-46- 【閑話】フィーの実体化
フィーの昔の話しです
あわてて訂正するが、一度言ってしまった言葉は無かったことにはできない。どう謝ろうかと悩んでいると、フィーがふよふよと肩から降りてテーブルの上に乗った。
『クロードは、見たいの?』
「気を悪くしたのなら謝る。すまない、軽率だった」
言い訳は無しだ。潔く頭を下げると、同じトーンでもう一度聞かれた。
『別に怒ってもないし気分も悪くないわよ。それより、クロードは私の姿、見たいの?』
怒ってないと言うなら、素直に言ってしまって良いのだろうか。これは何かの試練なのだろうか。じっとフィーを見つめ頭を悩ませていると
『クロードになら、良いわ……』
呟くように小さな声が聞こえた。
「本当にいいのか? 無理はしていないか?」
『……いい』
そう言うとフィーはフワッと浮いて、私の近くまで来た。
『クロードの魔力ちょうだい……』
心なしか声のトーンが低い気がした。本当に私はフィーに無理強いをしているのではないか。
「フィー、君の嫌がることはしたくない」
『そ、そうじゃ、ないのよ……。クロードは私を見ても、嫌いになったりしない?』
「嫌いに? ならないよ。どんなフィーであっても、私が君を嫌いになることはないよ」
フィーは何かしら自分に自信がないようだった。いつものフィーらしくない。なるべく優しいトーンでフィーに語りかけた。
『ホントにホント?』
「あぁ」
私はそっとフィーを両手で包み込んだ。
「いいかい?」
『えぇ、お願い』
ゆっくりと魔力をフィーに流していく。先日見たリゲルの様に強い光を放ち、パチンと四散した。何度見ても驚き心配してしまう。だがそんな心配も不要で、光が集まりポンッと音をたてて白い塊が現れた。
見た瞬間に心が踊る。まだ丸まって顔を見せてはくれないが、体を覆うくらいの長い豊かなプラチナシルバーの髪。水色と白のストライプの大きめのリボンが可愛かった。服は髪の毛に隠れて見えなかった。実体化してしばらく、フィーは丸まったまま動かない。
「フィー?」
『……変じゃ、ない?』
フィーの言葉の意味がわからなかった。変も何も、うずくまって顔すら見てないのだ。
「フィー? 顔を見せてくれないか? 君はどこも変じゃないよ?」
『本当に? か、髪の毛。気持ち悪くない?』
「髪の毛? 長くて綺麗だ。リボンも似合っている。私の色と一緒だな」
今現在、見えているのは髪の毛とリボンだけ。髪色は私と一緒のプラチナシルバー。ツヤツヤした豊かな髪はとても綺麗だった。
ガバッとフィーが顔を上げる。そこには大きく見開かれた濃いブルーの瞳があった。キラキラと光に反射して吸い込まれそうだった。
『クロードと一緒……』
フィーは大きな瞳で私の髪の毛を見ていた。
「あぁ、瞳も素敵な色だ。思った通り、フィーは愛らしいな」
リゲルを見たときから、フィーの姿を想像していた。勝ち気な性格で世話好きのとても元気な精霊。きっと愛らしいに違いないと。
実際に見たフィーは、プラチナシルバーの髪の毛は、その体を覆うくらいの長さだった。結い上げるでもなく、カチューシャのように付けられたストライプのリボンが頭の上で揺れていた。
瞳は濃いブルーで、今は少しだけ潤んでいるように見える。フリルのついた水色のシャツに青のリボンを付け、白のスカートは膝丈でフィーの動き似合わせてなびいていた。
シャツと同じ水色のハイソックスには青色のリボンが付いている。靴も青でこちらには花が付いていた。
『クロードと、同じ色……』
「フィー? どうした?」
フィーの瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。驚いたが、意味がわからなかった。掌で私を見たまま泣いている。どうしていいのかわからず焦ってしまった。
「フィー! どうした!? 何か間違えたか!? すまん! な、泣き止んでくれっ」
『クロードっ、ち、違うのっ、謝るとこじゃないわ。私、嬉しくって……』
「う、嬉しい、のか?」
『えぇ、すごく、嬉しいの……』
すごく嬉しいと、涙を流しながらフィーが笑顔になった。とりあえず、私が間違えてフィーを泣かした訳ではなさそうでホッとする。涙を拭きながらフィーはポツポツと泣いたわけを話してくれた。
精霊にとって色は大事なものらしい。属性を表す色は、精霊の誇りなのだとか。本来風の精霊は、水色か緑色といった色を持つのだそうだ。火の精霊は赤色か青色。水の精霊は水色か青色。土の精霊は緑色か茶色。等々……。かぶる色はあるが他属性の精霊とは若干の違いがあり、全く同じ色では無いらしい。個々の状態でその色は生まれ落ちた瞬間から決まる。そんな色の中、フィーは瞳の色こそ青だが、髪色がほぼ白に近いシルバーだった。
精霊が生まれる里があるらしい。場所は言えないが自然の魔力がとても濃く、殆どの精霊はそこで生まれる。生まれると精霊王の元へと導かれるのだが、私は違った。生まれた場所は里ではなかった。そうした精霊も少なくはない数がいる。そしてそういう精霊は心の赴くまま里にやってくるのだ。
私も突き動かされるまま、里へと辿り着いた。森から遠巻きに中を覗いて、自分と同じ存在が多数いるのを見て、心踊らせた。しかし結界が施された里に入ると、ポンと実体化した。そして、実体化した私はそこで初めて自分が他の精霊と少し違うと気づいた。
風を操る無色の精霊。多くの精霊は、そんな私の事を面白おかしくからかい始めた。時にはイタズラをされる事もあった。悪意があってやっているわけではない、ただただ楽しいのだ。あの無色はこうしたらどうするのか? なんで無色なのか。自分達とはなんで違うのか。そんなもの、自分が知りたかった。生まれたばかりの頃はその好奇の目がすごく嫌いだった。だから、里ではいつも隠れていた。どれだけそうしていたかは忘れたけど、ある日私の元にひときわ輝く精霊が現れた。精霊王さまだった。
精霊王さまはそんな状態の私に優しく声をかけてくれた。いろんな事を教えてくれた。色が無いだけで、他者より劣っているという事は無かった。むしろ他者より優れていた。それで少し自信が持てた。自分は他の精霊とは見た目が違うかもしれないけど、力は違わない。精霊王さまも忙しいだろうに、ちょくちょく私の所にきてくれた。会いたいときは私から行くと言ったら、絶対に来てくれないし手続きが面倒だから嫌だと言われた。ちょっと嬉しかった。それからも精霊王さまに色々と教えてもらいながら、里でも溶け込めるように頑張った。それでも一部の精霊からのイタズラや好奇心は変わらずで、その度に力を示して黙らせた。でもさらにエスカレートすることもあった。私は悶々とした日々を過ごした。
たまに現れる色の薄い子や弱い子の助けもした。自分と同じ思いはしてほしくなかったから。でも、なかなかうまく行かない。優しくしてくれた精霊王さまと同じことがしたいのに、気恥ずかしさから、どうしてもキツい言い方になってしまう。どうしたって孤立してしまう私は、いい加減嫌になって里を飛び出した。
そんな経由があり、自分の髪色が好きではないのだと、フィーは教えてくれた。
自分と同じではないだけで、好奇の目にさらされ続けたのであれば、実体化をしようとは思わないだろうな。フィーには本当に悪い事をした。
「フィー、すまなかった。そんな事情があるとは知らずに、無理を言った」
全部話して落ち着いたフィーは、目の周りを赤くしながら落ち着いたようすで笑った。
『クロードに言えて良かった、クロードと同じ色で良かった! クロードが契約者で私すっごく嬉しい!!』
他者と違うことで辛い想いをしてきたフィーが、自分と同じ色を持つパートナーと出会えたのだ。喜んだ顔は、とても愛らしく守ってあげなくてはと思うのだった。
フィーも色々とあったけど、実体化は可愛いなぁと言う話でしたw
実体化したフィーにクロードはメロメロです。
真綿に包んで守ってあげたいような存在です。
気持ちを書いてて、クロードが二股かけてるような感じになってる気がするんですが、なんとなくアリスとフィーだと守るの意味合いが違います。家族愛的なものですかね。
次回の更新から新章が始まります。
今着々と執筆中なので、もうしばらくお待ちください。




