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23愛される価値

 自分でも制御できないほどの重苦しい思いをアレンが抱えている。その事実に、リディアはただ戸惑うばかりだった。


(加護無しの私なんかを、アレン様はこんなに思ってくださるなんて)



──お前は俺がいなくたって一人でも生きていけるよ

──どうして浮気したかだって?浮気されても平気そうだからに決まってるだろ

──本気で愛されてるとでも思ったのか?君が?



 急に、前世で付き合った男たちに言われた言葉が頭をよぎり、リディアは胸が痛くなり思わず目を瞑る。前世では付き合う男にことごとく裏切られ、傷つけられてばかりだった。


(私が、こんなにも愛されるなんてありえない。私には、愛される価値なんてどこにもないのに)


「……どうしてそこまで思ってもらえるのか、本当にわからないです。私は……加護無しですし、別に秀でた何かがあるわけでもありません。良いと言われるのは、この見た目だけ。愛される価値なんてどこにもないのに」


 唯一与えられた美しさでさえ、加護無しのリディアにとってはただ見た目がいいだけの存在として男性から体目的だけで言い寄られ、女性からは色目を使う卑しい女としてありもしないことを勝手に言われるのだ。


 リディアはドレスをギュッと掴む。実家でも加護無しの役立たずと罵られ、愛を向けられることなどなかった。

 前世でも今世でも真実の愛などどこにもない、そう思って生きて来たリディアにとって、アレンから向けられる愛は重いというより、そもそもあり得ないことだった。


「リディア、君には愛される価値がないなんてそんなことない。加護無しだからなんだ。それにその見た目をとやかくいう連中が気になるなら、俺がどんな手を使ってでも全員黙らせる。君は俺に愛されて当然の人間だ」


 アレンはリディアの両手を掴み、強く握り締める。まるでこっちを見ろと言わんばかりで、リディアが思わず視線を向けると、そこには嘘偽りのない強く美しい瞳がリディアを真っすぐに見つめていた。


(アレン様……)


「俺は君がこの屋敷に来てから、加護無しであっても公爵夫人として在ろうと努力してきたことを知っている。使用人に対するさりげない気配りも、領民たちへの優しさも、公爵である俺をいつだって支えてくれていたことも全部知っている。全部俺はこの目で見てきているんだ」


 そう言って、アレンはリディアの両手を自分の両手に包み込むと、自分の額へ付け、祈るように目を瞑る。


「俺はあの商人のように、君の才能を引き出すことも、君の商売を軌道に乗せることもできない。俺にとってはそれがもどかしく悔しくてたまらない。だけど、俺にできることなら何でもする。君が笑顔になれるなら、君の涙を拭えるなら、君が愛を信じられないというのなら、いくらでも君へ愛を捧げよう。誰よりも、俺が一番君を愛している。この愛は未来永劫途切れることはない。これは絶対だ」

「……!」


 アレンは目を開けてリディアの手を掴んだまま手をおろすと、リディアの瞳をしっかりと見つめる。

 深い海色の瞳は優しさと強さをたたえ、リディアを心の底から愛していると訴えかけていた。


「アレン様……」


(どうしよう、嬉しいと思うのに、それでもやっぱり不安になってしまう)


 こんなに愛してくれるのに、その愛を信じきることができない。いつか裏切られたら、結局加護無しの自分などではなく他の誰かに心移りされたらと思ってしまうのだ。

 それは、リディアが何よりも自分自身を信じきれないという証でもあった。


 リディアはアレンを見つめ返すが、その瞳には喜びと同時に拭いきれない不安が宿っている。それに気づいたアレンは、優しくリディアの頬を撫でて微笑んだ。


「不安になっても良いよ。何度不安が湧き出ても、俺がいくらだって消し去ってみせる。いつだってリディアへ愛を伝えるから」


 優しく全てを包みこんでくれるかのような微笑みに、リディアの胸はときめく。


「……ありがとうございます」


 リディアは目を瞑りアレンの手に顔を寄せる。温かい手の温もりはリディアの不安な心を溶かしていくようだ。


「それで、リディアは俺のことを、その、どう思っている?」


 おずおずと控えめに、だがはっきりとアレンは疑問を投げかけた。ずっと聞きたかったことなのに、聞くタイミングがなかったのだ。


(私の……アレン様への気持ち……)


 アレンの質問箱にリディアは目を開けて瞬きをする。アレンに初めて気持ちを伝えられた時から、いつかはきちんと言わなければいけないと思ってはいた。


「俺の気持ちに応えてほしいとは言わない。まだ距離を縮め始めたばかりなんだ、リディアだって戸惑っているんだろう。ただ、俺のこの重い気持ちをどう思っているのか、嫌だと思っていないか気になるんだ」

「それは……」


 リディアがアレンの顔を見ると、アレンは先ほどの頼りがいのある顔から一変してひどく不安げだ。


(ちゃんと、今の私の気持ちを伝えないと。でも、心臓の音がうるさい)


 トクトクと心臓が大きく鳴っている。口を開いた瞬間、思わず口から出てきてしまいそうで怖い。それでも、リディアは意を決して言葉を発した。


「アレン様の気持ちも、行動も、嫌ではありません。戸惑うことばかりですけど、でも私を思ってのことだと伝えてくださるので、純粋に嬉しいと思っています」


 リディアの一言一言を聞きながら、アレンの不安げな顔が次第に喜びに変わっていく。そして、最後の言葉を聞いた瞬間、アレンはリディアに抱きついた。


「ああ!よかった!!!」

「ア、アレン様!?」



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