【50】突然の訪問
このお店の客層は様々だった。いかにも冒険者風って人もいれば、お母さん的な人もいるし、若い人もいる。取り揃えている商品もバラバラで、広い店内に、コーナー別に並べられていた。
さっき来た冒険者のおじさんが買っていったポーションなんかは、奥の倉庫から取ってこなくちゃいけない物もあったり。
砦で使っていた魔物の血が落ちる石鹸も、商品棚に並べられていた。これは主に、冒険者の奥さんや、解体屋さんの奥さんが買っていった。一応解体屋にも卸しているみたいなんだけど、家でも使うらしい。
他にも地球でいうキャンプ用品的なものや、可愛い小物類なんかもあって、お店にいるだけでもちょっと楽しかったりする。
でもね、でもね、ピってして金額が出てきてくれるレジなんて無いしね、値札シールも無いしね、本当に大変なのはそこだった。ポーションや石鹸は覚えられても、細々とした物はなかなか覚えきれなくて、値段以外にも、使い方とか聞いてお客さんもいるわけで……
「あの、これなんだけど……」
「えっと……、ちょっとお待ちください」
聞かれてわからないものは、まずメモを見る。それでもわからなければアンリエットさんに聞くのだ。
「アンリエットさん、この商品なんですけど……」
「はいよ、あぁこれは……」
お客さんに説明しているのをしっかりと聞いて、自分も覚える。それの繰り返しだった。
だいたいお店に置いてあるものは定番商品ばかりで、新しい商品は滅多に入ってこないのが救いだった。
「あぁ、こんなんじゃ早く覚えられないや……、どうにかなんないかなぁ」
と、閉店間際で客が途絶えてきた時間に売場を見ながら考え込んでいた。
「アリスは覚えが早いと思うよ。そんなに落ち込まなくても十分やってくれてるから、気落ちしなさんな」
自分なりにメモを分類分けしたり、すぐに聞かれた商品について調べられるようにしてるつもりでも、なかなかパッと出来なくて、反省の日々だった。
「それにしても、アリスは文字を書けるのも凄いけど、絵もうまいんだね。これはポーションで、これは石鹸かい? ランタンやコップ類もあるんだね」
「あ、わかりますか? えへへ。絵を書くのは小さい頃から好きだったんです」
私のメモ帳を横から見ていたアンリエットさんが、驚き感心したように目を丸くしていた。
体を動かすのが好きで、男の子とスポーツをしていた日々だったけど、いざ家に帰れば絵を描くばかりだった。授業のノートにも持ち帰るプリントにも絵を描いてたくらいだ。
「あ! そうだ! 商品棚に説明書きしても良いですか?」
「説明書きかい?」
商品棚に商品の説明書きをしておけば、お客さんが読んでくれて説明も省ける。
「そんなことして、誰が読めるってんだい。文字が読める人の方が少ないってのに、あまり意味がないよ」
「あー、そっかぁ。読める人すくないんでしたね……」
うっかりしてたけど、この世界の識字率は低いんだった……。ノートを見なくてすむし、すぐに答えられると思ったんだけどなぁ。
提案は失敗かと思たんだけど、それなら絵はどうだろうか。
「説明を、絵で描いたらダメですか? それなら文字が読めなくてもわかりませんか?」
「絵かい? アリスも面白いこと考えるね。絵で説明って難しくはないのかい?」
「んー、全部は無理だと思うんですけど、たぶん描けます。今売りたい商品だったり、目玉商品なんかは、絵があると売れやすいと思うんですよ。わ、私も多少描いてあった方が説明しやすいですし覚えられそうなので……」
そちらかと言えば、後者の方が本音だった。
「お店の雰囲気に合わないようなら、やめておきますけど……」
アンリエットさんは、少しだけ考えてから
「いいよ、やってみな。常連さん以外の客も増えてきてるし、試してみるかね」
やってみてもいいと言われて、思わずガッツポーズを作ってしまった。人が増えるなら急いで作らなきゃと思い、絵を描く商品をアンリエットさんと一緒に考えることにした。もちろん棚に小さな値札も貼らせてもらえることになり、助かったのは言うまでもない。
チリリーンーーーー
ドアベルがなり、アンリエットさんと一緒に入り口を見た。私と同じくらいの女の子が店内に入ってくるところだった。
「いらっしゃいま」
「おばさん、こんにちわ!」
来店の挨拶に被せて、女の子がガツガツとカウンターに近寄ってきた。その顔はニコニコとしていたけど、目だけは笑ってないように見えた。
「ああ、シャテルかい。いらっしゃい」
シャルテ。そうアンリエットさんに呼ばれた女の子は、薄茶色の瞳と目と同じ色の髪をポニーテールに纏めた活発そうな感じの子だった。
髪色がどことなくクラスにいた友達と似ていて、ちょっと親近感がわく。
「今日はどうしたんだい?」
「お母さんに頼まれて買い物です」
「言ってくれれば届けたのに、何がほしいんだい?」
シャルテは一度も私を見ずに、アンリエットさんとだけ話をしていた。シャルテがいくつか欲しいものを言うと、アンリエットさんが品物を揃えにカウンターから出ていく。
「ねぇ」
何となく、無視されている感覚があったから、あえて話しかけなかったのだけど、以外にも向こうから声をかけてきた。なぜか小声だったけど。気のせいだったかな? でも、声に少しトゲがある気がした。
「なんでしょうか?」
アンリエットさんの知り合い? 店の常連さん? なのかはわからないけど、私は初対面なので敬語で対応する。
「あなた、誰?」
「先月からこちらでお世話になってます、アリスです。アナベラさんの替わりにお店で働くことになりました。不馴れなためご不便をお掛けすることもあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
すっと腰を折ってキレイにお辞儀をした。
アンリエットさんと仲良かったし、これくらい丁寧にしておけば間違いないかな?
「そういうことじゃなくてっ」
私の対応にちょっと驚きながら、聞きたい事が違ったみたいだった。んーと考えてから身元の不鮮明さも明確にしておいた。
「あ、リュカと、えっとクロードさん、っじゃなくて、クロード様の紹介で働かせていただいています」
隊長さんは貴族だったと思い、さん付けを様に変えて答えてみた。久しぶりに隊長さんの名前を言ってったからとょっとドキドキしてしまったのは仕方ないと思う……。
「!?」
一瞬にして驚きの表情になる。なんか、私間違えた? 隊長さん、顔が利くんだよね?
「お店終わったら、ちょっと話があるんだけど」
「話、ですか?」
「そうよ、広場に噴水があるでしょ。そこに来てよ」
「はぁ……」
「いい、絶対に来なさいよ」
チラチラと店内を見ていたシャルテは、アンリエットさんが戻ってくるのを見ると話は終わりと、アンリエットさんの方に行ってしまった。
体育館裏ではないにしろ、呼び出しを食らってしまった。のかな? 最後ちょっと怖かったし……。っていうか、誰なんだろう……。
アンリエットさんと仲良く話すシャルテは、笑顔も可愛いのに、私にはその笑顔を向けてくれなかった。なんだか不安になるような展開だったけど、こっちに来てリュカの家族以外の女の子との接触に、ちょっとだけ期待もあったりしたのだった。
文字ではなく絵のPOPを描くことになりました。
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ではまて明日~( ≧∀≦)ノ




