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【51】少女からの呼び出し


 シャルテが帰ってから少しした7刻、お店が終わり片付けをしている最中に、私はアンリエットさんにこれから出掛けてくる事を伝えた。


「アンリエットさん、ちょっと広場の方まで行ってきても良いですか?」

「広場かい? なんだってまたこんな時間から?」

「ちょっと見たいものがあって」


 何となく、呼び出された事を隠してしまった。


「まだ明るいけど、気を付けるんだよ」

「はい、そんなに遅くならないと思います。すぐに帰ってきます」


 ダメって言われなくて良かったとほっとしながら、テキパキと店内を掃除して最後に砦で覚えたクリーン魔法を使って仕上げていった。


「いつもありがとね」


 この魔法を最初に使ったときにはちょっと驚かれたっけ。でも、店中キレイになるもんだから、すっごく喜ばれて嬉しかったけどね。

 制服代わりのエプロンを外してカウンター奥のフックにかけると、身だしなみを整えてからお店を出て広場へと足を向けた。


 このくらいの時間でもまだ人では多くて、ビックリする。砦にいた頃はもう夕食を食べている時間帯なのだ。王都に来て思ったけど、夕方から夜にかけての過ごし方が、砦とはちょっと違った。お店だし仕事終わりって言われてた6刻半なんかに閉めてたら商売にならない。だから半刻とはいえ閉める時間が遅い。住宅が一緒になってることもあり、飛び込みで来るお客さんとかもいるけど、そういう人はだいたい常連さんだった。

 もちろん食堂や酒場なんかは、もっと遅い時間までやってる。さすがに24時間、もとい12刻営業なんて店はないけど、全体的に王都は夜でも賑やかだった。


 行き交う人を見ながら広場まで向かう。一日のほとんどをお店で過ごしていたけど、お休みの日とかはちょっと買い物に行ったり、リュカを案内人に観光をしたりしていた。まだ数回しか外に出てないから、外に出るたびにウキウキしてしまうのだ。それが例え呼び出しでも。


「さあ、どこにいるかな?」

 

 噴水の前まで来てみたけど、シャルテはまだ来ていなかった。すぐそばのベンチに座りふーと一息ついた。


『ねぇねぇ、ここ来るの久しぶりだよね!』

『そうだね、来たばかりの時にリュカに連れてきてもらって以来かな?』

『噴水で遊んで良い?』

『あんまり目立つようなことしなければ良いよ。ちょっと待ってね……、うん、今なら大丈夫』


 周りの人がまばらな事を確認すると、リゲルが左のピアスからひょこっと出てくる。ささっと私の背中に移動してパチンっとかシュッとか小さく音がした。うっすらと姿が見えにくくなったリゲルが、ウキウキした様子で噴水に向かっていった。季節は冬。噴水遊びとかして寒くないのかな?

 時々噴水口の下に溜まった水が不自然に跳ねる。豪快とは言えない控えめな水遊びだった

。リゲルはほとんど私から離れない。ほぼ店にいる事になるんだけど、つまらなくないのかな? と思って聞いてみたら、お店の中は楽しいモノでいっぱいだし、お客さん観察も楽しいらしい。リュカの弟妹を近くで見るのも好きらしい。家の中だったら好きに移動もしていた。


「ま、待たせたわね」


 噴水で遊んでいるリゲルを見ていたら、シャルテが来たことに気づかなかった。

 彼女は少し肩で息をしながら、急いで来た事が見てとれた。


「そんなに待ってなですよ、隣座らないんですか?」


 ストンとシャルテが隣に座る。ちょっと間が空き焦れったかった。呼び出しておいてなんなんだろう……。


「あのー、用件は?」


 しびれを切らして私からシャルテに話しかけると、シャルテはスーッと深呼吸をしてから私に向き直った。


「あ、あなた、リュカとどういう関係なの?!」


 ど直球の質問にビックリしてしまった。目を丸くしてシャルテを見ながら、この子がどういう意図で質問してきたのかを考える。でも全然わからなかった。というか、シャルテが誰かも分からなかった。で、私は思う。分からなければ聞けばいいのだ。


「その前に、あなたは誰ですか?」

「私?! 私はシャルテよ」


 名前はアンリエットさんとの会話で既に知っている。それ以外の情報が欲しいのだ。


「名前はさっきアンリエットさんと話をしているのを聞いていたので知ってます。それ以外でお願いします。私の事を聞くなら、まずは自己紹介しましょう」


 色々と聞きたいなら、名乗らないのはちょっといただけない。

 まじまじとシャルテを観察しながら言ってみた。少し動揺した感じのシャルテが、言い淀みながら自分の事を話し始めた。


「と、隣の、食堂の娘よ……、り、リュカとは、小さい頃から、の、し、知り合いよ」


 おおおおお! お隣さんの幼馴染みちゃんだ! この子が! この子が! あの! 幼馴染みだ!!


 ちょっと浮わついた気持ちを押さえつつ、リュカの想い人をウキウキしながらじっくりと見た。見てしまった。


「な、何よ! 気持ち悪いわね!」


 ちょっと見すぎてしまったらしい、シャルテは眉間にシワを寄せ、体を私とは反対方向にずらした。


「ごめんなさい、見すぎました」


 素直に謝ると、シャルテも体をもとの位置に戻した。眉間にシワは寄せたままだったけど。


「で、あなた。リュカとどういう……」

「アリスです。東の森の奥にある村で育ちました。魔物に追われている所を討伐部隊の方に助けられ、砦でお世話になり王都に連れてきてもらいました。リュカは、右も左もわからない私を世話してくれて、仕事まで紹介してくれた恩人です」


 決めてあった設定と、リュカは恩人。を全面に、決して甘い関係では無い事を一気に伝えた。よし! これで誤解されない!


「せ、世話って、仕事って、なんでそこまで」

「私、田舎者で、全然常識なかったんです。リュカって親切ですよね。さらっと男前な事してくれちゃうし。面倒だったに違いないのに、丁寧に教えてくれて、路頭に迷いそうだった私に仕事まで紹介してくれて。すごく助かりました」


 リュカ良い奴アピールもしっかりしておく。でも、思っていた反応と少し違った。同意してくれると思ったのに、わなわなと体が震えて拳まで握っている。


「どうしたんですか?」


 覗き込む様にシャルテを見ると、下唇を噛んで必死に何かを堪えているようだった。


「ええ? 私何か変なこと言いました?」

「べ、別になんでもないわよ!」


 何でもないなんて事は無い。何だかとっても怒っているように見えた。何故だ、どこで間違えた!?

 予想外の反応に戸惑う私は、どうしたものかと頭を悩ませていると


「あ、アリスじゃん。どうしたのこんなとこで」


 シャルテの背の方角から、今まさに話題に上がっているリュカが歩いて来たのだ。


「あ、リュカ。お帰り」


 いつものように仕事帰りのリュカに返事をすると、シャルテがビクッと方を震わせた。


「あれ? シャルテ? 何々? なんで一緒にいんの?」


 私が件の幼馴染みと一緒にいるとわかり、明らかに同様するリュカ。ちょっと落ち着きなさいよ。


「お前こんな時間に抜けて平気なのか? 忙しいじかんじゃないの?」


 リュカさん、ちょっと口調が砕けてますね。うんうん。いいですね、新鮮ですよ。ムフフ……。

 リュカの態度を面白く見ていると、シャルテが突然立ち上がり、キッと私を睨んでからリュカを見た。


「これから帰るわよ!」


 それだけ言ってシャルテは振り替えることもせずに、広場から足早に去っていった。


「えー……、なんで怒ってンの……」

「さぁ、なんででしょうかねー……」


 取り残された私とリュカ。どうやらリュカの幼馴染みとお友だちになれたらいいな、初対面編は、失敗に終わったようだった。

 気落ちした二人は、トボトボと家路に着いたのだった。



 この後、事態がもっと複雑になる事を私はまだ知らなかった。

 

読んでいただきありがとうございました!

もしよろしければ、応援よろしくお願いします(*´艸`*)


ではまた明日~( ≧∀≦)ノ

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