24邪魔者
突然抱きつかれてリディアは驚き思わず体を引こうとするが、アレンはガッチリとリディアを抱きしめていた。
「リディアに嫌がられていなくて本当によかった!」
心の底から安堵したような声を出すアレンに、リディアは面食らう。
(そ、そんなに?)
そんなに気にするなら少しは考えて行動すればよいのにと思うのだが、考えるよりも先に思いが溢れ動いてしまうアレンにとってはそういうわけにもいかないのだろう。
劇場でリディアをエスコートし周囲の視線や陰口から守ってくれて頼りがいがあると思えば、嫉妬にまみれてどうしようもなくなってしまうアレン。ギャップがありすぎてそれはそれでちょっと面白いと思えてしまうのだから不思議だ。
(またまだ私の知らない色んなアレン様がいるのかもしれない。それを知ることができるのは嬉しいかも)
そう思い微笑みながらリディアはアレンの背中に手を回し、優しく抱きしめ返した。
*
屋敷に戻ったリディアは自分の部屋へ戻り、湯浴みを済ませて寝る支度をすると劇場での出来事を思い返していた。
(メルベルト公爵夫人は、私がアクセサリーの制作者だと確信していたようだったわ。それでも、また会えるのが楽しみだとおっしゃっていた)
加護無しのリディアが制作者だとわかった時点で嫌がる貴族は多いだろう。だからこそ、制作者のことは徹底的に伏せていたのだ。だが、メルベルト公爵夫人はリディアに対して嫌がるどころか興味深そうだった。
(メルベルト公爵夫人は新しいもの好きで好奇心が強く、偏見やくだらないしきたりを嫌い古い考えにあまり固執しないタイプらしいけど、どうやら本当みたいだわ)
加護無しのリディアに対しても偏見を持たず接してくれたのだ。フィリックが紹介したいと言っていたのも頷ける。
ふと、馬車を探していた時に偶然フィリックが通りかかったことを思い出し、その時に言われた言葉が頭をよぎる。
『……俺だったら、絶対一人きりにはさせないしそんな表情はさせないのに』
(一体、どういうつもりであんなことを言ったのかしら……)
普段は自分のことを「私」と言っているのに、突然「俺」と言い出したことも気になる。
まさかフィリックに限ってリディアを異性として見ているはずはない。今まで一度もそんな素振りを見せたことはなかったし、フィリック自身がリディアをそんな風に見ていないと以前アレンにはっきり告げている。
だが、あの時だけは何かが違うのを感じた。
(まさか、そんなはずないわよね)
リディアは否定するように首をぶんぶんと振る。あのフィリックに限って、リディアを一人の異性として見ているわけがない。
何よりリディアは既婚者、しかもビジネスパートナーだ。そんな相手にそんな思いを抱いてしまうような人には思えない。
フィリックはアレンが来た瞬間、手を離しまるで含みのあるような笑みを浮かべていた。もしかすると、アレンを揶揄っているのだろうか。
だが、なんのためにそんなことをする必要があるのか。
(ビジネスパートナーとして私を欲しいとは言っていたわ。アレン様がいる限りそれは無理なことだと本人もわかっている。だから、せめて腹いせにアレン様を揶揄っているとか?でもそんな幼稚なこと、あのフィリックさんがするからしら)
ベッドに横になり天井を眺めながら、うーんとリディアは首をひねった。
*
「あの商人がそんなことを……なかなか厄介ですね。それに、偶然通りかかったというのも怪しいです」
リディアが部屋で一人悩んでいる頃、アレンは執務室でディールと話をしていた。
ディールはアレンから劇場であったことを聞くと、顎に手を置いて眉間に皺を寄せ嫌そうな顔をする。
「リディアがメルベルト公爵邸に行く際は、ディールも一緒に行ってくれ。くれぐれもあの男が気安くリディアに触れないよう、不用意に近づかないよう見張るんだ。メルベルト公爵夫人へはディールも同行することを事前に連絡しておく」
「かしこまりました。絶対にあの男をリディア様に近づけません」
ディールは胸に手をやってさも当然だと言わんばかりの顔で返事をする。それから、すぐに表情を和らげてアレンを見た。
「それにしても、ようやくリディア様のお気持ちを聞けたんですね。よく頑張りました」
「とりあえず嫌がられてないということだけは聞けたんだが」
「それでも上出来ですよ!今のアレン様にとってはじゅうぶんすぎるくらいです」
ディールは胸の前で腕を組みうんうんと大きく頷く。それを見て、アレンは嬉しそうに微笑んだ。
「ディールには色々と気苦労をかけたな」
「本当ですよ。全く、一時はどうなることかと思いました」
やれやれと肩をすぼめると、ディールはすぐに真剣な顔になる。
「だからこそ、アレン様とリディア様の仲を邪魔するような輩は許せません。絶対に近寄らせませんよ」
拳を握りしめ、ディールは真剣な顔でアレンを見つめる。そして、それに応えるようにアレンは大きく頷いた。
「……ああ。頼りにしている」




