19隠された敵意
また近いうちに会える、そう言ったメルベルト公爵夫人の言葉にリディアは驚き、首を傾げながらメルベルト公爵夫人の背中を見つめた。
(前にフィリックさんが会わせたい人がいると言っていたけれど、もしかしてそれってメルベルト公爵夫人のことなのかしら)
アクセサリーの販売を盤石なものにするために必要な人だと言っていた。メルベルト公爵夫人の影響力ならあり得るだろう、ぼんやりとそう思っていたその時。
「アレン!」
背後から、聞いたことのある声がする。リディアとアレンが振り返ると、そこにはメイリーンとその兄ドレイクが騎士服に身を包み二人の方へ歩いてきた。ドレイクはメイリーンと同じ黒髪で短髪、よく鍛え上げられた体なのが騎士服を着ていてもよくわかる。
「メイリーン、それにドレイク!久しぶりだな」
「アレン!元気そうで何よりだ」
アレンが嬉しそうにドレイクへ声をかけると、ドレイクもアレンへ笑顔で挨拶をする。そして、リディアに気付いて一瞬眉を顰めた。
(?)
ドレイクの表情にリディアは一瞬戸惑う。だが、ドレイクはすぐに表情を崩してリディアへ笑顔を向けた。
「こちらが例の奥様か」
「あ、ああ!俺の最愛の妻、リディアだ」
(最愛の妻って、そんな……!)
恥ずかし気もなくそう言うアレンに驚きつつ、リディアはドレイクへ挨拶をする。
「初めまして。リディア・ベルナールと申します」
「お噂はかねがね。こいつからも色々と手紙で聞いてはいました。ようやくお会いできましたね」
ドレイクは笑顔でそう言うが、その表情はどこか貼りついたような笑顔で違和感があり、リディアの胸はざわつく。
「二人は警備か?」
「ああ、騎士団に要請があったんだ。上流階級の貴族様たちがいらっしゃる劇場だからな」
アレンの質問にドレイクが答え、隣にいたメイリーンも頷く。そして、メイリーンはリディアを見て微笑んだ。
「リディア様、またこうしてお会いできて嬉しいよ」
「メイリーン様、私もです」
二人が仲良く話をしている横で、ドレイクはリディアに対してほんの少し冷ややかな視線を向ける。だが、リディアが気がつくとすぐに先ほどまでと同じ笑顔になった。
(まただわ、ドレイク様からの視線がなんだか怖い。でも、だからと言って警戒したらそれはそれでこの場の空気を悪くしてしまいそうだわ)
なにより、ドレイクはアレンの幼馴染だ。
「ドレイク、どうかしたか?」
リディアが戸惑いつつも平常心を保とうとしていたその時、アレンがリディアの肩をそっと抱き、ドレイクへ尋ねる。アレンもドレイクの様子に異変を感じ取ったのだろう、その表情は、まるで何かを探るようだ。
アレンがリディアの肩を抱いたのを見た瞬間、メイリーンが目を大きく見張る。そして、メイリーンの表情を見たドレイクは一瞬顔を顰めるが、すぐにまた笑顔になった。
「いや?別に何も。そんなことより……奥様が着ているのはアレンの瞳の色のドレスだな」
ドレイクがそう言うと、メイリーンが一瞬顔を引きつらせる。だがそれはあまりに一瞬のこと過ぎて、ドレイク以外は気がつかない。メイリーンの様子に気づないアレンは会話を続けた。
「ああ、俺が頼んで着てもらった」
「アレンが?」
「リディアは俺に気を使って瞳色のドレスを着ようとしなかった。だが、俺はずっと着てほしかったんだ。ようやくこうして願いが叶ったよ」
そう言って、アレンは嬉しそうにリディアを見る。リディアは戸惑いつつもアレンへ小さく微笑むと、そんな二人を見てドレイクは目を細め、口を開く。
「……だが、確か奥様は加護無しなんだろう?こんなことを言うのは失礼かもしれないが、他の貴族からとやかく言われるんじゃないのか?奥様もいくらアレンから頼まれたからと言っても、やはり断るべきでは……」
ドレイクがそう言ってリディアへ視線を向けた瞬間、アレンがそれを遮るようにドレイクとリディアの目の前に割って入った。
「いくらお前でも、俺の最愛の妻に対してそんなことを言うのは許さない」
(……アレン様!)
怒りを隠そうともしないアレンの様子に、リディアもドレイクたちも驚く。メイリーンは傷ついたように視線を逸らし、それに気づいたドレイクが厳しい表情になる。その場の雰囲気がいかにも重苦しくなったのをリディアは感じ、いたたまれなくなった。
(私のせいで、アレン様とドレイク様が険悪なムードになってしまったわ)
この場を何とかしたい。リディアは俯きながら両手を強く握り締め、小さく深呼吸してから顔を上げた。
「アレン様、私は何を言われようと気にしていません、ドレイク様の言うことはむしろ当然です。だから、ドレイク様に対してそんなに怒らないでください。せっかく久々にお会いできたのでしょう?」
そう言って、リディアはドレイクへ視線を移す。
「ドレイク様、おっしゃることは間違っていません。私は加護無し、そんな私がアレン様の瞳のドレスを着ていては他の貴族の方たちに色々と言われてしまうのはわかっていました。だから、今回も着るつもりはなかったんです。でも……」
リディアはそっとアレンを見て、照れたような表情をしてはにかむ。
「アレン様は、自分は何を言われても構わない、もしリディアが何か言われるようなら自分が守って見せると言い切ってくださったんです。私は、その気持ちに応えたかった。ですので、今回こうしてドレスを着ました。でも、やっぱりアレン様と昔から仲の良いドレイク様は快く思わないですよね。アレン様の大切なご友人の気持ちを害してまで、今後もドレスを着ようとは思いません。もう、社交の場でこのドレスを着るのは控えようと思います」




