【86】ウルフとの抗戦
「「「「ギャウッ!」」」」
『アリス!そのまま後ろ向いて走って!』
目をつぶっていても分かるくらいの光に、ウルフはもちろん出した私自身が驚いたけど、すぐにリゲルの声で私は正気に戻れた。言われるがまま、くるりと体を反転させ足に力を入れて走り出す。地面を蹴った瞬間に、グワッと重みがきたけどすぐに体勢を整えた。背中に乗っていたジャンくんもぎゅっと腕に力を込めてしがみついてくる。よし、これなら行けそう!
「グァウッ!」
走り出した瞬間に一匹のウルフが反応をした。が、とにかく私は走るだけ。全力で逃げきるだけだ。
『アリス! 目の前の木を右! そのまま真っ直ぐ!』
森の中は走りにくい。でも、リゲルのナビゲートで迷わず走れた。さすが強化。前はジリジリと追い付かれたけど、今回はまだ追い付かれていなかった。
「グァァァウッ!」
後ろからウルフの声が聞こえた。後ろのジャンくんがぎゅっと腕に力をいれる。私も気合いを入れて走る速度を上げていった。
『そのまま茂みに突っ込んで! そしたら最初に入ってきた入り口だから!』
『わかった!』
あっという間に入り口まできたけど、ふとそこで気がかりがわいてくる。このまま戻ったら、街に迷惑かかるんじゃ……。
門にいたおじさんの顔が頭に浮かんだ。どうしようかと悩みながら茂みにバサッと突っ込む。強化してるから、衝撃は少しあるもののも痛みはない。怪我もない。
『あ! アリス! 左右から一匹づつ来るよ!』
『え?! ちょっとそんな急に!』
入り口まであと少しのところで、別のウルフがいたらしい。急に言われても止まれないし、挟み撃ちにされたと気づいても交わすことも出来ないスピードだった。
「飛ぶよ!」
「ひぇい?!」
とっさにジャンくんをおぶる腕に力を込めて体を固定して、足に力を込めて思いっきり飛び上がった。
ーードォーンッ!
人が出した音とは思えない音がしたと思ったら、ジャンプした時の音だった。やりすぎたと驚いた時にはもう遅く、私は森の木をゆうに越えた高さを飛んでいた。そして、急にジャンくんが重くなる。気を失ったっぽかった。ほんとにごめん……。
「「「ギャウンッ!」」」
下を見ると、いきなり私たちがいなくなって、ウルフたちも失速できずにが三匹重なりあってぶつかっていた。
森の入り口から門までは、少しの距離草原が広がっていたんだけど、その草原に人が3人見えた。急いで森に向かっているように見えたその人たちは、突然出てきた私たちを見上げていた。
「すみませんっ! 逃げてください!」
「き、君は?!」
「ウルフと遭遇して逃げてます!」
「えっ?!」
「ごめんなさい! 戦えなくてっ! 出来れば助けてもらえませんか?! 7匹います!」
よく見ると、あきらかに冒険者だった。2人男性の1人女性。1人の男性は真っ赤な髪に上半身革鎧を着て腰に険を下げていて、もう1人の男性は茶髪で大きかった。背中に背負っている盾も大きかった。そしてもう1人の女性は、水色の長い髪をサラッと流し、遠目から見ても十分に判るほどナイスバディなお姉さんだった。
基本冒険者同士の魔物への介入はトラブルの元なので禁止されていたが、助けを求め、求められれば、介入も可能になるってミラさんが言っていた。このまま街までウルフを引っ張っていく訳にもいかず、とっさに助けを求めてしまった。
そして上昇が終わり、今度は降下だ。内蔵がふわりと浮く感覚がして落ちてる事を自覚する。結構高くまで飛んでしまったから、このまま落ちれば強化しているとは言え、怪我しそうだった。
ひゃー! えっと、えっと、着地をふんわり和らげるにはっ!
『アリス、風風! 下から風で持ち上げて!』
『そ、そうだね! 風ね!』
リゲルの助言で風を下から吹き上げさせて、体を押し上げながら、少しづつ調節してなんとか地面に着地した。最後はちょっとドサッと前につんのめったけど。すぐにさっき話していた赤髪の人が駆け寄ってきてくれた。
「大丈夫かい?!」
「は、はい、すみません、説明してる暇なくてっ、すぐに来ます!」
「ウルフは任せて、君、たち?! は、下がってなさい」
私の後ろでしがみついているジャンくんを見て少し驚いた男性は、私たちをすぐそばにいた女性と男性に預けて森に体を向けた。
「ほら、こっちきなさい。大丈夫? 怪我はない?」
ジャンくんはまだ気を失ったまま、ぐったりしていた。見たところ怪我はしてないけど、衝撃が強かったかな……。
「大丈夫です。たぶん、怪我はありません。気を失ってるだけみたいで……。あの、本当にすみませんっ」
「きにしなくていい。違っていたらすまん、見たところFか?」
「はい、二人ともFランクです。私は今日初めて森に入ったもので……」
「ひゃー、初めででウルフの群れと会っちゃったの! 災難だったわね。それに、ここら辺じゃウルフ出るの滅多にないのに」
「そうなんですか? って、あの、あの方一人で大丈夫なんですか?!」
あわててウルフに向かっていった男性の方を振り返ると、すでに戦闘は終わっていて、剣についた血を払っているところだった。
「うわぁ、凄い……」
「まぁ、ヤニックにすればウルフ7体くらいどってこと無いわよ」
「お強いんですね」
「あれでもBランクだからね。それより、その子背負うの代わるわよ?」
「え、でも。助けていただいただけでも申し訳ないのに……」
ぐっとおぶり直そうかと体を揺らしたはずが、いきなりスッと軽くなった。
「無理しなくていい。こういう時は頼っていい」
見るとジャン君が大きな男性に荷物持ちされていた。
「ヤニックー? 終わったんなら一旦戻るわよー」
「わかった。全部収納したら行く」
サクサクと事後処理を終え、あっという間に7体ものウルフを消したヤニックさん。でた! マジックバック!! ほぇーっと見ていると、女性の方が話しかけてきた。
「それにしても、さっきは凄かったわね」
「へ?」
「飛んでいた」
「おー、俺もそれには驚いたよ」
戻ってきたヤニックさんが話しに加わってくる。そうだ、飛んだのバッチリ見られてるんだった……。
「挟み撃ちされて、とっさに飛び上がったもので……調整が利かなくて……」
「調整って、強化してたのよね? でもそんなに飛ばないわよ普通」
「か、風の魔法も一緒に使っててっ」
「下からさらに持ち上げたのか」
「そ、そんな感じです……」
飛んだときに風魔法なんて一切使ってなかったけど、ジャンプ力が普通じゃ無いっていうなら、誤魔化すしか無い。そういうことにしておこう。
「しかし、どこからこんなウルフを連れてきたんだい?」
「あ、あの。巻き込んでしまって本当にすみませんでした」
「いや、別に怒っている訳じゃ無いよ? ここら辺でウルフは滅多に出ないんだ。調査の対象にもなるかもしれないから、聞いておきたくてね」
「ここを入って、少し先を左に行った先にある薬草の群生地です」
さっきまでいた方角を指さしながらそう答えると、ヤニックさんが驚いていた。
「群生地って、そこそこ行くよね? 光があってからすぐに出てきた感じだったけど、早くないか? てっきり入り口付近で遭遇したのかと思ってたよ」
「え? そうですか? かなり急いで走ったんで、よくわからなくて……」
なにせ、全力疾走したのだ。歩いていた行きは確かにそこそこ遠かった。でも、追われて戻ってきたから、かなり早かったに違いない。どうしたらうまく説明出来るか、私は頭の中でグルグルと考えを巡らせるのだった。
初めて自分の力で逃げ切った?アリスです。全力疾走ですが、森の中。きっとまだ早いんだろうなぁと思う作者なのでした(笑)
冒険者パーティーも出てきて、ジャンくんもいて、どんどんアリスの世界が広がっていきます。
連載当初はこんなに長くするつもりも無かったのですが、書いてると長くなるのが癖になってしまったみたいです(汗)
そんなこんなで、今年最後の更新を目指して、あと数日頑張ります!
ではまたぁ~(≧∀≦)ノ




