【64】初めての偉い人?
「では、後程お茶をお持ちします」
それだけ言って、おじさまは中には入らずに扉を閉めていってしまった。
目の前のクロードさんの背中で、部屋に居る人物の姿は見えないが、いると言っていた以上、いるのだろうう。お偉いさんが。
再び緊張で背筋が伸びる。
「やぁ、こちらの都合で朝からすまなかったね」
「いえ、お待たせしてしまって申し訳ございませんでした」
クロードさんが、綺麗に整った形で礼をする。あわてて私も同じように頭を下げた。
「そんなに畏まらなくてもいいよ。その為にここにしたんだろう? 防音の魔法も発動させてるし、ほら、早く座りなよ」
ずいぶんとくだけた方なのかな? そう言う人に限ってすごく偉い人だったりするからなぁ。
「はぁ、楽しみにも程があるんじゃないですか? 普通は後から来るものでしょう……」
「そんなこと言ったって、クロードがなかなか会わせないのがいけないんだ。私はずっと会ってみたかったのに」
「あなたが、仕事を真面目にしてくれていれば、もう少し早くに会うこともできたのでは?」
「そ、そう言わないでくれよ。これでも頑張った方なんだ」
なんだろう。クロードさんより偉い人なんだろうけど、クロードさんの態度が見たこと無い感じになってる……。ダメ上司を持った部下みたい……。
笑っちゃいけないんだろうけど、やりとりが楽しそうで緊張もほぐれる。
「ほ、ほら、クロード。早く紹介してくよ」
「わかりました……」
もう少しお小言を言いたい雰囲気のクロードさんが、渋々といった様子で私の方に向き直った。
「アリス、こちらへ」
「は、はい」
こちら。とか言われ、ほぐれた緊張も戻ってきてしまった。おずおずと前に進み、クロードさんの隣まで来ると、アンリイエットさんに教えてもらった通り、深く頭を下げ自己紹介をした。
「お初にお目にかかりいます。アリス・タナカと申します。まだ勉強不足のため、わからない事が多々ございます、不快に思われるかもしれませんが、どうかお許しくださいませ」
ある程度事情を説明されているとはいえ、どうか、どうか、不機嫌にならないでね! と、強く願いながら一生懸命に頭を下げた。普段使わない口調に、噛まないで言えた自分を誉めて上げたい!
「顔を上げて。もっとこっちへおいでよ」
「し、失礼いたします……」
すぐに許可がでてしまったから仕方ない。不安もあったけど、くだけた口調の相手から、あまり嫌な感じはしなかった。だから、普通に顔を上げたのだ。上げたのだよ。うん。そこには眩しいくらいの笑顔を見せた美男子が、前のめりで座っていた。
「っ!」
ま、眩しいし、近い!! そしてこの人も綺麗な人だ! フランクさんより薄い金色の、パーマなんて無いだろうからたぶん天然だろう髪は、ふわふわカールしてて日の光に透けそうなくらい光っていた。どんな手入れをしたらそんなに光るんだ……。そしてキラキラと大きく開かれた紫色のちょっとつった目は、見るからに期待の眼差しだった。
私は思わず一歩引こうとして足を動かそうとしたけど、クロードさんに背中をそっと支えられる。
「フィリップ様、はしゃぎすぎですよ」
「ああ、すまないな」
見上げたクロードさんは、あきれた様子でフィリップ様を窘めると、言われたフィリップ様は残念そうに浮いた体をソファーに沈めた。
その様子を見て、クロードさんは私を向かいのソファーに座るよう促す。指示のまま私がソファーに座ると、クロードさんも私の隣に座った。と、隣ですか?!
砦では隣になんて座った事が無かったもんだから、ビックリして思わずドキッとしてしまった。いけないいけない。こんな事で動揺してる場合じゃないや。
「アリス」
向かいから名前を呼ばれ、意識がクロードさんからフィリップ様に移る。
「はいっ」
「クロードから色々と事情は聞いたが、大変だったね。今の生活には慣れたかい?」
何処から何処までを聞いたのか、まぁ、最初から全部なんだろうけど……。フィリップ様は、子供みたいな目でこちらを見ていた。
「は、はい。今お世話になっている方たちはとても良い方で、良くしてもらっています。習慣や常識などの違いはありますが、分からないことは聞けるので、不自由してません」
「そうか。君がこちらに来たのは、精霊によるものだとクロードから聞いたよ。残念ながら精霊によって世界を渡った人の情報はこちらにはなかった。引き続き調べてはみるが、あまり期待しない方が良いかもしれないね」
「やはりそうですか……」
分かってはいたけど、やっぱりショックだった。声のトーンも気持ちもズーンと落ちていく。
うつむき加減で何も考えられないでいると、隣に座るクロードさんが、膝の上に乗せていた手にそっと自分の手を重ねてきた。
「アリス……、すまない」
「え……、クロード様が悪いわけではないですよ?」
「いや、それでも力になれなくて申し訳ない。君を返す方法は必ず考える」
「これまで色々な事をしてもらって、助けてもらっています。これ以上ご迷惑はかけられません。大丈夫です。今はショックですが、帰れないかもしれないと分かっていましたし、時間が経てば立ち直れます」
つらつらと話す私を、苦しそうに見つめるクロードさん。いつもなら赤面ものの状況も、今はそんな感情も湧いてこなかった。むしろ、手を重ねられ、温かさから少しだけ落ち着けている。
「今はこちらにも友人はいますし、なにより私にはリゲルがいますから」
そう、リゲルの存在がなにより大きいのだ。地球の、日本の、私の周りを共有できる、姉弟みたいな存在がいるだけで、今は取り乱さないでいられた。
「私も」
クロードさんの目がまっすぐ私を見つめる。
「私も、その中に入っているといいのだが……」
「え……」
視線がそらせなくて、私もクロードさんをじっと見つめていた。
「んんっ」
向かい側から咳払いが聞こえ、一瞬にして現実に引き戻された。あわてて添えられていた手を引き戻し、わたわたと振り回した。
「わわっ! も、もちろんですよ! クロード様は私の恩人なんですから、そ、それに!」
振り回していた手をぐっとにぎり、気合いを入れ直してから、私はクロードさんを見た。
「ゆ、友人だと、い、言ったのは、クロード様じゃないですか……」
えっと、誰がいるとか関係なく、そんな雰囲気になっちゃうお二人でした。
次回更新は明日と言いたいところなのですが、体調不良の為、申し訳ないですが少しお休みします(*T^T)
早く回復するように、努力します(。>д<)
ではまた(;Д;)




