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12対面

ディールは前から歩いてくるリディアに気づいて足を止め、リディアはディールに気づいて慌てて駆け寄った。


「ディール、さっきはごめんなさい。仕事の邪魔だったわよね」


リディアが謝ると、ディールは否定するように首を振る。


「いえいえ。こちらこそお二人の邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「邪魔だなんてそんな……」


戸惑うような表情のリディアを見て、ディールは静かに微笑む。


「リディア様、少しお時間よろしいでしょうか?」


(何かしら?アレン様のこと?)


「ええ。大丈夫よ」



そうして、リディアとディールは応接室にやって来た。二人は向かい合ってソファに座っている。


「リディア様。アレン様のことですが、色々と申し訳ありませんでした。あまりに突然のことで、驚いたのではありませんか?」


ディールに言われ、リディアは困ったように苦笑した。


「私も、あの後アレン様から話を聞いて驚きましたよ。全く、不器用にもほどがあります」  


眉を下げてディールは心底申し訳ないという顔をしている。それから、焦げ茶色の瞳を真っ直ぐにリディアへ向けた。


「リディア様。アレン様は恋愛面に関してはあんなですが、リディア様を思う気持ちは嘘偽りありません。どうか、アレン様の気持ちを少しずつで良いので、受け入れてはくださいませんか」


主を思ってのことなのだろう、ディールはいつになく真剣だ。


(ディールは、アレン様のことを本当に大切に思っているのね)


アレンへのディールの思いを感じて、リディアはなんとなく嬉しくなる。どんな時でもアレンの側にいて苦楽を共にした仲なのだろう。二人の信頼関係が、ほんの少しだけ羨ましく思える。


(……羨ましい?アレン様と仲が良いディールのことが?)


自分の中に湧き上がる不思議な気持ちにリディアは首を傾げつつ、話を進めた。


「……確かに驚いたし、今でもまだちゃんと整理できてないの。でも、嫌な気持ちはしなかったから、そんなに心配しないで」

「そう、ですか……よかった……!」


リディアの言葉を聞いて、心底安堵したようにディールは言う。思わず破顔してしまい、ディールは咳払いをしてすぐにいつもの側近の顔に戻った。


「でも、やっぱりまだ信じられないというか、良くわからないというか……どうしていいのかわからないの」


(まだ混乱しているというのが正しいわよね)


リディアは、膝の上に置いた両手をぎゅっと握って呟いた。そんなリディアを見て、ディールは眉を下げ口を開く。


「突然、今までと正反対の態度を取られたんですから、リディア様が困惑するのは当然です。これから、少しずつアレン様と距離を縮めていただけたらと思います」


(少しずつ……)


どのくらいが少しずつなのかがよくわからない。困惑した表情でディールを見ると、ディールはしっかりとした顔つきで言葉を続ける。


「アレン様にもそう言っておきましたので、無茶をするようなことはもう無いと思います。もしまた暴走するようなことがあったら私に言ってください。きつく叱っておきますので」


胸を拳で叩き、ディールは言う。その頼もしい言葉に、リディアはなんとなく緊張した心が解れたような気がして微笑んだ。





(少しずつとは言ったけど、本当に少しずつな距離感のままこの日が来てしまったわ)


リディアは戸惑った笑みを浮かべ、目の前の人物を見る。そこには、商人であるフィリックが座っていた。


リディアの隣には、無表情でフィリックを見つめるアレンがいる。


この日、フィリックがリディアから制作済のアクセサリーを受け取りに来ていた。


アレンが勘違いして暴走した日以来、ディールの言う通り少しずつ距離を縮めるかのようにアレンはリディアへ接した。


今まで屋敷の中でほとんど会うことはなく食事も別々だったが、今では食事を一緒に取ったり食後のお茶を共にしている。


まだアレンも距離感を掴みあぐねているのだろう。ほんの少しの会話しかしないが、全く顔を合わせず、たまに屋敷内で出会ってもすぐに顔を逸らしてしまっていた頃に比べればずいぶんと進歩している。


(でも、だからといって夫婦としてフィリックさんと対面するのはなんだか不思議な感じがする)


ちらりと隣のアレンを見ると、無表情だが不機嫌さを隠しきれないでいる。そんなアレンを目の前にしても、フィリックはいつものように屈託のない笑顔でいた。


「こうして直接ベルナール卿にお会いできて光栄です。奥様にはアクセサリー作りで大変お世話になっております」


そう言ってフィリックが笑顔で挨拶すると、アレンは目を細めフィリックを品定めするかのように見る。


「こちらこそ、妻がずいぶんとお世話になっているようで。あなたのおかげでアクセサリーの売れ行きは順調だとお聞きしました」

「いえいえ。私はほんの少しお手伝いをしただけです。奥様のアクセサリーが素晴らしからこそですよ」


フィリックはそう言ってリディアへ視線を向けて微笑む。その様子に、アレンは表情を曇らせた。


「あ、ありがとうございます。これが今回の納品分です。ご確認ください」

「……はい、確かに。今回も素晴らしい出来上がりですね。お預かりします」

「よろしくお願いします。……それであの、フィリックさん。前にお話のあった観劇の件なのですが……」


リディアの言葉に、フィリックが口角を上げたまま首を傾げる。すると、アレンがリディアをかばうように身を乗り出し口を開いた。


「悪いが、観劇の誘いはお断りする。他を当たってくれ」



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