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第2話 枯れた大地に奇跡を 〜AI水脈探査と竹樋水路〜

飛鳥創です。いつもお読みいただきありがとうございます!

 緑川村の集会所前に集まった十数名の男たちは、一様に疑心暗鬼の目を宗介に向けていた。

 無精髭を生やした村の棟梁・作造(さくぞう)が、手にした大工鎚を腰の帯に差し込みながら、不機嫌そうに唸る。


「おいおい、沙羅様……。いくら困り果ててるからって、そんな南蛮風の妙ちきりんな格好をした若造の言うことなんざ、信用できねえぜ。雨乞いの祈祷師だって手をお手上げしたんだ。あの北の丘の岩盤の下に水があるなんて、どこの山勘だ?」

「山勘ではない、作造!」


 沙羅が凛とした声を張り上げ、一歩前に進み出た。

 男物の藍染め羽織の袖をたすき掛けでたくし上げ、露わになった白くしなやかな二の腕が、真夏の陽光に眩しく映える。額には汗の粒が光り、ふわりと熱風に乗って、清涼な白檀と甘い撫子の香りが男たちの間を吹き抜けた。


「この者は、故郷の優れた計算機をもって、地下に眠る伏流水の気配を言い当てた。あの丘のふもとに、干天にもかかわらず青々としたスギナや苔が生えておったのを妾もこの目で確かめたのじゃ。……座して田畑が枯れ果てるのを待つより、一握りの望みに賭けてみようとは思わぬか!」


 沙羅の真摯な眼差しと気迫に圧され、作造たち村人は顔を見合わせ、やがてごくりと唾を呑んだ。


「……へっ、沙羅様がそこまで言うなら、一肌脱ぐしかねえな。おい野郎ども、村の裏山から太い孟宗竹(もうそうちく)と鍬(くわ)をありったけ持ってこい!」

「おーっ!」


 村人たちが一斉に動き出す。その迅速な行動力に、宗介は内心で感嘆の声を漏らした。


(さすがは江戸時代に似た職人社会だ……。号令がかかってからの動きがめちゃくちゃ速い!)


『マスター、作業計画を展開します。北側丘陵の掘削ポイントから村の主水路までの総延長、三町二十間(約三百六十メートル)。高低差は三間(約五・四メートル)。自然流下勾配を一点五パーセントに維持すれば、毎分二・二トンの流量を確保できます』


 宗介はスマホの画面をタップし、シズクが割り出した三次元設計図を呼び出した。


「作造さん! 竹を半分に割って節を抜いたら、内側に柿渋(かきしぶ)か松脂(まつやに)を塗って水漏れを防ぎ、互い違いに組んで丸太パイプ――『竹樋(たけとい)』を作ってください。傾斜は、この長い竹竿に引いた墨線の角度に合わせて設置をお願いします」

「なにっ……? 節を抜いた竹を一本の管にして、丘の上から伏流水を引っ張るって寸法かい! なるほど、樋(とい)を繋げば地面に水が染み込まず、勢いを落とさずに村まで届くってわけか……!」


 作造は宗介の指示を瞬時に理解すると、手にした鋸(のこぎり)と鑿(のみ)を神がかった手際で振るい始めた。

 直径四寸(約十二センチ)を超える極太の竹が、小気味よい音を立てて真っ二つに割られ、みるみるうちに滑らかな導水管へと加工されていく。


(すごい技術だ……! 現代の機械がなくても、職人の手の感覚だけで完璧な精度を出してる)


「宗介、妾は何をすればよい!?」


 沙羅が瞳を輝かせ、宗介の隣に駆け寄ってきた。

 動くたびに、藍染めの袴から衣擦れの音が微かに鳴る。近くに寄るだけで、彼女の温もりと撫子の香りが鼻腔をくすぐり、宗介の胸が高鳴る。


「沙羅さんは、掘削現場の案内と、村人への指示出しをお願いできますか。丘のふもとの掘削は、この赤い杭を打った場所――深さ三間(約五・五メートル)まで掘り進めます」

「心得た! 皆の者、妾に続け!」


 沙羅が自ら鍬を手に取り、先陣を切って丘の斜面へと駆け上がっていった。

 そのひたむきな姿に村人たちの士気は最高潮に達し、乾いた山肌に威勢のいい掛け声と土を掘る音が響き渡る。


 ――作業開始から、およそ四刻(約八時間)。

 西の空が茜色に染まり、夕暮れの涼風が吹き始めた頃だった。


「――出たぞッ!! 水だ、水が出やがったァーッ!!」


 丘の中腹から、割れ鐘のような作造の絶叫が轟いた。

 宗介と沙羅が駆け上がると、深く掘り進められた泥土の底から、冷たく澄み切った地下水がゴボゴボと音を立てて湧き上がっていた。


「シズク、水圧と流量は!?」

『水頭圧、計算通りです。竹樋の接続完了を確認。サイフォン効果、正常に始動します』


 宗介が合図を叫ぶ。

「作造さん、一番上の仕切り板を外してください! 水を流します!」


「おうよッ! いけェーッ!」


 作造が木製の堰(せき)を引き抜いた瞬間、冷涼な水流が唸りを上げながら竹樋の管内へと吸い込まれていった。

 三百メートルを超える竹の水路を、まるで生き物のように水が駆け下りていく。


 そして――。


 ドッ、と激しい水音と共に、完全に干上がっていた村の主用水路へ、滝のような清流が勢いよく噴き出した。


 渇ききっていた赤茶色の田畑へ、みるみるうちに命の水が満ちていく。

 萎れていた稲の青葉が夕暮れの風に揺れ、乾いた土がごくごくと音を立てて水を飲み干していくようだった。


「水だ……! 田んぼに水が戻ってきたぞォッ!!」

「助かった……! 今年の米が、命が繋がったァッ!!」


 村人たちが用水路に飛び込み、泥だらけになりながら抱き合って涙を流している。

 その光景を呆然と見つめていた沙羅の大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちた。


「……あ、ああ……。まこと、水が……。村が……救われたのじゃな……」


 沙羅は感極まったように振り返ると、宗介の胸元へと飛び込んできた。


「沙羅さん……!?」

「宗介……! そなたは……そなたはまこと、この村の救世主じゃ……!」


 沙羅の華奢な体が、宗介の胸にぎゅっと押し当てられる。

 泥の混じった着物からは、汗と、熱気と、そしてあの愛おしい白檀と撫子の香りが濃密に立ち上っていた。細い腕が宗介の背中に回され、彼女の早鐘を打つような心音と、潤んだ吐息が肌を通して直に伝わってくる。


『警告。マスターの心拍数が限界値に到達。顔面紅潮度、危険水準です。なお、対象(沙羅姫)のマスターに対する好感度パラメータは【推定七八・六パーセント】まで急上昇しました』

(シズク……! いま空気を読めって言っただろ……!)


 胸の中で密かに叫びつつも、宗介はそっと沙羅の背中に手を添えた。

 泥だらけになりながら、夕焼けの空に満面の笑みを咲かせた沙羅の美しさに、宗介は完全に心を奪われていた。


「俺だけの力じゃありません。沙羅さんが信じてくれて、村の大工さんたちが最高の腕前で作ってくれたからこそです」

「ふふっ……そなたは、どこまでも欲のない男じゃな」


 沙羅は宗介の胸から顔を離すと、照れたように着物の袂で涙を拭い、いたずらっぽく微笑んだ。

 だが、この奇跡の引水劇は、まだ瑞穂国を揺るがす大改革の、ほんの最初の第一歩に過ぎなかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


「ちょっと面白いな」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

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次回更新もお楽しみに!


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