【89】報告2
「シャルテ! ごめんね! 大丈夫?!」
「っ!」
転んだシャルテが、名前を呼ばれて驚きながら私を見上げると、誰か分かったとたんに顔が嫌そうなものになった。おっと、まだ嫌われてるかも……。
「考え事してて、本当にごめんね。立てる?」
いつまでも立ち上がらないシャルテに、手を伸ばす。シャルテは私の顔と手を何度か往復して、少し考えてから私の手を借りずに立ち上がった。行き場の無い私の手……。
「痛いっ」
「え? どこか痛めた?!」
「だ、大丈夫よ」
立ち上がった時にシャルテが泣きそうな顔になった。見ると左足を庇うように立っている。
「足?! 捻っちゃった?! 歩ける?!」
「大丈夫よ! 騒がないで!」
「ごめん……」
転んだことで行き交う人がこちらをチラチラと見ている。それに加えて私が慌てたもんだから、立ち止まる人も出てきてしまった。
シャルテは足を少し庇いながら、転んだ時に落とした籠を急いで拾っていた。そして拾い終るとひょこひょこしながら歩き出す。
「ま、まって、そんな足じゃ!」
「うるさいわね、大丈夫って言ってるでしょ」
「でも……」
私の話を全然聞かないシャルテは、痛みを堪えながら一生懸命歩いていく。どうしたら良いか分からずに隣を歩いていると、シャルテがピタッと立ち止まった。
「何で着いてくるのよ」
「え、心配だし。それに帰り道一緒だし……」
「……」
何か言いたげだったのを飲み込んだ表情をした後、シャルテは再びひょこひょこ歩き出した。慌てて後ろを着いていく。歩き方が本当に痛そうだ。
「ねぇ……」
「……」
「ねぇってば……」
「……」
さっき怒られたばかりなので、小声でシャルテに話しかけるが、全然反応してくれない。私見えてるよね? 聞こえてるよね? 出来れば手を貸したいんだけど、絶対に掴まってはくれそうにも無い。どうしたもんかと考えながら歩いていると、カシャンと鞄に中身が音を立てた。
そうだ! 私いいもん持ってるじゃん!! いそいそと鞄の中からポーションの瓶を取り出し、先を歩くシャルテの横にピタッと張り付いて小瓶をシャルテの持っていた籠に入れた。
「本当にごめんね、それ初級のポーションだから使ってね」
「っ! い、いらないわよ! こんな高価なもの貰えるわけ無いじゃない!」
「高価じゃないよ、大丈夫。私が練習で作ったやつだから! でも大丈夫、フレデリクさんから合格貰ってるから。その足じゃお仕事大変でしょ? 早めに飲んだ方が良いよ! じゃね!」
「ちょっ! ちょっと! 待ちなさいよ!!」
「じゃーねー! お大事にー!」
逃げた。私は追ってこれないシャルテをいいことに、ポーションを押しつけてその場から逃げるようにお店に戻った。シャルテがポーションを使ってくれたかどうかは判らないけど、怪我が治るように誤解も治れば良いなと少しだけ思ってしまうのだった。
あ、シャルテと普通にため口で話してしまった。ティナやエマとはもう普通に話してるもんだから、うっかりしてた。まぁいいか。誤解も解ければ普通に話せるだろうし。うん。良いことにしよう!
夕食の時に、アンリエッタさんとリビオさんに、初の依頼はどうだった? と感想を求められ、返答に困ってしまった。「たくさん採れて楽しかったですよ」と言えば、ギルドからリビオさんに魔物が出た事がバレた時に心配をかけるし。「魔物が出て大変でした」と言えば、今後の依頼を止めた方がいいと言われてしまうかもしれない。どうしようかと思っていたら、ちょっと遅れて帰ってきたリュカに
「街から出てすぐの森の南西で、ウルフが出たと報告を受けて今日は調査で大変だったよ」
と、いきなりバラされた。いや、私の関与は聞いてなかったみたいだから、正確にはバラされた訳ではないんだけど……。
リュカの言葉に、バッと夫婦で私を見てきた。視線が痛くてそーっとそらすと、アンリエットさんが心配そうな声で「アリス……」と言葉を待っていた。
「だ、大丈夫ですよ? 怪我してませんし、ちゃんと逃げてきましたから」
「何々? そういえば、アリス今日依頼受けるって言ってたけど、どうだった?」
「えーっと……」
どうやって説明したものか、グルグルと頭を悩ませても、正直に話す以外どうしようもなさそうだった。私の隣に座ったリュカが夕飯を食べ始めてから、今日の事を話すことにした。
両親は心配顔、リュカは楽しそうに聞いてくる。そんな状況を、弟妹たちは気にする様子も無く美味しそうにご飯を食べていた。
「今日薬草採取の依頼で森に行きました。入り口付近で採取していたんですけど、もう少しと思って奥に行ったら群生地があって、そこで採取してました」
「へぇ、群生地なんてあったんだ、よかったね、たくさん採れた?」
「う、うん。たくさんは採れたよ」
パンに手を伸ばして、盛られたスープに浸しながらリュカが聞いてくる。パクッと一口口に入れれば「美味しいー」と顔を綻ばせていた。
「あ、その時にジャン君って冒険者の男の子に会ってね、一緒に採取することになってね」
「ジャンも一緒だったのか?」
リビオさんはジャン君を知っているようだった。
「はい、リビオさんお知り合いですか?」
「あぁ、ジャンなら小さい頃から知っているよ。冒険者になる時に色々と助言もした」
「そうだったんですね」
ジャンくんが孤児で孤児院で生活しているのも知っていた。中々ランクが上がらない事を悩んでいたと話すと、リビオさんは少し困った顔をして「今度リビオと話してみる」と言ってくれた。
孤児院での生活は、最低限の生活の保障は国がしてくれるけど、それ以外は自分たちで賄っているそうだ。孤児院の一角に畑はあるし、手仕事もやっているらしい。ジャンくんの弟は病弱らしく薬のためにジャン君が冒険者としてお金を稼いでいるんだって。
危険な依頼はなるべくとらず、採取やお手伝いをメインにしているらしいので中々ランクが上がらないらしい。自分が死ねば弟も薬が手に入らなくなり死んでしまうかもしれない。そんな状況で討伐系の依頼は受けづらいとか。戦う為の手段をあまり持たないジャン君は、冒険者としては微妙なところで。危険を冒せば心配が増え、危険を回避すればランクが上がらない。ランクが上がらなければ、依頼を受ける報酬も上がらない。抜け出す方法が見つからないジャン君がイライラするのも頷けた。
「そうだ、調査しに行った時には他のウルフの気配も無くて、もう少し奥に行ったけど何も変化は見られなかったけど、アリス大丈夫だった? まぁ、ウルフなんてDランクでも手こずる相手だし、初心者のアリスじゃやられちゃうか。帰ってきたって事は平気だったんだろうけど、これからも採取行くならちょっと気を付けた方がいいよ」
どうやって気を付けるのよ……。
「アリスなら逃げ切れるでしょ。気配はリゲルに頼むとか、最悪を考えて話し合っとくといいよ」
私の近くにある食事を取るのを利用して、少し体を寄せ小声で助言してくる。そっか、リゲルにお願いしてもよかったんだ。遭遇するとは思ってなかったから、全然思いつかなかった。
リュカが逃げ切れるでしょ。と言ったのは、砦からの帰りの事を見て言っている。いきなり現れた魔物に驚いて爆走したのだ。一緒に帰ってきた部隊のみんなは知っているけど、恥ずかしいからそこは内緒でお願いした。
サブタイトルが思い付きませんでした。まんま報告の続きです。シャルテが久々に登場でした。どうしよっかなぁと思ってたら、リュカたちに説明の半分も進みませんでした(汗)
プライベート忙しくて、内容薄くなってしまい申し訳ないです(泣)
ではまた来週~( ≧∀≦)ノ




