【85】遭遇
「うぉー! すげー!」
「本当だ! 凄いねぇ!」
足を踏み入れた一画は、見渡す限り一面のハート。サクス草がたくさん生い茂っていた。
「凄いねって、知ってたんじゃねーのかよ?」
「う、うん! 知ってたよ?! 凄いよねって!」
目の前の光景を見て、うっかり漏らした感想に引っ掛かって、ジャンくんが不思議そうに聞いてきた。やばいやばい、知ってて連れてきたんだった。
「ほ、ほら! たくさんあるから、取り放題だよ!」
「取り放題って……。アリス……さんって、おもしれーな」
「アリスさん?! やだ、普通に呼んでいいよ! さんとか要らないからっ」
さっきまで『お前』だったのに、いきなり『アリスさん』とか呼ばれるとちょっとムズムズする。それに、なんとなくジャンくんにそう呼ばれるのも落ち着かない。
「ほ、ほら! 私冒険者一日目なの! ジャンくんの方が先輩だし!」
「一日目?! 初日かよ、じゃあ何でこんな場所知ってんだよ……」
「そ、それは! し、知りいに聞いたの!」
「知り合いねぇ……」
ジト目で見てくるジャンくん。へへっと笑って誤魔化すしかない。知り合い=リゲルだけど、間違ってはいないし。
「ま、いっか! こんだけある場所教えて貰ったんだ、深くは聞かねーよ」
なんかよく分かんないけど、嘘ついたってことはバレたみたいだった。「おぉ! サクス草だけじゃなくてダドネ草もある!」なんて、しゃがみ込んでるジャンくんが嬉しそうに言っていた。ダドネ草? たしか依頼の方にあったよね。毒消しだっけ。
「ジャンくん、ダドネ草ってどんなの?」
「そんなこともっ……、知らねーよな。初日だしな」
「ははっ、すみません……」
ポリポリと頭を掻きながらあやまっとく。するとジャンくんはダドネ草を器用に根っこから掘り起こして見せてくれた。サクス草よりも濃い色、緑と言うよりは紫に近い色合いの丸い葉が、分かれた茎の先に連なって付いていた。
「これがダドネ草。根の部分に薬効があるから、採取する時は根っこからな。葉の部分にも多少は効果があるって話だけど、依頼で来るのはまるごと採取が基本だよ」
「へぇ、根っこが薬になるんだ。じゃあ、全部採ったらダメなやつだね」
「あぁ、成長は早いけど必ず数株残すんだ。なんの採取依頼でも、全部採るってことはあまりしない方がいいってシスターが言ってた」
「シスター?」
サクス草の中にあるダドネ草を器用に見つけて、ジャンくんはサクサク採取していく。
「シスターつったら、孤児院のシスターだよ。アリスそんなことも知らねーの?」
「し、知りませんでした……」
孤児。そういえばクロードさんが、戦争や魔物の被害で親を亡くす子がいるって言ってたのを思い出した。
日本でも孤児院、児童養護施設はあった。でも親を亡くす理由が違いすぎる。こっちでも病気や失踪ももちろんあるんだろうけど、つい昨日まで普通に話していた家族が、出掛けていった先で死ぬのだ。なんの覚悟も出来ない。
「そんな顔すんなよ、オレ別に可哀想とかじゃねーからな」
「ごめん……」
自分がどんな顔してたかなんて分かんなかったけど、きっとジャンくんからしたらいい顔では無かったのだろう。
「一人じゃねーし! 守んなきゃなんねー弟もいるんだ。帰ればチビたちもいるし、悲しんでる暇なんてねーんだよ」
本人がそういうのなら、これ以上変な気遣いは失礼だと思い、よしっと一呼吸入れてジャンくんに向き直った。
「そうなんだね、弟くんいるんだ。帰ったらチビちゃんたちもいて、ジャンくんお兄ちゃんなんだね! じゃあ頑張って依頼こなしちゃおうね!」
「おぅ!」
ニカッと笑ったジャンくんは、とても11才とは思えないほどの頼もしさがあった。
それから二人で薬草採取に励んだ。私は、依頼分のダドネ草20株、サクス草50株を篭に丁寧に置いていく。
「ジャンくんどう? 終わりそう?」
「しっ!」
「っ?!」
後ろの方で薬草を採っていたジャンくんに話しかけると、険しい顔をしたジャンくんが私を手で静止させた。
あまり音を立てずに私の方に近づいてくるジャンくん。私は口を手で覆って声を出さない様にする。心臓がバクバクして苦しかった。
「ウルフが何匹かいる……」
「か、囲まれてるの?」
「そこまでは分かんない。でも気配はする」
「ど、どうしよう……」
小声で話してる最中も、ジャンくんは周りへの警戒を忘れていなかった。
ぎゅっと握っていた短剣を思い出してゾッとした。私はこれで戦えない……。どうしよう……。
『アリス、えっとね、アリスが見てる方に1匹でね、右と左に2匹づついるよ』
いきなりリゲルに話しかけられて体がビクッと軽く跳び跳ねた。
「アリス、大丈夫だよ。オレがついてる」
ぎゅっと手を握られ励ましてくれるジャンくん。でもその手は確かに震えていた。
だ、ダメだよね。こんな年下の子に心配かけちゃ……。
私もぎゅっとジャンくんの手を握り返して、ぎこちないけど笑顔を向けた。
「アリス?」
ふー、ふー、ふー、よしっ! 女は度胸! 覚悟を決めなきゃ!!
『リゲル、来た道は後ろだよね?』
『そうだよ』
『ジャンくんおぶって全力で逃げるから、道案内よろしくね!』
『うん! 街の方向は分かってるから、任せといて!』
私は逃げる覚悟を決めたのだ! ゲームでは他の人に強化をかけたりできたはず。今手を繋いでるから、感覚的にやれるはず! ぶっつけ本番だけど、やるしかない!
私は自分にかけていた身体強化を、繋いだ手からジャンくんも包み込むように魔力で覆った。そして、重ねがけして足にも強化を施す。
「アリス? なにこれ? 何かあったかいよ?」
「ジャンくん、よく聞いてね。私の背中に乗って」
「はぁ?! せ、背中に?!」
驚きながらも声を上げないジャンくん。えらい。
「全力で逃げるから。大丈夫、強化は出来てるし」
「強化って……」
「それに私、走るの早いのよ?」
「で、でも、オレなんか背負って逃げたら、追い付かれるんじゃ」
「全然大丈夫! 強化なめんなよ!」
ちょっと声が大きくなってしまい、前方でガサッと音がした。
『アリス、来るよ』
リゲルの言葉に私は迷ってるジャンくんの手をグッと引っ張り無理やり背中におぶる。
「お、おいっ!」
「黙ってて! 口開けてると舌かむよ! 後目もつぶってしっかり掴まって!」
「っ!!」
ガサガサと音と共に、少しだけウルフの姿が見えた。その姿に、ここに来たときの事が頭をよぎった。ブルッと震える体。でも、大丈夫。
あの時と違って、私にはリゲルがいる。魔法だって覚えた。今度こそ逃げきってみせる!
ジリジリと正面のウルフが近付いてくる。左右からも草の擦れる音がした。
今!!
私は目をぎゅっとつぶって片手を上にあげ、目が眩むような強い光を思い浮かべ「光れ!」と強く願った。
84話で書くの忘れていたジャンくんの身長を足しました。だいたいアリスと同じくらいです。
クリスマスも終わり、もう年末ですね。
来週は頑張って2話投稿できれば!
今年、後もう少しお付き合いください。
ではまたぁ~( ≧∀≦)ノ




