11味方
リディアの気持ちを聞いていないと知ったディールは、心底呆れたような顔でアレンを見つめた。当のアレンは、慌てたように何度も瞬きを繰り替えしながらすぐに首を振る。
「いや、確かに俺の気持ちを伝えることに夢中で、彼女の気持ちを聞いていない……でも、俺の気持ちを拒否することなく受け入れてくれたんだ。きっと彼女も同じ気持ちで……!」
「まあ拒否はしてないようですけど、でもアレン様が一方的にぐいぐい伝えていただけでしょう?本心ではどう思ってるかわからないですよ。流されちゃっただけかもしれませんし」
厳しい。主に対してあまりにも厳しい。ディールの言葉に、アレンの顔はどんどん青ざめる。
「とにかく、ちゃんとリディア様の気持ちもお聞きするべきですね。そうでないと次にも進めませんよ。ましてや、あの商人に対してとやかく言う資格はないですね」
バッサリと切り捨てるディールに、アレンは拳をわなわなと震わせてディールを見た。
「お前は本当に俺の味方なのか?」
「ええ、心の底から応援してますよ。近くで見ていていい加減にしろよっていつも思っていますし、そうお伝えしてますよね?」
腕を組み、しれっとした顔でディールは言う。ディールはアレンが幼少期の頃からずっと仕えているだけあって言いたいことはズバズバと言うし、それをアレンも嫌がったり失礼だとは思わずに受け入れる。それだけ、二人の信頼関係は出来上がっているのだ。
「領主としては優秀なのに、こと人間関係に関してはほんっとうにダメダメですよね。この国の女性そのものに嫌悪感を抱いてらっしゃるので女性に対しての接し方がわからないのは仕方ないとは思いますけど、それにしても根本的な所からしてダメです」
はあ、とため息をついてディールはアレンを見た。アレンは背中を丸めて項垂れている。
「ご自分の気持ちを伝えることができたのはよく頑張ったと思います。それはほめて差し上げますよ。でも、それだけじゃダメだとご自分でもわかっていますよね?リディア様の気持ちをないがしろにするのはダメです。心の底から好きなんでしょう?だったら、相手の気持ちも尊重するべきですよ」
「……ああ、わかってる」
アレンは膝の上の拳をより一層強く握り締めた。それを見て、ディールは話を続ける。
「まずは、リディア様と一緒の時間を過ごすことからです。今までずっと避けられてきたのに、急に好きだと言われても混乱するに決まってます。少しずつ距離を縮めて、お互いのことを知っていく必要があります。キスして抱きしめることができたんですから、もう面と向かって話をすることは可能ですよね?」
ディールがそう聞くと、アレンは小さく頷いた。
「しょげてる場合じゃないですよ。あの商人が次に屋敷へ訪れるのは一週間後です。それまでにリディア様と距離を縮め、リディア様の気持ちをきちんと聞いてください。いいですね?」
「……はい」
アレンがか細い声で返事をすると、ディールは小さく微笑んでから両手をパンッ!と合わせる。
「それではこの話はここまで。これからは領主アレン様へお仕事のお話です」
ディールがそう言うと、アレンは真剣な表情で顔を上げ頷く。その顔は、恋心に翻弄される一人の男ではなく、頼りがいのある領主としての顔だった。
仕事の話を終え、ディールは執務室から出ると廊下を歩きながら小さく息を吐いた。
(ようやく気持ちを伝えることができたのは良かったが、まさかリディア様の気持ちを聞いていないとは思わなかったな。ほんっとうに不器用すぎるだろう)
アレンがリディアを気に入った当初から、さんざん相談を受けて来た。結婚してからも、同じ屋敷内にいて同じ空気を吸っているだけで夢み心地だと言うアレンを叱咤激励し続けてきたが、アレンはどう考えてもリディアに悪い方へ勘違いさせてしまう態度を取っていた。
(メイリーン様のことを勘違いするだろうとは思っていたが、まさか離婚話を切り出されるほどだとは思わなかった。……けど、一年近くも手を出されなかったんだから当たり前か。好かれているだなんて絶対に思えなかっただろうな)
ハーッと大きくため息をつき、ディールは窓の外を見上げる。空は青く澄んでいて雲がゆっくりと流れていた。
リディアが商人と出会いアクセサリー作りを始めたことによって、アレンは少しずつ焦り始めていた。商人が、人懐っこく優秀な若い年頃の男だったというのは大きいだろう。
(あの商人がリディア様に好意を持っているかどうかは正直言ってわからない。あれは胸の内を明かさないのが上手いタイプの人間だろうな。だが、全く興味がないという風にも見えない)
異性としてではなく一人の人間としてリディアに興味があり、ビジネスパートナーとして接しているように見える。だが、それでも何かしら違和感を覚えるのも事実だ。
(警戒するに越したことはないな)
窓から視線を前に戻し歩き出そうとしたディールの視線の先に、さっきまで話題の渦中にいた張本人がいた。
「……ディール!」
「リディア様」




