・補正した【この世界の真の全貌】が、寸分の狂いもない極彩色で精緻に描かれていた。
「宗介殿……。この丸い玉は、一体何を表しておるのじゃ?」
将軍・家治が身を乗り出して尋ねた。
「上様。これが、我々が生きているこの世界の真の姿――【球状の星(世界球)】です」
宗介がそっと世界儀を回した。
ゆっくりと回転する青い星。
「大地は平らな板ではなく、宇宙に浮かぶ巨大な球体です。この小さな東の島国が、我らが『瑞穂国』。そして、広大な大洋を越えた東にあるのが、ペルリ提督の『ルーディス合衆国』。さらに海の先には、幾重もの歴史を持つ大陸が広がっています」
沙羅が息を呑み、世界儀の表面に描かれた瑞穂国の島影を指先でそっとなぞった。
その瞳には、広大な世界の姿を見つめる深い感動が広がっていた。
「……世界は、こんなにも広く……そして、海で一つに繋がっておったのじゃな……」
沙羅の着物の袂から、ふわりと清涼な白檀と撫子の香りが漂う。
「これまでの我が国は、己の殻に閉じこもり、外の世界を見ようとしませんでした。しかし、海は壁ではなく、世界中の人々と手を結ぶための『無限の道』です」
宗介は力強い眼差しで、家治と正信を見据えた。
「海の向こうから使節を迎えるだけでなく――今度は我が国自らが、世界の大海原を渡り、各国の元首たちと対等の友誼を結び、最先端の学術と文化を吸収してくるべきです。……国産外洋蒸気船【開花丸】による、【瑞穂国世界親善周航使節団】を派遣しましょう!」
「世界周航使節団じゃと……!?」
正信の鋭い眼光に、猛烈な覇気が宿った。
「うむ……! 外圧に怯えて城に籠もる時代は完全に終わった! 我が国の誇りと、文明開化の光を、この手で世界中へ見せつけてやろうではないか!」
正信は力強く立ち上がると、将軍・家治に深々と一礼した。
「上様! 使節団の全権正使に司馬宗介殿を、副使に我が娘・沙羅を任じ、開花丸を世界の大海原へ送り出したいと存じまする!」
「認めよう!」
若き将軍・家治が、凛とした声で宣言した。
「司馬宗介、西園寺沙羅。瑞穂国の誇りをその胸に、大海を翔けてまいれ! この国の新しき夜明けの光を、世界中の人々に届けてくるのだ!」
「ははっ!!」
宗介と沙羅が、力強く頭を下げた。
大広間に満場の拍手が鳴り響く中、沙羅が宗介の隣で、眩いばかりの笑顔を咲かせた。
その大きな瞳には、未知なる大海原への挑戦に燃える熱い光が宿っていた。
「宗介……! いよいよ、世界の果てまでそなたと共に往くのじゃな!」
「はい、沙羅さん。俺たちの開花丸なら、どんな荒波も恐れることはありません。……世界中の人々が驚くような、最高の航海にしましょう!」
「うむッ! そなたと一緒ならば、どこまでも飛んでゆけるぞ!」
二人は見つめ合い、固く手を握り締め合った。
守るための文明開化から、世界へ羽ばたく文明開化へ。
瑞穂国の歴史を飾る壮大なグランドフィナーレ――『世界周航編』が、いま力強い第一歩を踏み出したのだった。
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