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7/14

7出会い

アレンの執務室で、リディアとアレンはソファに向かい合って座った。


肩を内側に丸め、項垂れるようにして座るアレンは見るからにボロボロで萎れている。


「アレン様、先程もお聞きしましたがアレン様はメイリーン様のことが好きなのではないのですか?」

「それは違う!誤解だ!」


リディアが静かにそう聞くと、アレンはまた慌てたように顔をあげて悲痛な叫び声をあげた。


「俺が好きなのは君だけなんだ。……勘違いさせてしまったのは俺が悪いってわかってる。ああ、くそ……」


頭を抱え、またアレンは項垂れる。


「私はずっと、アレン様に好かれていないのだとばかり思っていました」


その言葉を聞いた瞬間、アレンはまた顔をあげ、リディアを見つめた。蒼白で、まるでこの世の終わりだと言わんばかりの顔だ。


「目があってもすぐ逸らされますし、屋敷でも会うのを避けてらっしゃいました。領民の前でだけはとても優しかったですけど、あれは演技だとわかっていましたし……」

「あれは、演技なんかじゃないよ」


ぽつり、とアレンが悲しげに呟く。


「あれは演技じゃない。領民の前でだけは、君に本当の気持ちを伝えることができた。素の自分だとどうしても緊張してしまって駄目だけど、領民の前で仲の良い夫婦を演じてる時だけは、本当の自分を出せたんだ」


悲しげに微笑み、アレンは言う。その言葉と表情に、嘘は見当たらない。


(あれが、アレン様の本当の気持ち……?あの優しさが、本物だったっていうの?)


トク、トク、とリディアの心臓が大きく音をたてて速く鳴り出した。


あの優しさが本物だったなら、ものすごく嬉しい。勘違いじゃなく、本当にリディアを心配し、気遣い、大切にしてくれていた。


「屋敷では君を直視できないし、緊張して会話もできなかったから信じてもらえないかもしれないけど、本当なんだ。……勘違いさせて、本当にごめん」


そう言って、アレンは深々とお辞儀をする。座ったままなので、自分の膝に顔がぶつかるほどのお辞儀だ。


「俺がこんなだから信じてもらえないかもしれないけど……ディールに聞いてもらえばわかる。ディールには全てを打ち明けて、色々と相談していたんだ。……もっと早くディールの言うことを聞いていればよかった」


小さくため息をついて、アレンは後悔するように首を振る。


(アレン様が私を好き……嬉しいけど、でもどうして?)


アレンの気持ちはわかったが、同時にどうしてなのかという疑問がわく。アレンにここまでの気持ちを向けられる覚えが全くないのだ。


「あの、どうしてアレン様は私のことをそんなに思ってくださるのですか?私は加護無しですし、アレン様にとってなんのメリットもありません」


(もしかして、アレン様もこの容姿が好き?)


見た目だけでホイホイとよってくる他の男たちと同じように、アレンもこの見た目を好きになったのだろうか。そう考えると、なんだか胸にモヤモヤとしたものが湧き上がってくる。


リディアが怪訝そうな顔で聞くと、アレンは少し怒ったような顔をする。


「メリットありきで君と結婚したんじゃないよ。俺は、君自身を好きになったんだ」


(私自身を好き?私の何を知っているというの?)


結婚前から、アレンとは特に目立った接点はなかったはずだ。一体どういうことだろうと不思議に思っていると、アレンははにかみながら嬉しそうに話し出した。


「あれは何年前だったろうね。社交パーティーで、君が庭園でガラの悪い令息に無理やり絡まれていたことがあった」


社交パーティーで無駄に絡まれることは日常茶飯事だったので、いつのことだろうかとリディアは首を傾げる。


「元々人の集まるところは苦手で庭園に息抜きしに行ったら、たまたまその光景を見かけて、思わず君を助けたんだ。その時、君に言われた一言が忘れられなかった」


フッと嬉しそうに笑い、アレンはその光景を思い出すように宙を見つめた。





「なあ、いいじゃないか。こんな所に一人でいるのは、誰かに声をかけられるのを待ってたってことだろう?」


(はぁ!?何言ってるのこいつ!そんなわけないでしょうが!)


令嬢たちからの陰口に嫌気がさし、庭園のガゼボで一息ついていたリディアは、一人の令息に絡まれていた。


リディアの隣に図々しく座り、リディアの肩をさりげなく抱こうとする。

リディアが嫌がって立ち上がろうとすると、令息は無理やりリディアの腕を掴んで引き寄せた。


「なっ!やめてください!」


(ふざけんなよこのバカ男!)


「加護無し令嬢が生意気な口きくなって。どうせいつまで経っても結婚相手なんて見つからないに決まってる。寂しいんだろう?俺が慰めてあげるよ」


そう言って、リディアを腕の中に囲い、ねっとりとした視線を向けてリディアへ顔を近づける。


(キモいキモいキモい!なんなのよ!金的蹴るのは……ここからじゃ無理か、足を踏む?頭突き?)


相手の胸元を全力で押し返しながらどうやって切り抜けようかとリディアが考えていたその時。


「何をしているんだ」


突然、近くから声がした。ハッとして目を向けると、冷めた視線を向ける一人の男がいた。


「っ、ベルナール卿。見ての通りです、邪魔しないでくれますか」

「そちらのご令嬢は嫌がっているようだが。これは同意の元ですか?」


リディアはそう聞かれ、全力で首を否定するように振った。


それを見ると、アレンはリディアを掴んでいた令息の手を捻り上げる。


「い、いでで!やめてください!は、離せ!」

「同意ではないなら、これは犯罪になる。罪に問われたくないなら、早々に立ち去るんだな」

「……!」


公爵相手に何も言えない令息は、急ぐようにガゼボから立ち去った。


(はあ、助かった。この方はベルナール卿って言われてたから、……もしかして堅物公爵様かしら?)


噂は聞いたことがあったが、姿を見るのはこの日が初めてだ。リディアが視線を向けると、その視線に気づいたアレンがリディアを見る。綺麗な顔立ちだが表情は無く、噂で聞く堅物というのは見た目通りなのかも、とリディアは思った。


「助けていただき、ありがとうございました」


そう言ってリディアはお辞儀をし、顔をあげるとキリッとした顔でアレンを見た。その凛とした佇まいに、アレンは思わず瞠目する。


「助けていただいた身でこんなことを言うのは大変失礼だとわかっています。ですが、私の体が目的で助けてくださったのならそれにはお応えできません」

「……は?」


アレンは言っている意味がわからないという顔でリディアを見つめる。その表情を見て、リディアはやってしまったかと後悔した。


(これは……逆に失礼なことを言ってしまったみたいね)


絡まれるリディアを助け、そのお礼としてリディアに言い寄ってくる輩も多いのだ。もしアレンもそうだとしたら面倒くさいと思い先手を打ったつもりだったが、むしろすごく失礼なことを言ってしまったようだ。


「ごめんなさい。その様子だと、純粋に助けてくださったみたいですね。本当にありがとうございました。そして、失礼なことを言ってしまって申し訳ありません」


眉を下げ、心から申し訳ないと言う表情をして謝罪するリディアは、その後すぐに心から安心したというように微笑む。そんなリディアを見て、アレンの心臓は生きてきた中で一番大きく鳴り響いた。




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