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6/14

6誤解

リディアは部屋を出るとアレンの執務室へ向かった。


(きっと、もう戻ってらっしゃるはず)


ふーっと大きく深呼吸して、リディアはドアをノックする。


「はい」

「リディアです」

「……リディア!?」


ガタン!と何か大きく音がする。


「お話したいことがあります。中に入ってもよろしいでしょうか」

「え、あ、ああ……」


アレンの返事を聞いて、リディアはすぐに執務室へ入った。


アレンはなぜか自席から立ち上がっている。アレンの足元には、椅子が盛大に傾いて倒れていた。


「アレン様、お伝えしたいことがあります」

「……?」


アレンの目が泳ぐ。リディアを見たいのに、見れなくて視線が定まらない。


(そんなに、私のことは見たくないのね……)


メイリーン一筋ゆえ、他の女を視界にいれたくないということだろうか。そうであれば、心が揺らぐことはない。きちんと伝えることができる。


「アレン様、離婚しましょう」

「……は?」


リディアの一言に、アレンは逸らしていた視線をがっちりとリディアへ向け、大きく目を見開いている。

疑問の一言は、まるで地を這うような恐ろしい低い声だ。そしてアレンは、一歩一歩、リディアへ近づいてくる。


「……なぜ?何を言っているの?俺の聞き間違い?」

「き、聞き間違いじゃありません、いまからきちんと説明を……」

「説明?……そんなもの必要ない」


アレンがさらに恐ろしい形相で近づいてくる。あまりの気迫に、リディアは驚いて後退るが、すぐに背中は壁にぶつかった。


ドンッ!


(はわわ、か、壁ドン!?)


リディアの後ろは壁、そして目の前にはアレンがいる。アレンは、リディアの顔の横に手を置いてリディアを恐ろしい形相で見つめていた。


リディアの若草色の瞳は不安げに揺れ、金色の美しい髪がはらりと肩から流れる。艶やかな黒髪に深い海色の瞳のアレンは、リディアにゆっくりと顔を近づけた。鼻先が触れ合うほどの距離だ。


(え、ま、待って?なになになに!?)


「どうして離婚しようとする?他に好きな男でもいるの?……まさか、あの商人の男?許さない、離婚なんて絶対にしない。リディアは……リディは俺だけの妻だ」


ギラギラとした瞳で今にもリディアを獲って食ってしまうのではないかと思えるほどだ。


(何?どうして!?ど、どうしてこうなったの!?私は……私はただ、アレン様を自由にしてあげたかっただけなのに……!)


「ずっと、ずっと好きだったんだ。でも、君を前にすると何をしゃべったらいいかわからなくて……君を見つめていたいのに、見ていると緊張と嬉しさで心臓が口から飛び出てしまいそうになる」


そう言って、アレンはリディアの頬に優しく触れる。リディアを見るアレンの目は、喜びと苦しさでどうしようもないと切に訴えかけていた。


「本当はずっとこうして君に触れたかった。……リディ、好きだよ。大好きなんだ」


(……え?一体どういうこと!?)


驚いて何も言えないリディアに、アレンは貪るようなキスをする。


二人がキスをするのは、この日が初めてだった。


アレンはリディアの唇へ一心不乱に食いついている。


(え、な、なに?え?)


リディアは頭が追いつかない。何度も何度も唇を食まれ、貪られ、息ができない。

酸素を求めて口が開くと、アレンは見逃さないと言わんばかりに舌をねじこむ。


(なっ!?えっ!?)


舌で口腔内をかき乱され、リディアの体はなぜがゾクゾクし始める。何が起こっているのかわからないほど混乱しているのに、どんどん頭はボーッとしていった。


どのくらいそうしていただろうか。ようやく唇が離れると、目から光が失われたかのようなアレンの顔がある。


「リディ、まさかあの男ともこんな風にキスをしてそんな顔を見せているの?……ふざけるなよ、こんなリディを見て良いのは俺だけだ!俺だけなんだよ!」


リディアの肩を爪が食い込むほどギュッと掴み、アレンは叫ぶ。それから、俯いて唸り始めた。


「くそ……もっと早く、ディールの言う通り、もっと早くちゃんと言っていれば……こんなことには……」


ぐす、ぐす……とすすり泣く音がする。


「アレン……様?」


驚いてリディアが名前を呼ぶと、アレンが顔をあげた。その顔を見てさらにリディアはぎょっとする。

アレンは、大粒の涙をこぼして泣いていた。


「リディア、離婚するなんて言わないでくれ。俺はリディアが好きなんだ。こんなに好きなのに、どうして……離婚なんて……無理だよ……」


そう言って、アレンはリディアの肩へ頭を乗せる。


(……え、なに?……何が起こっているの?これは、夢?)


「あの、えっと、アレン様はメイリーン様のことが好きなのでは?」

「それは違う!」


ガバっと顔を勢いよくあげると、アレンは全否定した。涙で顔はボロボロだが、必死な形相でリディアを見ている。


(アレン様が、私の顔をちゃんと見てこんなに必死になっている)


初めて見る光景に、リディアは胸が大きく高鳴った。いつもはあんなに視線を逸らし、屋敷の中でリディアと会うことを避けるアレンがこんなになるなんて驚きだ。


もしかすると、何か大きな勘違いをしていたのかもしれない。


「あ、あの、アレン様、私たちはお互いに勘違いしているのかもしれません。……ちゃんと話し合いましょう」





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