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5/14

5勘違い

リディアの言う通り、新しく珍しい物好きな婦人たちへ作り手を伏せて無償提供すると、あっという間に貴族の間でアクセサリーは広まり、正式な販売が始まった。


最初はリディアが考えて作ったものだけを販売していたが、次第に天然石の色や大きさ、形を希望するオーダーメイドの注文も受けるようになる。


そして、アクセサリーだけにとどまらず、髪飾りやチャームなどにも展開し、作者のわからないアクセサリーは謎も相まって人気となり、領内だけでなく国内にまで広まるようになった。


(なんだか予想以上の展開だけど、これもフィリックさんの商人としての腕前のおかげだわ)


口コミで広める案を出したのはリディアだったが、貴族の好みそうなものを提案したり、アクセサリー以外のものを作るよう提案したのはフィリックだ。


(そのうち何かお礼をしなきゃ。何がいいかしら?)


商人が望むものなんて正直わからないので、それなら、本人に聞いてみれば良い。


「お礼ですか?そんなのいりませんよ!こうして売れに売れているのが何よりのお礼です」


(そう言われるような気はしてた)


実際に本人に聞いてみると、思っていた通りの返事をされてしまった。リディアが苦笑していると、フィリックは何かを思い出したように手を叩く。


「そうだ、もしリディア様がよければ、観劇にご一緒していただけませんか?」

「観劇に?」


 フィリックの発言を聞いた瞬間、ディールが目を大きくひんむいて二人を凝視する。


最初の頃リディアのことをベルナール夫人と呼んでいたフィリックは、いつの間にかリディア様と名前で呼ぶようになっていた。

それほど、アクセサリーを通して二人の信頼関係は強くなっていたのだ。


「実は、ご贔屓にしていただいているとある貴族の方から、観劇のチケットをいただいたんです。ですが、仕事一筋の私は一緒に行ける相手が残念ながらいません」


苦笑しながらフィリックは話を続ける。


「どこかのご令嬢と一緒に、とも言われましたが、この仕事をしている以上、特定の貴族の方とご一緒するわけにはいきません。ですが、ビジネスパートナーであるリディア様であれば、それも可能かと思いました」


フィリックの話を聞きながら、ディールは渋い顔ではぁ?こいつ何言ってんだ?という表情をしているが、フィリックにもリディアにもその顔は見えていない。


(ビジネスパートナーか。確かにフィリックスさんはそうかもしれない。それなら一緒に行っても問題ないかしら。……そもそもアレン様は私に興味ないわけだし)


そう思った瞬間、なぜか胸がツキンと痛む。


(どうして痛むの……?)


「もちろん、公爵様が駄目だと言うのであれば断ってください」


フィリックがそう言うと、ディールは当たり前だろ、という顔をするが、二人にはもちろん見えていない。


(アレン様が駄目だって言うとは思えないけど……)


「わかりました。夫に聞いてみますね」

「観劇は来月なので、返事はゆっくりで構いません。よろしくお願いします」





その日の夜。


(うーん、いつアレン様に聞こうかしら。そもそも話をしてくださるかわからないわ。いっそのことディールからアレン様へ聞いてもらおうかな)


観劇の話をアレンにいつ切り出そうかと考えながら屋敷の中を歩いていると、執務室から話し声が聞こえてくる。どうやら、ディールがいるようだ。


(ちょうど良いわ、ディールがいるならアレン様とも話やすいかもしれない)


そう思って部屋をノックしようとした瞬間、部屋の中からディールの慌てた声がする。


「良いんですか!?このままだと……まいますよ!」

「それはそうだけど、彼女を目の前にすると……なんだ」

「そんなこと言ってる場合ですか!前から何度も言っていますけど、メイリーン様のこと……ですし、リディア様に早くきちんと話さないと……に失礼ですよ。手遅れになっても……んからね!」


(なんか揉めてる?ところどころ聞き取れないからよくわからないけど)


メイリーンの名前が出てきたので、彼女のことを話しているのだろうか。


なんだか今ノックをするのは違う気がする。リディアは静かに執務室から遠ざかり、自室へ戻った。



翌朝。


コンコン、と部屋のドアがノックされる。


「はい?」

「……俺だ」


(アレン様?)


「どうぞ」


リディアがそう言うと、アレンが静かに部屋へ入ってきた。


(アレン様が私の部屋に来るなんて珍しい!)


屋敷内ではほぼ顔を合わせないので、リディアの部屋に来ることもほとんどない。寝室はもちろん別だ。


「どうかなさいましたか?」


リディアが首をかしげて聞くと、アレンはすぐに目を逸らして口ごもる。


「……その、アクセサリー制作は順調のようだね」

「え?ああ、はい。ディールからお聞きになったんですか?」


(もしかして、観劇のこともディールから聞いてるのかしら?それなら話が早いけど)


「……ああ。それで、その」


そこまで言って、アレンはまた黙り込む。なんだろうとリディアがまた首をかしげると、アレンは顔を顰めてから口を開いた。


「……メイリーンが、アクセサリーに興味を示しているようで、彼女に何か作ってあけてほしい」


(なんだ、メイリーン様のこと)


別に特別な意味はなくなんとなくそう思っただけのに、なぜかまた胸が痛む。だが、リディアはその痛みに気付かないフリをして、アレンに笑顔を向けた。


「わかりました。メイリーン様は普段アクセサリーはなさいますか?」

「いや、騎士だから、しないんじゃないかな……?」


(なぜ疑問形なの?)


 なんとも歯切れの悪い返事だ。そうなると、何を作ってあげたらいいのかさっぱりわからない。


「それでしたら、メイリーン様に何が欲しいかさりげなく聞いていただけますか?」

「あ、ああ、わかった」


(なんだかよくわからないわ。興味があるというなら何が欲しいかまで聞けば良いのに)


騎士だからアクセサリーはつけないと思うと言われてしまったら、何もあげられないのでは、と思ってしまう。


「あの、それでだ。メイリーンのことなんだけど……」

「?」


アレンは何かを言いかけてまた黙り込み、リディアを見るがすぐに視線を逸らす。その繰り返しだ。


「……いや、なんでもない。それじゃ」


そう言って、アレンは静かに部屋から出ていった。


(何?何が言いたかったのかさっぱりわからない)


リディアは考えこむが、ふと昨日のディールとアレンの会話を思い出す。


──彼女を目の前にすると……だ、メイリーン様のこと……、早く話さないと……に失礼だ


(もしかして、アレン様はメイリーン様のことが好き……!?)


だとしたら、社交パーティーの時のメイリーンに向けた笑顔も納得がいく。


アクセサリーに興味があるらしいと言いながら何がいいか本人に聞けなかったのは、メイリーンを目の前にすると緊張してしまうからではないだろうか。

早く話さないと失礼だと言うのは、メイリーンへの気持ちのことで、メイリーンに対してか、それともリディアに対してか。


(どうしてもっと早く気づかなかったんだろう……!)


リディアは両手で口元を覆い、アレンが出ていったドアを見つめる。


この一年近く、アレンはどんな思いでリディアと同じ屋敷にいたのだろうか。

久々にメイリーンに会った時、きっと嬉しくて仕方がなかったに違いない。

だが、リディアと結婚してしまっている以上、メイリーンへその気持ちを伝えることはできない。


きっと苦しくて仕方ないのではないか。それでも、アクセサリーを送りたいという淡く切ない気持ち。


(私、とんだ邪魔者じゃない!)


もしかすると、さっき言いかけたのは、メイリーンのことが好きなのだと打ち明けようとしていたのかもしれない。


そう思った瞬間、ツキン、と胸が痛む。


(どうして……こんなに胸が痛むの?)


アレンはリディアに興味がない。領民の前で見せる優しさや笑顔は、偽物だ。

まるでフィリックへヤキモチを妬いているかのように思えた仕草も、やっぱりただの勘違いだった。


アレンが思い続けているのは、メイリーンただ一人。


(アレン様を、解放してあげなきゃ)


なぜか苦しいくらいに胸が痛む。だが、そんなものはアレンから離れればきっとすぐに無くなるだろう。


リディアは振り払うかのように大きく首を振り、前を向く。


(善は急げだわ)



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