30忠告
アレンはリディアに食らいつくようなキスをする。リディアはそれを受け止めるので精一杯だ。
何度も執拗にキスを重ね、アレンの唇が離れた頃にはリディアはすっかり蕩けてくったりとしていた。
(な、に、これ……頭がぼーっとして力が入らない)
呼吸もままならず小さな吐息がリディアの口から漏れる。リディアの蕩けた顔を見てアレンは喉を鳴らし、リディアをそっと抱きしめた。
「リディアが俺に対してそんなふうに思ってくれるなんて思わなくて、気持ちが溢れてしまった。ごめん」
そう言ってから、小さく唸るとアレンはリディアから体を離し、大きく息を吐いた。
ようやく頭がはっきりしてきて、リディアはアレンを見ながらなんとも言えない気持ちになる。
(またアレン様は突然振り切ったような行動に出るんだから……ギャップがありすぎて未だに慣れないわ)
複雑そうなリディアの表情を読み取ったのだろう、アレンは不安そうな顔でリディアを見つめる。
「……やっぱり嫌だったか?」
「嫌なわけではないですけど、毎回急すぎてどうしていいかわからないです」
(そう、困ったことに嫌ではないのよね)
嫌だという気持ちがあるなら、それを言うことができる。だが、リディアはなぜか嫌だと思えないのだ。
「そう、なのか。嫌がられてないならよかった」
心の底からホッとしたように微笑むアレンを見て、リディアは余計に困ってしまう。
「リディア、俺が他の女性に手を握られて嫌だと思ってくれるなら、リディアも俺の気持ちが少しはわかってくれたかな」
アレンはリディアの手をそっと取り、真剣な顔で言う。それを聞いて、リディアはハッとして目を大きく見開いた。
あんな暗く嫌な気持ちをアレンは何度も抱いていたのだ。リディアに悪気はなくとも、簡単にフィリックに手を握られてしまうような隙があったのは事実だろう。
「そうですね、アレン様の嫌がる気持ちがよくわかりました。これからはフィリックさんの前でも警戒するようにします」
(かといって、あからさまに警戒心を出すのもなんだか違う気がするし、どうしたら良いのかしら)
フィリックは下心ではなく善意で手を握っただけなはずだ。そんな相手にあからさまに警戒心を見せるのはなんだか申し訳ない気もしてしまう。
警戒すると言いつつも戸惑いを隠せないリディアを見て、アレンは掴んでいたリディアの手を少し強く握った。
「そうしてくれるとありがたいが、もうあの男が気安くリディアに触れることのないよう、俺がなんとかする。だから大丈夫だ」
そう言って、アレンはリディアを優しく抱きしめ、肩越しに不敵な笑みを浮かべた。
(なんとかするって、一体何をするつもりなのかしら)
アレンのことだ、リディアが嫌がるようなことはしないだろう。今後もアクセサリー作りを応援し続けてくれると言っていたし、フィリックとの商売をしにくくなるようなことにはならないはずだ。
今はアレンを信じるしかないと、リディアはアレンに抱きしめられながらそっと瞳を閉じた。
*
「まさかこうしてベルナール卿から直々に呼び出されるとは思いませんでした」
リディアがメルベルト公爵夫人と会って数週間後。この日、フィリックはアレンに呼び出されベルナール邸にやって来ていた。
ソファに座るフィリックの目の前には、アレン一人だけが座っている。いつもは近くにいるディールはなぜか部屋の中にはいなかった。
「今日はリディア様はいらっしゃらないのですね。あの側近の方も不在ですか」
「ああ。リディアが買い物にいっている間に君と話をしたいと思いましてね。ディールにはリディアに付き添ってもらっています」
「なるほど。完全にベルナール卿と私の二人きりと言うことですか」
にっこりとフィリックが微笑むと、アレンは真顔でその笑顔を受け止める。
「リディア様がいないところで私に言いたいこととは一体何でしょうか?メルベルト公爵夫人との話を聞いて、リディア様が表舞台に立つのを拒否するおつもりですか」
フィリックは微笑みを浮かべたままだが、その声音はかたい。まるでもしそうだとしたらアレンを非難するとでも言いたげだ。
そんなフィリックに、アレンは真顔のまま否定するように首を振った。
「いや、俺はリディアが選ぶことならどんなことでも応援するつもりです。表舞台に立つことを選ぶならそれを全力で応援する。もしそれでリディアが非難されるようなことがあれば、俺はその盾になってリディアを守るつもりです」
アレンが力強く言うと、フィリックは小さく首をかしげる。
「それなら、どうして私はここに呼ばれたのでしょうか?リディア様を応援するのであれば、何も問題ないのでは?」
「問題はある。大ありだ」
そう言って、アレンは不機嫌そうに目を細めフィリックを見る。
「あなたはメルベルト公爵邸でリディアの手を握ったそうですね」




