16決意
どんなことがあってもリディアを守るというアレンの言葉を聞いて、リディアの胸は一気に跳ね上がった。
アレンの海色の瞳は、リディアを真っ直ぐに捉えて離さない。そこには嘘偽りのない決意がしっかりと宿っており、とても勇ましく頼りがいのある瞳だ。
(アレン様が、こんなにも真剣に思いを伝えてくださってる……)
加護無しのリディアがアレンの瞳のドレスを着ることで、リディアだけでなくアレンのことまで悪く言われる可能性があるのだ。
それでも、アレンはそんなことは気にしない、むしろ着て何か言われたなら自分がリディアを守ってみせると言ってくれた。
アレンの瞳の色のドレスを着ることは正直抵抗がある。だが、それでもアレンの気持ちに応えたいという思いの方が勝っていた。
リディアは、小さく深呼吸してアレンの瞳をしっかりと見つめ返す。
「……わかりました。アレン様がそれを望むのなら、ドレスを着たいと思います」
リディアがそう言うと、アレンの瞳が嬉しそうに輝く。
「……!よかった!ありがとう、リディア」
そう言ってアレンは嬉しそうに微笑んだ。アレンに本心を伝えられてから、アレンの表情が前より大きく変化していることにリディアは気づく。
(アレン様の嬉しそうな顔を見て、どうしてこんなに胸が温かくなるのかしら)
トクトク、と心臓が速く鳴っている。リディアは自分の気持ちに戸惑いながら、アレンの微笑みを見つめていた。
*
そして、観劇当日。
(ついにこの日が来てしまったわ)
リディアは身支度を整えて、鏡に映る自分を見つめた。
アレンの瞳の色である深い海色のドレスには、小さな宝石が所々に縫い付けられてキラキラと輝いている。
美しい金色の長い髪の毛はハーフアップにされ、ドレスと同じ色の宝石がついた髪飾りがついていた。
「奥様、とってもお美しいですよ!」
メイド長がうっとりとした顔で嬉しそうに言う。近くにいて仕度を手伝ったメイドたちも頬を赤らめて嬉しそうにリディアを見ている。
アレンの瞳色のドレスは今まで一度しか着ることがなく、いつも社交の場に出る時はなるべく控えに着飾っていたので、こうして華やかに着飾ることができるとわかってメイド長もメイドたちも張り切ったのだろう。とても満足そうだ。
「リディア、準備はできたか?」
ドアがノックされ、アレンの声がした。
「は、はい!」
(アレン様、どう思うかしら……)
アレンの要望でドレスを着たけれど、実際にどういう反応をされるか不安なリディアは部屋に入ってきたアレンを見る。
アレンは、リディアを見て目を大きく見開いた。
(アレン様、驚いてるわ……)
やはり着るべきではなかっただろうかとリディアが思っていると、アレンは片手で口元を覆い、視線を泳がせる。
「アレン様、リディア様に何か言ってください。そういう態度をとっていたら、また勘違いされてしまいますよ」
アレンの近くにいたディールが呆れたように言う。それを聞いて、アレンは慌ててリディアへ視線を戻した。
「リディア……!とっても美しいよ。美しすぎて、直視したら目が潰れてしまうんじゃないかと思った」
(そんな……)
何を御冗談を、と言いたくなるところだが、アレンの顔は真剣そのものだ。まさか本気でそんなことを言われると思わずリディアが戸惑っていると、アレンはリディアを見つめながら頬を少し赤らめて目を輝かせる。
そして、そんなアレンを見てメイド長とメイドたちはとても満足そうだ。
「ああ、俺の瞳の色のドレスを着てるリディアをこうしてまた見ることができるなんて……!」
嬉しそうにそう言ってアレンはリディアの目の前まで来たが、なぜか急に表情が変化した。
「こんな美しい姿を、他の人間も目にするのか?……くそ、そんなの耐えられない。だが、俺の瞳のドレスを着た美しいリディアを他の男たちに見せつけて牽制したいし……」
急に顔を顰め、ブツブツと言っている。その呟きはリディアには聞こえず、一体どうしたのだろうかとリディアが首を傾げると、ディールが先程よりさらに呆れた顔で声を発した。
「アレン様、リディア様が困ってらっしゃいますよ」
ディールの言葉にアレンはハッとすると、リディアを見て眉を下げ微笑む。
「ああ、本当にごめん。リディアがあまりに美しすぎるから、つい」
(そんなこと、さらっと恥ずかしげもなく言うなんて……)
今までのアレンではあり得ないことだ。だが、こちらのアレンが正真正銘本当のアレンなのだろう。
(どう反応していいかわからないわ……。でも、嫌な気持ちじゃないから余計困ってしまう)
アレンの変化にまだ慣れないリディアは胸の前で両手を握りしめ、戸惑いながらも口を開く。
「あの、アレン様。本当にこのドレスを着て問題ないのですか?私がこのドレスを着ているせいで、アレン様まで悪く言われてしまうかもしれません」
目立たないように控えめにしてきた自分が、急にアレンの瞳の色のドレスを着たら当然目立ってしまうだろう。
ずっとあれこれ言われ続けてきたのだ、自分はどう言われようが今さら別に構わない。だが、公爵であるアレンが、自分のせいで何かを言われ、立場を危うくするようなことがあってはならないのだ。
リディアが真剣な顔で尋ねると、アレンはリディアの肩にそっと手を置く。
「問題ない。俺は何を言われようが構わない。言いたいやつは勝手に言っていれば良いさ。そんなことくらいで俺の心や立場が簡単に揺らぐことはないからな」
当然だと言わんばかりの顔でアレンは言う。
「それにこの間も言ったけど、もしリディアのことをとやかくいう奴がいたら、俺が許さない。どんな手を使ってでも黙らせてやる」
アレンの瞳には燃えたぎる炎がメラメラと大きく揺れているかのようで、リディアは驚きのあまり大きく目を見開いた。
今までリディアとほとんど目を合わせることもなく言葉を交わすこともなかったアレンが、今はこうしてリディアに気持ちをはっきりと伝えている。
そして、リディアを悪くいう人間は絶対に許さないと闘志を剥き出しにしているのだ。
「俺は、今までどんなに守りたくてもリディアを守ることができなかった。俺が不甲斐ないばっかりに、リディアに嫌な思いばかりさせてしまった。でも、これからはもうリディアにそんな思いはさせない。だから、何も心配しないで俺を信じてほしい」
そう言って、アレンはリディアの目の前に跪き、リディアの片手をそっと取って口付けた。




