【61】困ったさんのお願い
仔犬のような表情を見せる隊長さん。一瞬にして私は固まってしまった。
「え、えっと……」
ど、ど、ど、どうしたらいいのかな?! さ、さ、さ、寂しいって、どうしたらいいのかな?!
内心パニックであたふたしていた。でも、体は動かず目線も全然はずせない……。
「アリスはこちらの人間ではないのだよね?」
「はい……」
「なら、身分など気にしないで欲しい」
「はい?! いやいや、それはダメでしょう!」
隊長さんのぶっとんだお願いに、思わず敬語も吹っ飛んでしまった。
「ダメかい?」
「ダメに決まってますよね? こちらで暮らしている以上、こちらの決まりに従う方がいいに決まってますよね? 郷に入っては郷に従えってことわざにもありますよ!」
ダメかい? なんて、可愛く言われてもダメな物はダメである。いくら私が異世界から来たからと言っても、周りの人がそれを知らない以上、本人が良いと言ってもやめておいた方がいいってもんだ。何処の誰から文句を、いやこの場合、文句だけなら全然いい。刑罰とか言われたらたまったもんじゃない。
だから、しゅんと垂れた耳がうっすらと見えるんじゃないか? ってくらいの寂しい表情されても、ダメなもんはダメなのよ!
「ゴウニ? コトワザ? それが何なのかは分からないが……、では、その隊長と言うのはやめにしないか? あの場では隊の中にいたので気にはしなかったが、私はアリスの隊長ではないから……」
さらに食い下がってくるな……。こうなった隊長さんってなかなか引いてくれないんだよなぁ……。
「えっと……、どうお呼びしたら……」
「クロードと」
食い気味に呼んで欲しい名前を告げられ、ドギマギしながら隊長さんを見上げた。
「く、クロード、様……」
「様、もいらない」
「で、でも!」
「なら、事情を知っている人がいる時だけでもいい。アリスと距離があるようで嫌なんだ」
ちょ、ちょっとなんなんですかね?! ちょっと会わないうちに、隊長さんがだだっ子みたいになってませんか!?
拗ね顔も寂し顔も破壊力抜群で、こっちの思考力ガラガラと崩れていく。自分じゃ正解が分からなくて、グズグズとうなずくしかなくなってしまう。
「……、さすがに敬称を付けないのは……、元いた世界でもあまりないので、あの、で、では、クロード、さんと、お呼びしてもいいでしょうか?」
「かしこまった話し方も嫌いだ」
嫌いだって、こどもか!?
「……く、クロードさん……。これで、いいですか?」
「あぁ、ありがとう」
呼び方を【隊長】から【クロード】に変え、いつものように話しかけると、クロードさんは破顔した。それはそれは眩しくてキラキラが半端なくて、直視出来ないくらいの笑顔だった。
「し、し、知らない、人が、いる時は、戻しますからねっ! あ、後! そ、その顔しまってください!」
テンパって最後はむちゃくちゃな事を言ってしまった。
「顔? 顔がどうかしたかい?」
なんか色々と駄々漏れしてるみたいで、辛いです! さらなる追い討ちをかける勢いで、クロードさんが身を寄せてくる。私はクロードさんをどうにかその場に留まらせようと、腕を前にだして突っぱねた。
『ちょとクロードったら、アリスが困ってるわよ』
ぎゅっと目を瞑っていた私は、聞き覚えのある声にパッと目を見開いた。でも目の前にはクロードさん。
「フィー! ぎゃっ!」
可愛げもない声まで出てしまった、でも不意打ちのアップじゃ仕方ないと思うのよ!
「す、すまないっ」
クロードさんは、あわてて私から距離をとってくれた。
『で、あいつは?』
久々の再会なのに、私は大変なのに、ついでに言うとクロードさんもあわててるのに、フィーは私をあっさりと通りすぎて、リゲルを探す。
『フィー?』
リゲルもフィーに気がついたのか、ピアスからフヨフヨと出てきた。
『あんたまた寝てたの? 本当によく寝るわね』
『ふわぁー……、だってまだ朝早いよ?』
心なしかリゲルがふらふらと漂っていた。
「フィー、ひ、久しぶりだね」
私はクロードさんから逃げつつ、フィーに話しかけた。
『なに言ってんのよ、ついこの間まで一緒にいたじゃないの』
「ついこの間って言っても、もう3ヶ月はたつよ?」
『そう? そんなのついこの間じゃない。アリスも全然変わってないし』
「そ、そっか。フィーにとっては、3ヶ月なんて久しぶりの範疇にはないんだね。はは……」
私にとっては、だいぶ時間が過ぎてるって思えても、フィーにとっては、それほどの時間ではないらしい。精霊と人では、流れる時間の感覚が違うらしい。
『アリスったら、そんなに淋しかったの?』
ちょっと意地悪な声色のフィーの質問に、座り直したクロードさんが視界に入り、不意にドキッと心臓が跳ねた。
「さ、淋しいとか、べ、別にそんなんじゃっ」
そんなハッキリと淋しかったとか、恥ずかしすぎて面と向かって言える訳がない。いやいや、そりゃ会えないのは淋しかったけどさ、言えないよね? 普通言わないよね!?
『ボクはフィーに会えなくて、ちょっと淋しかったよー』
『そ、そうっ。わ、私は淋しくなんて、なかったわよ』
純粋で素直なリゲルの発言に、フィーがワタワタしている。ほら、言われても困るんじゃんない。
そんな二人を見ていると、ちょっと可笑しくて笑えてきた。
「王都に来てから、生活変わってちょっと忙しかったんだよ。でも、フィーに会えなくて私も淋しかったよ?」
仕返しにフワッとフィーを手の中に捕まえて、リゲルを見習って正面から正直に言ってやった。
『な、な、なに?! アリスまでっ! ほ、本当に淋しがり屋さんたちね!』
フィーは不自然な動きになって、ピューっとクロードさんの元に戻っていった。
久々のこの感じ。うん、フィーは相変わらず可愛いねぇ。
そう思っていたのは私だけではないようで、フィーが戻っていく先を見れば、クロードさんもふんわりと笑っていた。
っぐは! それ、その笑み! 尊すぎる……。
ぐっと1人胸を押さえて耐えていた。その様子を見られていたらしく、クロードさんがごほんと咳払いをしてから話しかけてきた。
「アリスは、まだ、その、慣れないのか?」
クロードさんの問いかけが何なのか、ちょっと分からなくて首を傾げる。はて、何の事かな?
クロードさんも、答えにくそうに顔を反らした。
「わ、私の顔、にだ。」
少し照れたように頬を赤らめながらそう言われ、クロードさんの言った言葉を頭の中で繰り返した。
久しぶりの再会で、何がどう壊れちゃったのか。
何だか甘い雰囲気の二人です( 〃▽〃)
グイグイくる隊長さん、改めて、クロードさん。
今後の展開に期待です!
誤字報告ありがとうございました(汗)
何度も読み返してはいるのですが、見落としました( ノД`)…
いつも読んでいただきありがとうございます!
次回更新はまた明日~( ≧∀≦)ノ




