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10/14

10動揺

アレンの唇がリディアの唇に重なる。先程までの性急で強引なキスとは違い、今度は優しくゆっくりとしたキスだった。


唇が触れ合うだけかと思えば、唇を優しく食み、少し離すとまた食む。その繰り返しだ。


唇の感触を味わうかのようにアレンは何度もリディアの唇にキスを落とした。リディアを思い、唇からこれでもかというくらいに愛おしいという気持ちが伝わってくる。


(さっきと、全然違う……)


たまに唇を離すとリディアの顔を見てアレンは微笑んだ。その微笑みには、溢れんばかりの愛が込められているかのようで、リディアの心臓はキュンとする。


リディアを見る瞳は熱く、まるで溶けてしまいそうなほどだ。


どのくらいそうしていただろうか。ようやくアレンは満足したのか、リディアから唇を離した。


「俺の気持ち、伝わったかな」


そう言って、アレンは嬉しそうにリディアの頬をゆっくりと撫でる。


「は、はい……」


あれだけ優しく熱烈にキスされれば、伝わらない方が無理だろう。リディアは顔を真っ赤にしながら小さく頷く。


「ああ、よかった……!」


アレンはリディアの体を抱き寄せ、腕の中に閉じ込める。ぎゅっと抱きしめる力は強く、まるでリディアを何があっても離さないという強い意思さえ感じるほどだ。


「アレン様、失礼します」


コンコン、と突然ノック音がなり、ディールの声がした。


(えっ、ディール!?)


リディアが慌ててアレンから体を離そうとするが、アレンはリディアを抱きしめる力を弱めず、むしろ余計強くなる。


「ああ」


アレンが返事をすると、ディールが部屋の中へ入ってきた。そして、目の前の光景を見て目を大きく見開く。


「……!」


ディールは両手で口元を覆い、はわわ!と効果音がつきそうな顔をして二人を見ていた。


「し、失礼しました!」

「ま、待ってください!!」


ディールが慌てて部屋から出ようとした時、リディアがアレンの腕の中から大声を出した。


「アレン様!苦しいので離してください!」


リディアがそう言うと、アレンは渋々腕の力を弱めたので、リディアは急いでアレンから離れ、深く深呼吸をする。それから、こほん、と咳払いをひとつして、ディールへ視線を向けた。


「ディール、お仕事のお話なのでしょう?私は出ていきますから、どうぞ!」


そう言って、リディアは勢いよく立ち上がり、歩きだそうとした。だが、そんなリディアの手首を、アレンは掴む。


「……アレン様?」

「行ってしまうのか?」


驚いて振り向くと、アレンはまるで叱られた子犬のような、クーンと鳴き声が聞こえてきそうな顔をしてリディアを見上げている。


(なっ!?そんな表情するなんて……!)


ズルい、と思いながらも、リディアはキッ!とアレンを見つめた。


「アレン様、お仕事はちゃんとしてください」


リディアがそう言うと、アレンは悲しげに俯き、手を離す。


「……わかった」 


(ああよかった!これでやっと解放される!)


リディアは急いでドアまで歩き、ディールににっこりと微笑むと部屋を出た。





(何あれ何あれ何あれ!?)


自室に戻ったリディアは、ベッドへうつ伏せにダイブして手足をバタバタさせて悶えた。


アレンが好きなのはメイリーンではなく自分だった。お互いに誤解していて、その誤解が解けたのは良かったと思う。


(でも、あんな、あんな急に豹変するだなんて!)


誤解が解ける前までは、屋敷でほとんど顔を合わせず、たまに会っても目も合わせず会話もほとんどしない、まるで自分には全く興味がないという態度をしていた。


それなのに、離婚を切り出した途端、急に強引にキスしてきたかと思えばボロボロ涙を流して離婚は絶対にしないと言い張り、誤解が解けた途端に熱烈に口説いてきてとびきり優しいキスをしてきた。


(あれは本当に同じ人なの!?本当にアレン様!?)


あんなに一途に思われていただなんて知らなかった。結婚もアレンが心から望んでいたことだったし、フィリックに対しては恐ろしいほどの嫉妬心と対抗心を燃やしていた。


リディアはくるんと仰向けになると、近くにあった枕を抱え、顔を埋める。


強引にキスしてきた時のアレンの様子に驚いたし、あんな一方的なのは絶対に良くないと思う。

だが、絶対に離さない、誰にも渡さないと言わんばかりのキスに頭も心も体もドロドロに蕩けてしまったし、誤解が解けたあとの思いのこもった優しい熱烈なキスにも胸がときめいて仕方がない。


(どっちも、アレン様の気持ちなのよね……?)


リディアの心臓はトクトクと早く鳴り、全身の血が勢いよく流れているのがわかる。


(やっぱり、嬉しい)


アレンのことをどう思っているかと聞かれたら、正直良くわからない。1年近くも興味がないという態度を取られて来たのだ。そんな相手に対して感情が伴うかと言われたら疑問だ。

だが、領地内を回っている時に見せた優しさはたとえ演技だとしてもドキドキしてしまったし、それが演技ではなく本心だと知った今は純粋に嬉しいと思える。


(私は、アレン様のこと好きなのかしら……?アレン様の気持ちに応えることができるの?)


わからない。あまりに急すぎて何がなんだかわからない。リディアは枕に顔を埋めたまま、ゔーっと呻き声をあげた。





「アレン様!どういうことですか!ついに、ちゃんと思いを伝えることができたんですね!?」 


リディアが部屋を出ていってから、ディールはすぐにアレンの側まで行き、興奮した様子で言った。


「あ、ああ、まあ……」

「なんですか!詳しく教えてくださいよ!俺がどれだけあなたの相談を受けて助言してきたと思ってるんですか!」


アレンがなんとも言えない表情で視線を泳がせると、ディールはアレンにこれでもかと詰め寄る。


アレンは仕方なく先程まで起こっていたことをたどたどしく説明する。

すると、嬉しそうに目を輝かせていたディールの表情から次第に笑顔が消え、最後は何してんだこの人は?という呆れた顔をしてアレンを見つめていた。


「あなた本当に不器用すぎませんか?暴走しすぎでしょう。まあ結果オーライですけど、よくそれでリディア様に思いを受け入れてもらえましたね?それで、リディア様の気持ちは?ちゃんと聞きました?」


ディールに言われ、アレンはハッとして、ディールを見る。その顔を見て、ディールはさらに呆れたような顔をした。


「……嘘でしょう、聞いてないんですか?」



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