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4疑惑

「おお!どれもこれも素敵ですね!」


試作品ができると、リディアはすぐに商人へ連絡を取り、フィリックはすぐに屋敷へ駆けつけた。


この日、アレンが言った通り、応接室にはリディアとフィリックの他に、ディールがいる。


ディールは真ん中わけの茶髪に焦げ茶色の瞳でスラリとしている。二人から少し離れた所で二人をジッと見ている。


(あんな風に見ていたらフィリックさんもやりずらいんじゃないかしら……)


前回までいなかった人物が急にいて、監視するかのように見ているのだ。

あまり良い気分はしなさそうだが、フィリックは対して気にもしない様子で試作品を手に取り眺めている。


「イヤリング、指輪、ネックレス、ブレスレットをそれぞれ試作してみました」


天然石の欠片を使った品々はどれも色とりどりで繊細かつ美しい。天然石の色をグラデーションのように使ったり、あえてバラバラの色を使ってみたりと様々だ。


ネックレスは天然石が一粒だけのものや、小さいものと少し大きいものを組み合わせたもの、二連になっているものもある。


「これは、ここをこうして開け、つけたり取り外したりできるんです」


カニカンを使ったブレスレットを実際につけて見せると、フィリックは驚いた表情で見つめている。


「実際にやってみてもよろしいですか?」

「どうぞ」


フィリックはブレスレットを受け取り、リディアの腕をそっと引き寄せた。それを見て、ディールは一瞬厳しい顔をする。


(え、私の腕?ああ、でもそうよね、サイズが女性用だから)


フィリックは真剣な顔でリディアの腕にブレスレットを装着した。カニカンに最初は少し手間取っていた様子だったが、すぐにコツを掴んだようだ。小さな天然石が三粒ついたブレスレットは、チェーンも細身で可憐さが際立つ。


「美しいですね……夫人に大変お似合いです」


そう言ってフィリックは満足そうに頷き、ブレスレットに触れながらリディアの腕にも優しく触れる。それを見て、またディールは厳しい顔になった。


「ありがとうございます」

「それでは、ここからは商売の話になります。これらを、新しく珍しい物好きな貴族の御婦人たちへ提供したいのですが、いかがでしょうか」

「構いません。ですが、私が作ったということは伏せておいてください」


リディアの言葉に、フィリックは首を傾げる。


「加護無しの私が作ったと知れば、価値は下がります。恐らくあなたが望んでいるのは、これを使っていずれは大きく商売をしたい。違いますか?」

「……隠すつもりはありません。その通りです」

「でしたら、作り手は隠しておいた方が良い。詳しくは言えないが、とある貴族が作った、とだけ言っておけば、きっと好奇心に駆られて所有欲もわくでしょう。それから」


リディアはにっこりと微笑んで言葉を続ける。


「最初は無償提供にしてください」

「無償ですか?」

「ええ。試作品なので無償で提供します。なので、もしも気に入ったならこれをぜひ周りに広めてくださいと伝えるんです」

「そんなこと言わなくても、提供する御婦人たちはきっと勝手に広めてくれますよ」


フィリックは当然のようにそう言うが、リディアは微笑みながら首を横に振る。


「それは気に入ってくれたらの話です。もしも気に入らなかった場合でも、無償ならばこんなものがあった程度には話をしてくれるでしょう。どんな場合であれ、広まり興味を持たれるための切り口がほしいのです」


リディアがそう言うと、フィリックは目を大きく見開いてからニヤリと笑みを浮かべた。


「どうやら夫人は商売の才もおありのようだ。それではそうさせていただきます」


(商売の才があるかどうかは疑問だわ。でも、前世ではこうして口コミで広まってお客様が増えたんだもの)


この世界でもそれが通用するかはわからない。だからフィリックにそれとなく提案し、否定されなかった。どうやら勝算はありそうだ。


(別に売れても売れなくても私は問題ないけれど、フィリックさんや採掘屋さん、加工屋さんの利益になるならその方が嬉しい)


フィリックと目を合わせ、リディアはにっこりと笑う。そんな二人の様子を、ディールは真顔で眺めていた。



話が終わりフィリックの乗る馬車を見送ると、近くにいたディールが口を開いた。


「リディア様、あの商人は距離が少し近すぎるのではないですか?」

「え?そう?」

「ブレスレットをつけながら、リディア様の腕にさり気なく触っていました」

「ブレスレットをつける時に触れてしまうのは仕方ないわよ。フィリックさんだって触りたくて触ったわけじゃないと思うわ」


リディアはそう言って苦笑する。実際、フィリックに厭らしさの雰囲気は感じられなかった。異性の厭らしい視線や言動に嫌と言うほど触れてきたリディアにはよくわかる。


(それに、商人が客先相手にそんな態度をとったら、商売として成り立たないわ)


信用問題に発展するだろう。若くして様々な貴族を相手に仕事をしているフィリックが、そんなヘマをするはずかない。


「それなら良いのですが……」

「大丈夫よ、この家とアレン様の名前に傷をつけるようなことはしないから。安心して」


きっとディールはリディアの悪い噂を気にしているのだろう。リディアが努めて明るく振る舞いそう言うと、ディールは神妙な顔になる。


「私もアレン様もリディア様がそんなことをする方だとは思っていません。……とにかく、今日のことはアレン様にご報告します」


そう言って、ディールは深々とお辞儀をして屋敷の中へ入っていった。


ふと、視線を感じて見上げると、屋敷の窓の一つにアレンの姿がある。アレンは厳しい表情でリディアを見ていたが、リディアの視線に気づくと、窓から離れ部屋の奥へと入って行く。


(いつから見ていたのかしら……たまたま?)


この間は突然リディアの側にいて、まるでフィリックにヤキモチを妬いているかのような素振りを見せた。


(まさか今日もフィリックさんのことが気になったのかしら……。ううん、そんなはずないわよね)


リディアは苦笑し、屋敷へと戻って行った。




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