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13/14

13煽り

アレンの言葉に、フィリックは微笑みを浮かべたままなるほど、と頷く。


「奥様にお誘いしていた観劇の件ですね。ベルナール卿がこうして直々にいらっしゃったというのは、それを断るためでもありましたか」


そう言って、フィリックはリディアへ視線を向けるとさらに深く微笑んだ。


「リディア様はベルナール卿にずいぶんと愛されていらっしゃるようですね」

「えっ!?いえ、その……そんなことは……」


リディアが戸惑って返答に困っていると、アレンは一瞬リディアを見て悲しげな表情をする。だがすぐにフィリックへ厳しい視線を向けた。


そのほんの一瞬の変化をフィリックは見逃さなかったが、表情は変わらず微笑みを浮かべたままだ。


「そういうことであれば、残念ですが観劇のお誘いは諦めることにします。……ああ、そうだ」


そう言って、フィリックは机の上に置いていた手帳から何かを取り出し、机の上にそっと置く。


「こちらはお二人に差し上げます。他に誘える相手もおりませんし、お二人で行ってもらったほうがチケットも無駄になりませんから」


机の上に置かれたのは二枚のチケットだ。


「いいのですか……?」


確か贔屓にしてもらっている貴族からの貰い物だと言っていた。それをこんなふうに貰って良いものなのだろうかとリディアは戸惑う。


「ええ、チケットはいただいた時点で自由にして良いと言われていますので、捨てるよりこうして誰かに使っていただくほうが私としてもありがたいのです」


大きく頷くと、フィリックはアレンへ視線を向ける。


「もし予定が合うのでしたら、ぜひ、お二人で行ってください」


アレンは真顔でフィリックと視線を合わせたままだったが、少し経ってから静かに口を開く。


「……そういうことであれば、ありがたく頂戴します」

「良かった!」


真顔のアレンに対し、フィリックは満面の笑みを浮かべている。二人の会話を聞きながら、なんとも対象的な二人だとリディアは思った。


「フィリックさん、ありがとうございます」

「いえいえ、こちらとしても良かったですよ。……それにしても」


リディアがお礼を言うと、フィリックはゆっくりアレンとリディアを交互に見る。その顔は笑っているのになんとなく目の奥が冷たく感じ、リディアは言いようのない緊張感を覚えてしまう。


「ベルナール卿とリディア様の仲の良さは、領内でよく耳にします。領民の前では仲睦まじい御夫婦で、いつも一緒にいらっしゃると」


フィリックの言葉にアレンは表情を崩さず、その視線はむしろ強い圧を感じるほどだ。だがそんなアレンの視線を気にすることなく、フィリックは平然と言葉を続ける。


「ですが、貴族の間ではどうも認識が違うようですね。リディア様は加護無しなのでベルナール卿もリディア様には無関心、夜会で一緒にいてもほとんど会話をしないとか」


アレンの眉がほんの少しだけ動く。


(フィリックさん、急にそんな話をするなんて、一体何が言いたいのかしら……)


リディアは何が始まるのかと不安げだ。


「私がこちらに伺っている時もリディア様はいつもお一人、今日までベルナール卿は全く顔を見せませんでした。途中から従者の方がいらっしゃいましたが……」


そう言ってフィリックはチラリとディールを見ると、ディールは冷ややかな視線をフィリックへ向ける。まるで主に敵対する者は誰であっても容赦しないという表情を隠そうともしない。


「それでも、やはり貴族の間での噂の通り、リディア様はベルナール卿から見向きもされていないのかと少し心配になっていたんです。ですが、こうして実際にお会いしてみると、そんなことはなかったようで安心しました」


リディアへ視線を向けるとにっこりと微笑み、フィリックはそう言った。


(まさかフィリックさんがそんなふうに思っていただなんて知らなかったわ)


「気にしてくださっていただなんて知りませんでした。あの、ありがとうございます」


リディアが戸惑いつつも笑顔で礼を言うと、フィリックは微笑みながら首を横に振る。


「いえいえ。リディア様が幸せなのであれば良かったです。……ただ、私としては少し残念ですね」


(……残念?どういうこと?)


眉を下げて苦笑しながらフィリックが言うと、それを聞いたアレンの眉がまたピクリと動く。その場の雰囲気が一瞬でピリついた気がするが、なぜそうなったのかリディアはいまいちわからない。


ディールも気に食わないと言わんばかりの顔をしてフィリックを見つめていた。


「残念、とはどういう意味でしょうか」


アレンが低い声で尋ねた。落ち着いているように見えはするが、答えによっては今にも飛びかかってしまいそうな雰囲気を醸し出している。


だが、フィリックは微笑みを浮かべたままアレンへ視線を向ける。その視線はまるで挑戦的に見えて、ディールは眉に皺を寄せた。


「もしリディア様が加護無しだというだけでベルナール卿に愛されておらず、このお屋敷でぞんざいな扱いを受けているのなら、公爵夫人など辞めてぜひ私と一緒に来ていただきたいと思っていました」



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