【67】ゾワゾワ
「…………」
行きなり飛び出してきた光の玉に、フィリップ様は目を丸くして固まっていた。
「リゲル! いきなり飛び出してきちゃダメじゃない!」
『えー、だって、今日会う人は良いんじゃないの? フィーだって会ったんでしょ?』
「そうだけど! 色々と順序ってものがあるでしょ?」
私はあわててリゲルを両手で捕まえて、注意をした。
「フィリップ様、申し訳ございませんっ!」
勢い良く頭を下げてみたけど、フィリップ様からは何も言葉をもらえなかった。怒ったかな? と、恐る恐る顔を上げれば、固まったままのフィリップ様と目があった。
「フィリップ様?」
「あぁ、少し驚いてしまったよ」
声をかけようやく戻ってくるフィリップ様。まばたきを何度か繰り返し、首をふってからもう一度私を見た。
「本当に申し訳ございません、うちのリゲルがご迷惑を……」
「いや、いいんだ。精霊は自由なものだ。気にしなくていい。それより、少し見せてもらえないだろうか?」
心なしか、目がさっきより輝いているように見える。ふわふわの髪の毛もなんだかさっきよりもふんわりしているような……。
「フィリップ様。興奮しすぎで魔力が漏れていますよ……」
『な、なんかゾワゾワするよ……』
リゲルが不穏な言葉を発した。不安になってクロード様を見れば、ちょっと困った顔をしてこちらを、いや、リゲルが中にいる手を見ていた。
「フィリップ様はただ精霊が好きなだけなんだ。悪さはしないから」
『クロードが言うなら……、でもなんでゾワゾワ?』
まだ実体化してないけど、リゲルがちっちゃな両手で体をさすってる姿が想像できた。だって、光りもなんだかプルプルしてるし。
「リゲル、いい? ちゃんと自己紹介するんだよ?」
『う、うん。ボク、がんばるよ。でもアリス』
「うん? なに?」
『このままでもいいかな?』
このままって? なにか言いにくそうに話すリゲルは、まだプルプル動いていた。聞かれちゃ困る内容なのかもしれないと、私は声に出してしゃべるのをやめて、念話に切り替えた。
『このままって?』
『大きくならなくてもいい?』
『実体化しないってこと?』
『う、うん。なんか、ゾワゾワ止まんないから、よくわかんないけど、このまま、が、いい』
『リゲルがそうしたいなら、それでもいいよ。本当は無理なら辞めてもいいんだけど、今回ばかりはちょっと協力して欲しいの、嫌ならもう会わないでいいから』
『アリスのお願いだね! ゾワゾワ気持ち悪いけど、ボクがんばるよ!』
ギュっと光が一度縮まってから元に戻ると、もう震えていなかった。リゲル、健気な子や……。
私は、そっと自分の胸の前で手を開いた。目の前のフィリップ様から、緊張が伝わってくる。そんなフィリップ様の前にふよふよとリゲルが少しだけ近づいて、挨拶をした。
『は、はじめまして……。ボク、リゲルっていいます。よろしく、おね、がいしま、す……』
「こ、これが、異世界の、精霊……」
ワナワナとフィリップ様の手が、リゲルに伸びてきた。それに気がついたリゲルがビクッと跳び跳ね、すぐさま私の後ろに隠れてしまう。
「す、すみませんっ、怖がってしまって……」
ハッキリ言って、リゲルじゃなくても逃げる。逃げたくなるような雰囲気だった。フィリップ様、ちょっとどころじゃなく、怖いですっ!
「あぁ! もう少し! もう少しだけ!!」
リゲルじゃないけど、私までゾワゾワした。
『コラーーーーっ!!』
二人してゾワゾワしているうと、いきなり横から怒声と共にビューンと光が駆け抜けて、身を乗り出したフィリップ様に突進していった。
「フィー! なんて事をするんだ! フィリップ様! 申し訳ございません、お怪我はありませんか?!」
「いててっ、だ、大丈夫だ。気にするな」
フィリップ様がソファーに身を沈めて、フィーを受け止めていた。あわてるクロードさんだったけど、フィリップ様は全然気にしていないようで、手をヒラヒラとふってクロードさんをはらった。そんな契約者の心情なんてお構いなしにフィーは光を少し大きくしてフィリップ様に捲し立てる。
『もう! リゲルが怖がってるじゃない! これだからフィリップは!』
「フィー様、申し訳ない……、今まであったことの無い精霊様だったもので、つい……」
『ついじゃないのよ、さっきももクローが言ってたじゃない! あんたそれ気持ち悪いのよ!』
「ま、また出ていましたか! 申し訳ない! すぐに静めます!」
そんなやり取りを、呆然と見てしまった。フィリップ様が、フィーを、精霊を、様づけで呼ぶ。クロードさん→フィリップ様→フィー。の構図だ。なにがなんだか分からなかった。
「これで大丈夫だと思うのですが……」
フィリップ様からキラキラ感とふんわり感が収まった。気持ちゾワゾワも静まる。
『そこまで押さえれば大丈夫よ。ほら、リゲル来なさいよ』
フィーに呼ばれて、渋々私の後ろから姿を見せるリゲル。ゆらゆらとフィーのそばまで近寄って行った。
『も、もうゾワゾワしない?』
『フィリップの魔力が漏れてたのよ。押さえるように言ったから、もう平気よ』
『……ほんとうだ。もう、あんまりゾワゾワしないや』
『大丈夫、魔力は気持ち悪いけど、捕まえたりはしないって』
『さっきはごめんなさい。リゲルです。ボクの事、つ、捕まえない?』
今度はフィーの光と重なるように、後ろからフィリップ様に話すリゲル。そんなリゲルを見て、フィリップ様はプルプルと肩を震わせていた。
「あの……、フィリップ様?」
心配になりフィリップ様に声をかけると、いきなり大きくして仰け反り「はぁぁぁー!」と叫んだ。
『ひゃあっ!』
フィーの後ろからひょっこり出ていたリゲルは、その声にビックリして飛び上がった。
「すまない、もう大丈夫だ。取り乱した」
えぇ、それはそれは凄い取り乱しっぷりでしたね。私は引き気味に笑顔を作ったけど、きっと引きつっていたに違いない。
読んでいただきありがとうございます!
不定期になってしまって申し訳ないですが、なるべく開けずに更新していければも思います。
ではまた( ≧∀≦)ノ




