表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンテニューゲーム  作者: 南江 行瀬
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/7

5 依存


ゆらゆらとしっぽを揺らし、どこかつまらなそうに俺を見下ろすリオ。ただの猫じゃない事は分かってたけど、改めて見ると不気味だ。

曙色の瞳に、切り裂くような細い瞳孔。ピンと立った耳は、細かく動いている。


「(ここだけ見ればただの猫なんだよな……)」


いや、今はそんな事考えてる場合じゃない。

やり直したいけど、どこまで戻るかが問題だし、そもそも上手くいくとは限らない。

それに、この現実で受けた怪我は本物だ。傷はまだ痛むし、学校でのことだって、全部覚えてる。前の現実でやった事も、全部、覚えてる。

でも、これは俺じゃなくて……いや、俺なんだけど、元は…………、あれ……?


「納得いかないなら、またやり直せばいいさ」


いつの間にか人間の姿になっていたリオが、ばっと両手を広げる。さも名案だと言わんばかりの言葉だ。

やり直す。でもどこから?どこからやり直せば、納得いくんだろうか。


「あはっ!考えてるね。よし、ボクもちょっと手伝ってあげる」


くるりと宙返りをしたリオは、俺より大きな姿に変わる。身に纏うローブを広げて俺を包み込んだ。


「な、なに……!?」

「人間って、嫌な記憶はしまい込んじゃうんだ。だからそれを引っ張り出してあげるね」


次の瞬間、色んな場面が脳に入り込んでくる。

小学校の発表会でセリフが飛んだ事。仲が良かった友達が引っ越しちゃった事。運動会のリレーでバトンを落とした事。小さな事から大きな事まで、嫌な記憶が溢れかえってくる。


「色んなことを体験してるね」


空間に響くリオの声。ローブに包まれているはずなのに、何故か広いこの空間。今になって寒気がしてきた。


「この嫌な記憶をいい思い出にすればいい。ボクならそこまで夢で戻してあげられる。キリのいい所がオススメだよ」


耳元で囁くような誘惑的なリオの声。

そうだ。中途半端な失敗からやり直したのがいけないんだ。もっと前からやり直せば…………。


「きっと上手くいく……」



***



「決まった?」


悩んでるカイセイに声をかければ、少し澱んだ瞳が揺れる。後悔に溺れてる人間の瞳だ。何度見ても飽きない、キレイな瞳。


「気に入らない事があったんでしょ?なら戻ってやり直そうよ」


両手でカイセイの頬を包む。目を合わせるように、思考を奪うように、深く考えさせないように。

人間は、一度の成功体験で次も出来ると思い込む節がある。それがどんなに小さな成功だとしても、それに依存する。


「……じゃあ、小学生から」

「いいよ」


あぁ、やっぱりカイセイを選んで正解だった。ボクの予想を上回ってくれる。

とても人間臭くて、欲張りで、見ていて飽きない。


「ふふっ、おやすみ。カイセイ」


そっと目元を撫でてやれば、カイセイの瞳は閉じる。すぐに寝息が聞こえてきたから、ベッドに寝かせてやる。


「夢で会おうね、カイセイ」



***



─ ─ ─

─ ─



賑やかな声に目を開ける。ここは小学校の教室だ。俺自身も小さくなっている。

これは夢だ。リオが過去に戻してくれたんだ。

教室の入口に目を向ければ、『4年3組』と書かれた札が見えた。


『(4年生……一番嫌な時期だな)』


小学校生活の中でも一番濃くて、良くも悪くも印象に残ってる年。黒板を見るに、今は二学期が始まって数日が経った位だろう。

そして、ある事件が起こった日である。


『おはよー!海星ー!』

『おはよー』


クラスメイトとの仲は悪くない。浮かず目立たずの普通の立ち位置。だからこそ、あんな事が起こったのかもしれない。


『なあなあ、アイツやっぱウザくね?』

『だよな。チョーシ乗ってんじゃねーの?』


ヒソヒソと聞こえる陰口。その対処はクラス委員の坂田。真面目で正義感が強く、悪ふざけとかを嫌うタイプ。まあ、言ってしまえばノリが悪い奴だ。一学期の半ば頃から嫌がらせ……いや、あれはイジメだな。イジメが始まった。


『(なんつーか、この年頃だと真面目は嫌われるんだよな……。なんでだろ)』


坂田へのイジメが始まったきっかけは、お菓子の持ち込みの告発だ。真面目な坂田がそんなのを見逃すはずがなく、先生へ告げ口したのだ。

当時は問題になり、全校集会まで開かれた。


『(そっからずーっとイジメか……)』


で、問題はここから。この日、イジメが度を過ぎてしまった。

リオが引っ張ってきた記憶によれば、坂田はこの日の放課後に靴を隠される。靴を探しに行った坂田は、校舎裏で暴力を受けた。


『(止めるべき……なのか……?)』


当時の俺は傍観者だった。関わりたくなかったんだ。でもその日、俺は勇気をだして止めに入った。暴力は止んだ。でも、俺に向けられた視線は、酷く冷たくて鋭いものだった。


『(あぁ、嫌なことを思い出した……)』


机に顔を伏せて大きく息を吐く。

助けたことに後悔はない。……いや、なくはない……かもしれない。

坂田を助けた事で、イジメのターゲットは俺になった。5年生に上がるまで、ずっとイジメを受けた。

この過去は、坂田を助けたから起きた事だ。


『(なら、助けなければいい……)』


そうすれば俺は平和に過ごせる。坂田はただのクラスメイトだ。特別仲が良い訳じゃない。俺が助ける必要なんてない。


『(誰だって、自分が一番大事なんだ)』


顔を上げれば、いつの間にか放課後の時間。場面変換ってのは便利だ。すぐに何かあった時に飛べる。

ランドセルを背負って昇降口に行けば、坂田が鼻を啜りながら下駄箱の周りを必死に探している。


『(悪いな。俺のために犠牲になってくれ)』


靴を探してるであろう坂田の横を通り過ぎる。自分の靴を履いて、足早に帰路に着く。

これでいいんだ。これで俺は何もされない。平和に過ごせる。これが、俺にとっての正しい道。


気がつけば、夕焼け空が青空に変わっている。次の日になったんだろう。俺の足は自然と学校へ向かっている。普段と変わらない様子の通学路。きっと何も起きない。


『(俺は間違ってない……)』


教室のドアを開けると、真っ先に目に入ったのが坂田の席だ。彼はまだ登校してないみたいだけど、その机の上には、花が生けられた花瓶が置かれている。


『(……ぇ、なに……これ…………)』


クラスのみんなは気にしていない様だ。いつも通りにお喋りをしたり、消しゴム落としをしたりして過ごしている。


『(これは俺も気にしたらダメだ。いつも通りに過ごさないと……)』


自分の席に座って授業の準備をしていると、教室のドアが開いた。入ってきたのは坂田だ。それが分かった瞬間に、教室は静まり返る。でもどこからか聞こえるヒソヒソと何かを話している声。バカにするような小さな笑い声。


『(……俺は関係ない)』


坂田は机に置かれた花瓶を元の場所に戻そうと、花瓶を手に持って移動する。それを見た男子が、ニヤニヤしながら坂田を転ばせるつもりなのか、足を伸ばした。


『あっ…!』


坂田はそのまま転んだ。持っていた花瓶が割れた。教室のみんなが坂田を非難する。

嫌な空気だ。でも俺には関係ない。だって、坂田は所詮他人だ。他人がどうなろうと、俺は関わってないんだ。大丈夫、俺は正しい道を選んでる……。



─ ─ ─

─ ─



目が覚めた。見慣れた俺の部屋のベッドの上。耳元でけたたましく鳴り響くスマホのアラーム。

スマホを手に取ってアラームを止める。時刻は6時15分。


「……変わった……のか……?」


体を起こして部屋の中を見渡す。飾られている身に覚えのない賞状。コルクボードに貼られた知らない人たちとの写真。

そして壁には、知らない学校の制服が掛かっていた。


「…………は?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ